年金収入と配当金で生活している人の多くは確定申告と縁がないだろうと思うかもしれない。年金も配当金も自動的に税務処理が行われて完結するからだ。ただ、なかには確定申告をすることで税金の負担が減る人もいる。

「年金収入+配当金」確定申告のラインは年間400万円以下

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(写真=ChristianChan / Shutterstock.com)

国民年金や厚生年金などといった公的年金による収入は所得税法上「雑所得」に該当する。年金に課される所得税は、支給時に源泉徴収 (天引き) される。源泉徴収される税額は、年金額に応じた一定の控除額を差し引いた残額に5.105%を乗じた金額だ。現在は所得税に加え復興特別所得税も源泉徴収されている。

「アルバイトや自営業者としての副業収入があり、その所得合計額が年間20万円超」「医療費控除等で還付が受けられる」などの事情がなく、公的年金による収入で源泉徴収されるものの収入総額が年間400万円以下ならば、確定申告をしなくてよいとされている。

配当収入も確定申告をしないことがほとんどだ。上場株式等の配当所得については、申告不要制度・申告分離課税・総合課税のいずれかを選択することとなっているが、申告不要制度・申告分離課税制度で適用される税率の低さ (所得税15.315%、住民税5%) や確定申告の手間の負担から、「申告不要」を選択する人が多い。

「所得税では総合課税で確定申告、住民税では申告不要」のメリットとは ?

しかし、投資家のなかにはメリットがあるからと所得税の確定申告をあえて行う人もいる。そのほうが税負担を減らすことができるためだ。背景には、2017年度税制改正による上場株式等の住民税の課税方式の見直しがある。

改正前は、所得税・住民税ともに同じ課税方式を選択するのが通例となっていた。所得税が申告分離課税なら住民税も同じ申告分離課税でなければならなかったのである。

しかし、税制改正により、所得税と住民税で異なる課税方式を選択できることが明確化された。これにより、確定申告をして配当所得に課される税負担を減らす策が誕生した。

ここでいう「あえて確定申告」とは「所得税では総合課税で確定申告」をし、「住民税では申告不要を選択」することをいう。多くの投資家は特定口座を設け、所得税・住民税の源泉徴収が行われた後の配当金を受領している。申告不要にすると手間を省けてラクできるが、ここではわざと手間をかけるメリットがあるのだ。

なぜ、「所得税は総合課税で確定申告」「住民税は申告不要」にするとメリットがあるのか。そのカギは累進課税・分離課税それぞれにおける税率の差異にある。

所得税は総合課税 (他の所得と合算して確定申告すること) を選択すると、累進課税制度により所得額に応じて税率が変わる。一方、分離課税 (申告不要あるいは分離課税での確定申告) を選択すると、税率は一律のままだ。この税率の違いを活用するのである。

課税所得額900万円以下の人が上場株式等の配当所得を受け取る場合、分離課税方式あるいは申告不要にした場合、所得税率 (※1) は15.315%、住民税率は5%だ。しかし、総合課税を選択した場合、所得税・住民税の税率は以下のようになる。

課税所得額所得税率 (※1) の税率住民税率の正味税率 (※2)
330万円以下0%7.2%
330万円超695万円以下10.21%7.2%
695万円超900万円以下13.273%7.2%

※1所得税率には復興特別所得税も加味
※2住民税の正味税率は所得割の税率10%から配当控除率を差し引いたもの。配当控除率は課税所得額が1,000万円以下は2.8%、1,000万円超は1.4%となる。

ざっくり比べると、所得税率は「総合課税<分離課税」、住民税率は「総合課税>分離課税」だ。より税率が小さい方を選べば税負担が減ることになる。「所得税では総合課税で確定申告、住民税では申告不要」にするとメリットがある理由はここにある。

ちなみに住民税で「分離課税で申告」ではなく「申告不要」にすべき理由は、国民健康保険料や介護保険料の増加を避けるためだ。これら社会保障に係る負担の算定は住民税の所得額が基礎となっている。配当所得を総合あるいは分離のいずれかで申告すれば社会保障関連の負担も増えるが、申告不要とすれば影響がない。

対象は「課税所得額900万円以下」だけ

なお、この手法による税負担軽減ができるのは、年間の課税所得額が900万円以下の人だけだ。課税所得額が900万円超だと総合課税での適用税率が「所得税率23.483%、住民税の正味税率7.2%」となる。つまり、申告不要・分離申告課税のままのほうがいいことになる。

課税所得額というのは、年金収入や配当収入そのものの金額ではない。各種所得の合計額から社会保険料控除や基礎控除などの控除額を差し引いた後の金額を言う。所得税の確定申告書がお手元にあるならば、申告書第一表の右側の一番上、「課税される所得金額」を確認していただきたい。この数字が900万円以下なら「所得税は総合課税で確定申告」「住民税は申告不要」の策が使える。

自治体窓口での手続きが必要

なお、「住民税で申告不要」だからといって、何もしなくてよいわけではない。各自治体の窓口での手続きが必要だ。市区町村によって異なるが、通常は「専用書類に記入する」または「住民税申告書の必要箇所にチェックを入れる」といった作業を行うことになる。

年金収入のみで生活している人の多くが年間の課税所得額が900万円以下に該当するはずだ。今後の消費税増税に伴う生活コストの増加を考えると、年金生活者にとっては「わずかな金額であっても負担を削減したい」というのが本音ではないだろうか。今回ご紹介した対策を検討してみてはどうだろうか。(提供:大和ネクスト銀行


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