一万円札、五千円札、千円札のデザインが2024(令和5)年に変更されることになりました。新たなデザインの登場は楽しみではありますが、現在世界では高額紙幣が廃止される動きがあり、日本でも「一万円札はいずれなくなるかも」と言われています。なぜなのでしょうか?

世界では「高額紙幣廃止」の流れ

高額紙幣
(画像=PIXTA)

海外で高額紙幣が廃止された事例をいくつか見てみましょう(※以下、為替レートで年月の記載のないものは2019年5月14日現在のレートを使用)。

シンガポールでは、2014年10月に1万シンガポールドル(当時のレートで約85万円)の発行が中止されました。スウェーデンは、2013年末に1,000クローナ札(当時のレートで約1.6万円)を廃止。EUでは2016年5月、欧州中央銀行により500ユーロ紙幣(約6.1万円)の発行停止が決まり、今年の初めから回収が始まっているそうです。

インドは2016年11月、1,000ルピー札(約1,560円)と500ルピー札2種類の高額紙幣の廃止を発表しています。新たに2,000ルピー札を発行しているため、高額紙幣を完全になくしたわけではありませんが、全体的に高額紙幣の発行量を減らしているようです。

このほか、アメリカやカナダ、オーストラリアも高額紙幣の廃止を検討していると言われています。

日本でも「1万円札はなくていい」という意見が

この世界的な流れは、日本にも波及するかもしれません。決済方法で「現金」の割合が高い日本で、一万円札がなくなることは想像がつかないかもしれませんが、実際に「一万円札はなくてもいい」という意見が出ています。

米国ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授は、著書『現金の呪い』の中で「一万円札を廃止すべきだ」と主張しています。元イングランド銀行金融政策委員のウィレム・ブイター氏も、2017年に日経新聞で「高額紙幣を廃止して強制的に銀行に預金させ、日銀による集中管理型デジタル通貨に移すべき」と述べています。

高額紙幣を廃止することによるメリット

高額紙幣をなくすメリットとして考えられるのは、「印刷や輸送、回収などのコストを削減できる」「マネーロンダリング対策になる」「脱税対策になる」などでしょう。

マネーロンダリングとは、犯罪行為で得た不正なお金を転々と移動させて、お金の出どころなどを分からなくすることです。特に欧州では、高額紙幣どころか現金で高額な取引をすること自体を禁止する動きがあります。ベルギーは、1993年施行のアンチ・マネーロンダリング法で現金での買い物の額を制限し、1万5,000ユーロまで(2014年1月以降は3,000ユーロまで)しか使えなくなったほか、不動産は現金では買えなくなっているそうです。

現金が脱税に使われることが多いのは、銀行での送金やクレジットカードによる支払いなどと異なり、匿名性が高く、決済情報が記録として残らないからでしょう。誰から誰にいくら払ったかが、第三者に分かりづらいのです。

高額紙幣を廃止すればキャッシュレスが進む?

一万円などの高額紙幣が廃止されると、「キャッシュレス決済」が推し進められることになるでしょう。

たしかにキャッシュレス決済が普及すれば紙幣を印刷するコストもかからず、お金の移動が確認しやすくなるため、マネーロンダリング対策や脱税対策にはなりそうです。

高額紙幣が廃止されると、本当にキャッシュレス化が進むのでしょうか。2013年末に1,000クローナ紙幣を廃止したスウェーデンでは、すでにキャッシュレス決済が普及しています。「全小売店の半分が2025年以降、現金を受け付けなくなる」と言われるほどです。

日本では、高額紙幣の廃止検討とは別に、政府がキャッシュレス決済の比率を高めようと努力しています。政府は、その比率を2025年までに40%まで引き上げたい考えです。

今後、世界では高額紙幣が減っていく可能性が高いです。いきなり「現金がまったくない世界」にはならないでしょうが、日本経済新聞も「紙幣の需要が減っていくなかで、今回が実質的に最後の紙幣刷新になる可能性は否定できない」と述べています。はたして、渋沢栄一氏の一万円札が最後となるのでしょうか……。

(提供=auじぶん銀行)

執筆者:鈴木まゆ子(税理士)

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