税金
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中川崇
中川崇(なかがわ・たかし)
公認会計士・税理士。田園調布坂上事務所代表。広島県出身。大学院博士前期課程修了後、ソフトウェア開発会社入社。退職後、公認会計士試験を受験して2006年合格。2010年公認会計士登録、2016年税理士登録。監査法人2社、金融機関などを経て2018年4月大田区に会計事務所である田園調布坂上事務所を設立。現在、クラウド会計に強みを持つ会計事務所として、ITを駆使した会計を武器に、東京都内を中心に活動を行っている。

日本には多くの税金があり、その形態は多様である。それらの分類手法はさまざまだが、ここでは、主に直接税と間接税を取り上げる。

直接税、間接税とは?

税金の分類のひとつに「直接税」と「間接税」がある。ここでは、その定義について述べる。

直接税

直接税は、税を納めるべき人と負担する人が同じものを指す。例えば、法人税は会社が自分自身で税金の対象となる収益を申告して税金を納める。この場合、税を納める人と負担する人が同じのため、直接税といえるのだ。

直接税の長所は、多くの収入を得られる人から税金を取得するといった柔軟な対応ができ、貧富の差を解消することが可能な点だ。景気が低下して所得が急減したときに、税金を少なくすることで手取り額が大幅に落ちることを防ぎ、景気が急降下することを防止できる。

反対に、景気が上昇して所得が増加した場合、税金が増加分以上に上がることによって、手取り額がそれほど増えないという点は短所といえる。これにより、事業意欲や勤労意欲が失われるのではないかといった指摘もあるのだ。その他、所得によっては課税ベースの把握が難しいという欠点もある。

間接税

間接税は、税を納めるべき人と負担する人が異なるものを指す。例えば、消費税を実質的に負担しているのは、最終的に物を買ったり、サービスを受けたりする消費者だが、実際に納めるのはその物を販売したり、サービスを提供したりする業者だ。そのため、税を納める人と負担する人が異なることから、間接税であるといえる。

長所としては、負担感が少なく、事業意欲や勤労意欲が失われることがあまりないという点だ。一方で、税金を負担する人の事情が反映しづらく、そのために低所得者の負担が増えるといった逆進性が発生する可能性がある点は短所となる。

直接税は「垂直的公平」、間接税は「水平的公平」

税金は公平でないといけないといわれているが、公平さについては「垂直的公平」と「水平的公平」の2つがある。ここでは、それらについて説明する。

垂直的公平

垂直的公平とは、能力の高い人ほど税金を納める能力が高いと考えられるため、より多くの税金を納めるのが公平である、という考え方を指す。

水平的公平

水平的公平とは、所得と納税能力が同様の人は同じ税金を納めるのが公平である、という考え方である。

直接税と垂直的公平

直接税は垂直的公平を図るのに優れているとされる。これは、直接税は累進課税やさまざまな控除の制度を設けることによって、支払い能力に応じた課税ができるためだ。

間接税と水平的公平

間接税は水平的公平を図るのに優れているとされる。これは、間接税は所得の内容に関係なく、消費の内容が等しいときに等しい負担を求めることができるためである。

直接税と間接税の比率は?

税収における直接税と間接税の割合を「直間比率」という。直間比率は、その時期、その国の税収傾向のひとつを知ることが可能だ。ここでは直間比率について、日本での傾向はどのような傾向にあるのか、また諸外国と比べてどのような差異があるのかを説明する。

直間比率の推移

国税における直接税の比率の推移は、以下のようになっている。

平成27年度 平成28年度 平成29年度 平成30年度 令和元年度
56.0% 55.7% 57.8% 56.9% 57.6%
(注)平成29年度までは決算額、平成30年度は補正後予算額、令和元年度は当初予算額
出典:総務省 直間比率の推移(地方税、国税及び租税総額)

ここ10年間で見ると、直接税の比率は55%から60%程度のところで推移しており、国税においては直接税と間接税は3:2の割合で推移している。このことから、所得税や法人税などの直接税からの税収が多く、代表的な間接税である消費税からの税収が多いといえる。

それよりも長いスパン(昭和30年から現在まで)で見ると、直接税の比率は50%前半から70%前半までの間で推移しており、ここ最近は直接税の比率が少なめの50%後半のところで落ち着いているように感じる。

一方、地方税の比率は以下の通りだ。

平成27年度 平成28年度 平成29年度 平成30年度 令和元年度
80.5% 81.3% 81.4% 81.8% 81.9%
(注)平成29年度までは決算額、平成30年度は補正後予算額、令和元年度は当初予算額
出典:総務省 直間比率の推移(地方税、国税及び租税総額)

