いわゆる「ゆとり世代」の指導に悩んでいます。無気力・無関心・無感動という印象を持っています。指導のポイントをお教えください。

最近感動したことを教えてください

「無気力・無関心・無感動」。これは何も、ゆとり世代に限った話ではありません。

「最近の若いもんは無気力・無関心・無感動だ」と嘆いているリーダーに、「あなた自身は今、どんなことに関心がありますか?最近、感動したことを教えてください」と尋ねたことがあります。答えは出てきませんでした。

さらに「じゃあ、小さなことでも構いませんから、夢を語ってください」と投げかけても、「夢かぁ……」と遠くを見るばかりで、黙ってしまいます。

あなたはどうでしょうか。さっと答えることができますか。

ではそもそも、なぜ人は「無気力・無関心・無感動」になってしまうのでしょうか。ビジネススクールの合宿の懇親会で、製薬会社のマネージャーがそのヒントを教えてくれました。

「5人の部下に単純作業をお願いしたときのことです。同じ作業でも、それぞれやり方が微妙に違うことがわかりました。違いを見つけ、なぜそのやり方で作業しているのかと聞いてみました。すると理由があり、その人なりの工夫があるんです。聞かれた部下は嬉しそうな表情で、その理由を話してくれました。『こんな細かいことに気づいてもらえて、嬉しいです』という言葉が忘れられません」

人には、人から承認してもらいたいという強い願望があります。

がんばっても見てもらえない。ほめてもらえない。お礼もない。頼りにされている実感がない。考えを問いかけられることもなく、言われたことをロボットのように淡々とこなすだけ。

こうした積み重ねが、人を「無気力・無関心・無感動」に向かわせているのではないでしょうか。

「成長のきっかけ」はリーダーがつくる

部下に「好きなこと」を語らせたことをきっかけに、仕事のパフォーマンスが見違えるように変わった事例があります。

ある営業所長は、仕事に対して無気力に見える部下を抱えていました。「彼はもうダメかもしれない」。半ば諦めに近い感情を持っていたそうです。

ひょんなことから、その部下が恐竜好きだと知った営業所長は、営業に同行した帰り道、恐竜の話題を振ってみました。部下の表情は一気に明るくなり、アメリカの恐竜博物館に行ったときにどれだけ感動したか、太古の世界にはどれだけのロマンがあふれているかを嬉々として話し出しました。部下の嬉しそうな表情を初めて見て、営業所長も心が晴れやかになりました。「恐竜の世界は面白いね。その面白さをもっと教えて」と、営業所長は部下に伝えました。

この会話をきっかけに、部下の仕事ぶりは少しずつ変わっていきました。営業所長とのコミュニケーションが活発になり、「この仕事をやってみたいです」と積極的にアピールするようになったのです。

人は「無気力・無関心・無感動」になりきれるものではありません。

あなたのひと言が、部下を変えるきっかけになります。

1万人のリーダーが悩んでいること
浅井 浩一
1958年生まれ。大学卒業後、JT(日本たばこ産業)に就職。「勤務地域限定」の地方採用として入社。日本一小さな工場勤務での、きめ細かなコミュニケーションを通じた働きぶりを買われ、本社勤務に。職場再建のプロと称され、次々と任された組織を活性化させ、歴代最年少の支店長に大抜擢。2001年より自らも現場でマネジメントを行いながら、公益財団法人日本生産性本部・経営アカデミーなどのビジネススクールで多くの企業幹部、管理職、リーダーを指導。これまで指導してきたリーダーの数は1万人を超え、お互いを信頼し助け合える組織作りを信条とし、「意識と行動を変える超実践派」の第一人者として高い評価を得ている。著書に『はじめてリーダーになる君へ』(ダイヤモンド社)、『目標を「達成するリーダー」と「達成しないリーダー」の習慣』(明日香出版社)がある。

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