「こんなことになる前に早く相談に来てくれよ」と思うことが多々あります。自分は相談されやすい上司を目指していますが、なかなか難しいと感じます。

「相談」を巡る上司と部下のすれ違い

リーダー研修で受講者に「部下に対して、『こんな状態になる前に早く相談してくれよ……』と感じることはありますか?」と聞くと、ほとんどのリーダーが「はい」と答えます。

早めに相談してくれる部下もいるが、そのような部下は相談がいらないくらい優秀な人。本当に相談に来てほしい人はまったく来てくれない……というのが多くのリーダーの悩みです。ならば、と私は質問を変えて受講者に問います。

「みなさん自身は、自分の不出来をさらけだして、上司に早め早めに相談できていますか?」

するとほとんどのリーダーが、自分自身も上司への相談がタイムリーにできていないことに気づきます。相談を巡る上司と部下のすれ違いは、それくらい根深い問題なのです。

「相談しづらいオーラ」6パターン

部下から上司への相談が遅れがちになる理由は、次の6つに大別されます。

① 忙しそうにしている上司の手を煩わずらわせたくない
② 以前相談したとき、上司の反応が冷たかった。パソコンを見たまま顔もあげず、低い声で「何?」と言われた。それがトラウマとなり相談できない
③ ふがいなさをさらけ出すことによって「この部下は大したことがない。無能だ」と思われ、評価が下がるのが怖い
④ 1対1で上司と話すこと自体がプレッシャー。叱られそうなことなんて、とても言えない
⑤ 自分なりに挽回しようと奮闘したけれど、カバーし切れなくなって相談。もしくは、自分で抱え込んで深追いしすぎて相談が遅れる
⑥ 上司自身が常に、「リーダーは優秀でなければならない」というふうに振る舞っていて、部下もそう感じている。だから弱みをさらけ出せない

いかがでしょうか。心当たりはありませんか?

これらのケースを見てわかるように、リーダーが「相談しづらいオーラ」を放っているがために、部下からの相談が遅れるケースが多々あります。

どうすれば「相談しづらいオーラ」を消すことができるのでしょうか。

「ありのまま」を受け入れる

前述の6パターンにあるように、「相談しづらいオーラ」の原因のひとつは、リーダー自身が「優秀でなければならない」と肩肘を張り、「いいリーダー」であろうとしていることにあります。そのために部下はリーダーに対して「ふがいなさをさらけ出すと無能だと思われそう」「自分も弱みをさらけ出すまい」と感じるのです。

また、「リーダー自身が上司への相談をタイムリーにできていない」原因も、同じところにありそうです。

まずはリーダーが、ありのままの自分を受け入れましょう。

悩ましい状況に陥っている自分を「今、自分にできるベストを尽くしている」と認める。心理学では「自己受容」と呼ばれる行為です。

すると、他人のいい面も悪い面もすべて含めて「これはこれでいい」と認めることができるようになります。こちらは「他者受容」と呼ばれます。

「自己受容」ができるようになると、いい面も悪い面も、ありのままを受け入れる心の容量が増え、「他者受容」につながるのです。「他者受容」ができるようになれば、「なんでこんなこともできないんだ」と他人に対して怒る気持ちも和らぎ、「相談しづらいオーラ」もだんだんと薄くなります。

「相談されるのが大好きな上司」を演じる

とはいえ、「自己受容」「他者受容」ができるようになるには時間がかかります。そこで、より即効性のある「相談しづらいオーラ」の消し方もご紹介しましょう。

その方法とは、「この上司は、部下に相談されることが何よりも好きなんだ」と思わせること。部下が勇気を出して相談に来てくれたとき、まるで「お客さま」が来たかのように明るく、温かく接してみるのです。

「相談! 俺なんかでいいのか! いやぁありがとう嬉しいなぁ。まぁまぁ座ってくれ。お茶飲むか? コーヒーのほうがいいか?」

私はこのように嬉々として部下を迎え、相談ごとに耳を傾けていました。自分の意見は後回しで、部下の話を最後まで聞き切ります。

部下は、最初は呆気にとられながらも「あぁ、この人は部下に相談されたくて仕方がないんだ」と思ってくれるはずです。

はじめのうちは、多少オーバーな演技でも構いません。「この上司は、部下に相談されることが何よりも好きなんだ」と錯覚させることが最大の目的なのですから。オーバーアクションが苦手な人は、仕事の手を止めて部下に正対し、「相談に来てくれてありがとう」とひと言添えるだけでも効果抜群です。

あなたも上司に相談に行ったとき、「相談に来てくれてありがとう」と言われたら、ほっとしませんか。

さらにいえば、相談に対して「正解を答えよう」と力む必要はありません。相談ごとを一緒に考えるだけでも十分です。すると部下自らが考えて解決する力をつけることにもなり、成長につながります。

自分を認め、他人を認める。「部下から相談されるのが大好きなんだ」と思わせる。この二段構えで仕事をしていると、いつしか部下からの相談が増えてきます。

1万人のリーダーが悩んでいること
浅井 浩一
1958年生まれ。大学卒業後、JT(日本たばこ産業)に就職。「勤務地域限定」の地方採用として入社。日本一小さな工場勤務での、きめ細かなコミュニケーションを通じた働きぶりを買われ、本社勤務に。職場再建のプロと称され、次々と任された組織を活性化させ、歴代最年少の支店長に大抜擢。2001年より自らも現場でマネジメントを行いながら、公益財団法人日本生産性本部・経営アカデミーなどのビジネススクールで多くの企業幹部、管理職、リーダーを指導。これまで指導してきたリーダーの数は1万人を超え、お互いを信頼し助け合える組織作りを信条とし、「意識と行動を変える超実践派」の第一人者として高い評価を得ている。著書に『はじめてリーダーになる君へ』(ダイヤモンド社)、『目標を「達成するリーダー」と「達成しないリーダー」の習慣』(明日香出版社)がある。

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