こちらは直接税の比率が大きく、この10年間において直接税は8割近辺の水準で推移しており、直接税と間接税の比率はほぼ4:1である。すなわち、地方公共団体の税収は直接税に多く寄っている傾向にあると考えられる。

この傾向は昭和30年からのスパンで見てみても、国税とは違い比率はほとんど変わっていない。この間、直接税はずっと高い比率で推移していたことが分かる。

国際的な比率と比較

先ほど日本国内における直間比率を紹介したが、海外ではどうなのだろうか。主要な国の直間比率を示すと、以下の通りとなる。

国名 直接税:間接税
アメリカ 78:22
イギリス 57:43
ドイツ 54:46
フランス 55:45
日本(国税+地方税) 66:34
  日本は平成28年度実績、海外はOECD“Revenue Statistics 1965-2017”による2016年の計数。
出典:財務省 税収に関する資料

表を見ると、日本やアメリカは他の国に比べて直接税の比率がやや高く、その他の国は間接税の比率がやや高い傾向がある。

日本の主な直接税3つ

では、日本ではどのような税金が直接税にあたるのか、例を挙げて見ていきたい。

1. 所得税

所得税とは、個人の所得、すなわち「儲け」にかかる税金を指す。これは個人の所得を10種類に分けてそれぞれの所得を計算していき、その結果を基にして税額を求めるものだ。税額を計算した後に、所得税として納税する。

所得税は、「自ら取得した所得を、自らで申告して納税する」という意味で直接税と呼ばれる。所得税は、直接税の特徴である垂直的公平があらゆるところで見られるのも特徴だ。例えば、まず累進課税が挙げられる。所得税の税率は、所得の金額に応じて最低5%から最大で45%までに設定されている(復興特別所得税を除く)。多く納税できる能力がある人は、それに見合った金額を納税できるように、このような設定がされているのだ。

次に、さまざまな控除の制度を見ていこう。所得税は、個人の事情に応じたさまざまな控除が用意されている。例を挙げるなら、扶養している家族に応じた扶養控除、自分自身や家族が障がいを持っている場合における障害者控除、特別障害者控除などがあり、個々の置かれた状況や活動に応じて、さまざまな控除制度が用意されているのだ。

2. 法人税

法人税は、法人がその活動で得た所得にかかる税金である。法人の活動(法人によっては収益活動)に対して、収益といえる益金から費用や損失といえる損金を差し引くことによって所得を計算し、それに対して税金が課せられる。計算の結果、求められた税金を法人が自ら申告して納税する。

法人税も、法人自らが納税することから直接税とされるものだ。所得税ほどではないが、直接税の特徴と同様に垂直的公平が見られる。法人税の税率は基本的には23.2%であるが、会社の規模や所得金額、あるいは法人の種類によって、部分的に税率を最低で15%に落としている。

また、他にも税額控除の制度があるが、これは垂直的公平を図るというものではない。例えば中小企業投資促進税制の場合は「中小企業における生産性向上等を図るため(https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/zeisei/2019/190401uwanose.pdf )」といった、政策的な意味合いが多いと思われる。

3. 自動車税

地方税にも直接税があり、そのひとつが自動車税だ。自動車税は、三輪以上の小型自動車、普通自動車を保有している人が課せられる道府県民税である。自動車の所有者自身が納めるため、直接税とされている。税額は車の種類、用途や総排気量、積載量などで設定されており、基本的にこれらのすべてが同一であれば同一の税額が課せられる。傾向として、自動車税は所有者の財産である自動車などにかかるものであり、所得税や法人税のような所有者の所得に応じてかかるものではないため、同じ直接税である所得税の垂直的公平が現れにくい。

日本の主な間接税4つ

日本には、さまざまな間接税がある。それらについて説明していく。

1. 消費税・地方消費税

消費税・地方消費税とは、日本国内において商品やサービスを受けるときに支払う税金である。我々が一般的に消費税と呼んでいるのは、国税の消費税と地方税の地方消費税が一緒になったものだ。売買やサービスの提供を受けた際に、それらの価格に対して10%(国税の消費税7.8%、地方税の地方消費税2.2%)が課せられる。

最終的に税金を負担するのは消費者であるが、実際に税金の申告や支払いをするのはその商品を販売したりサービスを提供したりした者である。すなわち、税金を負担する者と税金を納める者が違うため、間接税とされているのだ。

間接税の特徴である水平的公平については、ここでも見ることができる。同じ物を買った場合は同じだけ課税されるという間接税の特徴が見て取れるだろう。ただ、最近の改正においては、合計10%の税率の他に食品などについて8%の消費税率が設定されており、低所得者や消費者の担税力への配慮が見られる。

