シンカー:日銀は10月の展望レポートで、「海外経済の減速の国内需要への影響は、限定的なものにとどまると見込まれる」と判断している。日本経済が内需を中心にアベノミクス前と比較して海外景気の減速に対して著しく頑強になってきていると、日銀は判断しているとみられる。この判断が維持できるかどうかが、追加金融緩和の是非を決するとみられる。実際に、2017年以降の実質GDP前期比と鉱工業生産指数前期比の相関係数は+0.1と弱く、2014年から2016年までの+0.7から大きく低下している。この間、外需の実質GDP前期比に対する寄与度は、年率+0.6%から0.0%へ、ほとんど消滅している。7-9月期までの1年間で鉱工業生産指数は外需の弱さにより-0.5%も低下しているが、実質GDPは内需に支えられて+1.9%も拡大し、デカップリングが鮮明になっている。内需主導の経済成長が明確になる中で、生産動向だけで景気循環を見ることが適切ではなくなってきている。堅調な内需に加え、新たな政府の経済対策が弱い外需を補い、2020年も+1%程度の潜在成長率なみの実質GDP成長率を維持できると予想する。
11月の失業率は2.2%と、10月の2.4%から低下した。労働条件がかなり良好となったことに引き付けられた新たな労働者が労働市場に参加するなどして、7月以降に労働力人口は前月比で4か月連続増加してきた。企業の人手不足は深刻で、採用意欲は強く、そのほとんどを吸収し、就業者もしっかり増加してきた。ただ、あまりに速い労働力人口の増加ペースと天候不順などもあり、吸収しきれなかった分が、失業率が7月の2.2%から10月の2.4%に若干上昇した原因となった。11月にも労働者が順調に就職し、失業率は低下に転じたと考えられる。11月の有効求人倍率は10月の1.57倍から変化はなかった。有効求人倍率は1月の1.63倍から低下してきた。新たに労働市場に参加する労働者が増えたことと、人手不足でなかなか採用が進まない企業が求人を出すことを躊躇していることが影響してきていたとみられる。有効求人倍率は9月から1.57倍と横ばいになっている。有効求人倍率は下げ止まり、失業率も再び低下したことは、グローバルな輸出環境が低迷している製造業の求人に下押し圧力がかかっていることが、労働市場にそれほどの影響を与えていないことを示すと考える。引き続き雇用・所得環境は良好であると判断する。
11月の鉱工業生産指数は前月比?0.9%と、2ヶ月連続の低下となった。誤差修正後の経済産業省予測指数の同-1.8%は大幅に上回った。しかし、10月に同-4.5%と、台風などの自然災害によるサプライチェーンの損傷と輸出の滞り、そして消費税率引き上げの影響で大幅に落ち込んだ後としては物足りない結果であった。経済産業省は判断を「弱含み」としている。実質輸出は下げ止まりの動きはみせているが、持ち直しの動きはまだかなり鈍い。11月になると通常は年末・年始商戦向けの受注が増えるが、消費税率引き上げ後ということもあり、その動きが遅れていることで、生産者が商戦に向けた在庫積み上げにかなり消極的になっているとみられる。しかし、鉱工業生産の中身をみると、これまで下押しとなってきたIT関連財の在庫調整が一巡してきていることが確認できる。7-9月期は、半導体を含む電子部品・デバイス工業の生産が前期比+3.4%(4-6月期同-2.3%)と3四半期ぶりに増加した。11月の生産も前月比0.1%と2ヶ月連続で増加している。良好な雇用・所得環境を背景に、政府の消費支援策などにも支えられて消費税率引き上げ後も内需は堅調であるとみられ、12月には年末・年始商戦に向けた急激な作り込みがあり、鉱工業生産指数は強く上昇する可能性がある。11月の在庫指数は前月比?1.1%と低下し、作り込みが遅れてい事を示している。それでも、10-12月期の生産指数は、7-9月期の前期比-0.5%に続き、2四半期連続で低下するとみられる。12月・1月の経済産業省予測指数は前月比+2.8%・+2.5%と、強いリバウンドの予想となっている。
7-9月期は、生産が落ち込む中で、実質GDPは前期比年率+1.8%と、+1%程度の潜在成長率を上回る強い結果であった。日銀は10月の展望レポートで、「海外経済の減速の国内需要への影響は、限定的なものにとどまると見込まれる」と判断している。日本経済が内需を中心にアベノミクス前と比較して海外景気の減速に対して著しく頑強になってきていると、日銀は判断しているとみられる。この判断が維持できるかどうかが、追加金融緩和の是非を決するとみられる。実際に、2017年以降の実質GDP前期比と鉱工業生産指数前期比の相関係数は+0.1と弱く、2014年から2016年までの+0.7から大きく低下している。この間、外需の実質GDP前期比に対する寄与度は、年率+0.6%から0.0%へ、ほとんど消滅している。7-9月期までの1年間で鉱工業生産指数は外需の弱さにより-0.5%も低下しているが、実質GDPは内需に支えられて+1.9%も拡大し、デカップリングが鮮明になっている。内需主導の経済成長が明確になる中で、生産動向だけで景気循環を見ることが適切ではなくなってきている。堅調な内需に加え、新たな政府の経済対策が弱い外需を補い、2020年も+1%程度の潜在成長率なみの実質GDP成長率を維持できると予想する。
※次回のアンダースローは1月6日になります。本年もお読み下さり、ありがとうございました。来年はデフレ完全脱却への重要な足掛かりの年になると考えています。
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司