人生、どのような分野で成功するにしても避けられないのが人の心である。「論理的に考えて正しいと思われることがなぜか“あの人”には通じない」、「頭ではわかっていてもなかなか行動に移せない」……人はなぜ、一見奇妙だと思われるような行動を取ってしまうのだろう。

新連載「新時代のビジネスパーソンのための成功心理学」では、成功者を目指すビジネスパーソンが知っておきたい心理学のテクニックをテーマにしている。主人公は人材コンサルティング会社で働く30代の営業マン。成功を夢見て日々、業務にまい進しながらも、次から次へと「人の心」という壁にぶつかる。彼は、さまざまに張り巡らされる心理学の罠にどう対峙していくだろう。

架空の物語ではあるが、これはもしかしたら「あなたの物語」であるかもしれない。

ケーススタディ(1)――いい自己主張・悪い自己主張の違い

成功心理学
(画像=rudall30/shutterstock.com,ZUU online)

熱燗を傾けると、トクトクという感触が指を伝う。つまみがなくなっていることに気づき、たこわさとぶり大根を注文する。

人材コンサルティング会社で働く及川圭佑(37)は、同期入社の同僚・大野に誘われ居酒屋に来ていた。大野はだいぶ酔いが回っているようで、さっきから管を巻いている。

「俺は報告したっつーのに、部長は聞いてないの一点張りでさ、埒(らち)が明かねぇの。あの人俺のこと嫌いだと思うんだよな、絶対」

店内には新年会の集団が来ているらしく、にぎやかな声とともに時折拍手が沸き起こっている。衝立で仕切られただけの座敷では、会話は筒抜けだ。壁には手書きのメニューが貼られ、いかにも大衆酒場という雰囲気が漂っている。

最近では顧客に誘われ、高級料亭に行くことも多い。しかし、安い居酒屋には安い居酒屋のよさがあると及川は思う。何より、同い年で気心の知れた相手と呑む酒は旨い。

「さっきから涼しい顔してるな、お前は。コミュ力高い及川には、俺の気持ちはわかんねぇよ」

突然大野にそう詰め寄られ、及川は苦笑した。お皿に1つだけ残ったエイヒレをつまんで口に運ぶ。

「俺はもとからコミュニケーションが得意だったわけじゃない」

及川としては本音を正直に答えたのだが、大野にはすぐに「嘘つけ」と切り返されてしまう。

初めて率いたプロジェクトが社内で表彰されたり、社長営業に同行するよう声がかかったり。及川の姿は、傍目には華やかな成功者として映っているのかもしれない。しかし及川自身は、負けず嫌いが高じて努力した結果の今だと思っている。もとから人より秀でていたわけではない。

ふと思いついて、戯れに話を切り出す。

「簡単なコミュニケーションクイズがあるんだけど」

大野の目に、興味が灯った。望むところだ、というように身を乗り出す。及川は少し考えて、質問と選択肢を大野に提示した。

「会議で話が長い上司にイライラした時、お前ならどうする?」

あなたならどれを選ぶ?

(1) 「いい加減本題に移らないと、また会議が長引きます」と率直に苛立ちを伝える。
(2) 「なるほど、そうなんですね」と上司の話に相槌を打つ。
(3) 適当に相槌を打ちながら何度も時計を見てアピールする。
(4) 「すみません、残り時間20分でアジェンダはまだ3つ残っているんですか、どうしましょう?」と尋ねる。

3つの望ましくないコミュニケーションタイプ

選択肢を聞いた大野は、苦々しそうに答える。

「……(4)が正解だということはわかる。でも実際は、(2)か(3)だろうな」

大野の飾らない回答を聞いて、及川はほほ笑んだ。

「客観的に見れば正解はわかりやすい。でも、毎日無数のコミュニケーションをする中で、正解を選び取るのは難しい。実は、望ましくないコミュニケーションには攻撃型・受身型・作為型という3つの型がある。さっきの不正解の選択肢は、すべて望ましくないコミュニケーションの例だ」

大野は興味を持ったようで、先を続けるよう目で促した。及川は3つの望ましくないコミュニケーションについて簡単に説明した。