2. 印紙税

印紙税とは、印紙税法で定められた文書を作成する際に課せられる税金である。対象となるのは印紙税法で定められた20種類の文書であり、領収書、株券、不動産売買契約書、手形、会社の設立時に作られる定款などがそれにあたる。

文書を作成する者が印紙を貼るなどして納めることとなっており、分類上は間接税とされている。印紙税は消費税・地方消費税などの大半の間接税とは違い、消費する行為から生じる税金ではなく、取引によって生じる経済的利益に税源を求める流通税としての性格を持つ。

3. 酒税

酒税とは、酒類に対して課せられる税金である。酒類とはアルコール分1%以上の飲料をいう。酒税法では酒の種類を発泡種類(ビールなど)、醸造種類(清酒など)などに分類し、品目やアルコール分を加味して税率を決めて設定している。

税金を納めるのは酒類を購入した消費者であるが、実際に納めるのは製造した業者や輸入した業者だ。税金を負担する者と税金を納める者が違うため、間接税とされる。同じ酒類を同じ量だけ買えば同じだけ課税されるという点でいえば、間接税の特徴が見られるといえるだろう。ただし、担税力に応じた負担を求めるという点から、高級酒とされるブランデーやウイスキーの税率は高めに設定するといった措置がなされている。

4. 入湯税

入湯税は、鉱泉所在の市町村が課税する税金である。なお、鉱泉浴場は温泉をトラックなどで運んだ場合であっても入湯税が課せられ、また、入湯することに対して課せられるものである。そのため、旅館・料理屋のいずれも問わず、また、宿泊が伴うもの・日帰りで済ませるものであっても課せられるのだ。なお、税率は市区町村によって任意に定めることができる。例えば、東京都港区では一律150円、神奈川県小田原市では100円から150円だ。

入湯税は温泉などの鉱泉浴場に入湯する入湯客に課せられ、納税はその温泉施設を運営する者が行う。税金を負担する者と税金を納める者が違うため、間接税とされる。通常、同じ入湯の行為に対しては同額の入湯税が設定されるが、静岡県伊豆の国市では宿泊に要する費用によって7,000円以下の場合は130円、7,000円以上の場合は150円に設定されている。

その他の税金の分類方法

税金の分類方法には、直接税と間接税以外にも分類の方法がある。ここでは、その分類方法について説明する。

国税、地方税

税金を徴収するのが国か地方自治体かによって、国税と地方税に分類する。地方税は、さらに都道府県が徴収するのか、市区町村が徴収するかによって道府県民税と市町村税に分類される。

これらの税の特徴は、それぞれ納税先が違う点だ。しかし、同じものに対して別々にかけられる場合もある。個人の所得を例にすると、国は所得税、都道府県は道府県民税、市町村は市町村税が課税される。

また、国税の税率は全国で一つの基準に設定されているが、地方税は都道府県や市区町村によって任意に定めることができ点も特徴のひとつだ。例えば、先に挙げた入湯税については、東京都港区(150円)と神奈川県小田原市(100円から150円)といった具合に、同じ税金であったとしても地方自治体によって別々の税額税率を定めることができる。

これらの税金の日本における比率は以下となっており、国税と地方税の比率は3:2である。

国税 地方税
61.0% 39.0%
※平成29年度決算額(平成31年版地方財政白書 P38)

所得課税、消費課税、資産課税

どのような事実に基づいて課税するかにより、所得課税、消費課税、資産課税に分類される。 所得課税は所得を得たという事実に基づいて課税されるものであり、所得税、法人税、道府県民税、市町村民税、事業税がそれにあたる。

また、消費課税は物やサービスの消費に対して課税されるものであり、消費税、地方消費税、酒税、入湯税がそれにあたる。

さらに、資産課税は土地や建物などの資産の保有や取得に対して課税されるもので、固定資産税、不動産取得税がそれにあたる。

これらの税金の日本における比率は以下のようになっており、所得課税に対して多く課税され、消費課税に占める割合はそれに次ぐ割合となっている。

所得課税 消費課税 資産課税
54.5% 40.2% 5.2%
※平成30年度当初予算額ベース(税務大学校 税務大学講本入門編税法入門(2019年度版) P17)

直接税と間接税の違いはしっかり理解しておこう

ここでは直接税と間接税について、その性質、長所と短所、それぞれの例示、国際的に見た傾向や、その他の分類について記した。直接税と間接税について知っておくことが直接これらの税金の節税になるわけではないが、どのような税金がどのような場面で課せられるかについて知っておくことで、税金の知識をより深めることができるのではないかと考えている。

文・中川崇(公認会計士・税理士)

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