課税所得,900万円以下,確定申告
(写真=ChristianChan / Shutterstock.com)

配当金や分配金は、投資における魅力の一つだ。しかし、こういったインカムゲインを得ることだけでなく税金がかかることも知っておこう。本記事では、配当金や分配金に対する課税や申告方法の種類、総合課税や分離課税(申告不要・申告分離)の概要、税率などについて解説するので確認してほしい。


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上場株式等の配当金は税金が源泉徴収されている?!

まずは、配当金に対する課税から解説していく。上場株式等の配当金や株式投資信託等の分配金にかかる課税は、本来3種の課税方法から選択可能ではあるものの、個人投資家の税申告への負担を軽減することを目的に受取時に20.315%の税金(所得税・住民税・復興特別所得税)が源泉徴収されている。そのため、配当収入を得ても確定申告をしなくて良いが、申告しても構わない。その場合は、申告分離課税・総合課税のいずれかを選択することができる。

申告不要(源泉徴収課税)

配当金の支払時に20.315%の税金(所得税・復興特別所得税合わせて15.315%+住民税5%)が源泉徴収される方法だ。会社員や年金生活者など原則確定申告が不要な人は、源泉徴収だけで課税関係を終了できるため「申告不要」といわれる。確定申告の手間の負担から、「申告不要」を選択する人が多い。

申告分離課税

確定申告はするが、給与所得や事業所得、雑所得などといった他の所得とは分離して税額を計算する方法だ。ただし扶養控除等の判定においては、配当所得も含まれる。税率は、申告不要制度の場合と変わらない。なお上場株式等の売却損が生じた場合は、損益通算し課税される配当所得を少なくすることが可能だ。さらに損益通算をしても損失が残る場合は、翌年以降3年間の繰越控除もできる。

総合課税

各種所得金額を合計し、税額を計算する方法だ。所得税率は累進課税方式で、他の所得や所得控除によって決まる。住民税率は10%。損益通算はできないが、配当控除を適用できる。

所得税と住民税で異なる課税方法を選べるか?

投資家のなかには「メリットがあるから」という理由で所得税の確定申告をあえて行う人もいる。そのほうが損益通算や配当控除などによって税負担を減らすことができるためだ。しかし配当所得にかかる税制は、過去にも何度か改正があり、実は2023年分の配当所得からまた改正されている。すでに投資している人も、これから投資を始める人も配当金の課税方法について理解しておこう。

2017年度税制改正で、上場株式等の配当金について所得税と住民税で異なる課税方式を選択できることが明確化された。これにより、確定申告をして配当所得に課される税負担を減らす策が誕生した。

ここでいう「あえて確定申告」とは「所得税では総合課税で確定申告」をし、「住民税では申告不要を選択」することをいう。多くの投資家は特定口座を設け、所得税・住民税の源泉徴収が行われたあとの配当金を受領している。申告不要にすると手間を省けてラクできるが、ここではわざと手間をかけるメリットがあるのだ。

なぜ、「所得税は総合課税で確定申告」「住民税は申告不要」にするとメリットがあるのか。そのカギは累進課税・分離課税それぞれにおける税率の差異にある。

所得税は総合課税(他の所得と合算して確定申告すること)を選択すると、累進課税制度により所得額に応じて所得税率が変わる。一方、分離課税(申告不要あるいは分離課税での確定申告)を選択すると、税率は一律で、所得税率(復興特別所得税を含む)は15.315%、住民税率は5%だ。

しかし、総合課税を選択した場合、配当控除が適用されて所得税・住民税の税率は以下のようになる。

課税所得額所得税率 (※1) の税率住民税率の正味税率 (※2)
330万円未満0%7.2%
330万円以上695万円未満10.21%7.2%
695万円以上900万円未満13.273%7.2%

※1所得税率には復興特別所得税も加味
※2住民税の正味税率は所得割の税率10%から配当控除率を差し引いたもの。配当控除率は課税所得額が1,000万円以下は2.8%、1,000万円超は1.4%となる。

つまり課税所得額が900万円未満の人にとって、所得税率は「総合課税<分離課税」、住民税率は「総合課税>分離課税」だ。より税率が小さいほうを選べば税負担が減ることになる。そのため「所得税では総合課税で確定申告、住民税では申告不要」にする人が増えた。

ちなみに「分離課税」にすると配当所得が他の所得と合算されないため、国民健康保険料や介護保険料の増加を避けられる。これら社会保障にかかる負担の算定は、住民税の所得額が基礎となっているからであり、申告不要とすれば影響がない。

しかし配当所得の課税方式は、税の公平性を計る目的から2022年度の税制改正によって所得税と住民税で一致させなければならなくなった。つまり2023年分(2024年度課税分)から所得税で総合課税を選ぶ場合は、住民税も総合課税、所得税で申告不要を選べば住民税も申告不要を選ぶこととされたのだ。

3つの課税方法の損得はトータルの課税所得で見極める

配当所得に関する課税方式選択の改正に伴い、今後は所得税と住民税の配当控除も含めてトータルの課税所得でどの方式にするか選ぶことが大切だ。ここでは、あらためて課税所得と税率の関係による損益分岐点を確認してみよう。

課税所得額所得税率 (※1) の税率住民税率の正味税率 (※2)所得税率と住民税率の合計
330万円未満0%7.2%7.2%
330万円以上695万円未満10.21%7.2%17.41%
695万円以上900万円未満13.273%7.2%20.473%

※1所得税率には復興特別所得税も加味
※2住民税の正味税率は所得割の税率10%から配当控除率を差し引いたもの。配当控除率は課税所得額が1,000万円以下は2.8%、1,000万円超は1.4%となる。

2022年分までは、配当控除を差し引いた所得税率のみで年間の課税所得額が900万円未満であれば総合課税が得になると判断できた。しかし2023年分からは、配当控除後の住民税率との合計率で見ることが必要だ。損益分岐点は、課税所得額が695万円となる。

つまり課税所得額が695万円未満の人は総合課税、695万円以上の人は申告不要制度を選ぶとよいだろう。課税所得額というのは、年金収入や配当収入そのものの金額ではない。

各種所得の合計額から社会保険料控除や基礎控除などの控除額を差し引いたあとの金額をいう。所得税の確定申告書がお手元にあるならば、申告書第一表の右側の一番上、「課税される所得金額」を確認していただきたい。この数字が900万円以下なら「所得税は総合課税で確定申告」「住民税は申告不要」の策が使える。

国民健康保険料や介護保険料等への影響を考えて選択することが重要

総合課税を選んだほうがいい所得帯のなかには、年金生活者や自営業・フリーランスの人も多いと思われる。しかし昨今の生活コストの増加を考えると、「わずかな金額であっても負担を削減したい」というのが本音ではないだろうか。

今回ご紹介した課税方式の違いによる税率の違いにより、少しでも節税するための対策を検討してみてはどうだろうか。ただし課税方式を選択してしまう前に国民健康保険料や介護保険料等への影響を考慮することも重要だ。冒頭で説明したように、総合課税にすれば社会保険料の算出基準に配当所得も含まれる。

税金を抑えられても保険料負担が上がれば本末転倒だ。扶養する配偶者や家族がいる人は配偶者控除や扶養控除への影響も考慮してほしい。

さまざまな観点でベストな方法を選択しよう

2023年の配当所得を得た分から、所得税と住民税で同じ課税方式を選択することが必要になった。それによって総合課税を選ぶのが良い人は、これまでの課税所得額900万円未満の人から695万円未満の人となった。一方で総合課税を選択すると社会保険料が上がる可能性もある。単に税率だけで判断するのではなく、さまざまな観点からベストな方法を選択することが大切だ。

(提供:大和ネクスト銀行


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