脱サラ起業よりも簡単に社長になって、会社員として働いている今と同等かそれ以上の報酬を得られる方法があるとしたらどう感じるだろうか。

「そんなうまい話があるものか」と疑いたくなるかもしれない。だが、『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』(講談社)の著者である三戸政和氏は、起業よりも個人による「スモールM&A」をすべきだと語る。

今回の企画では、三戸氏へのヒアリングを通じて個人M&Aのメリットと、個人による事業承継が日本の経済にもたらす意義について考えたい。(取材・藤堂真衣)

三戸政和
三戸政和(みと・まさかず)さん
株式会社日本創生投資代表取締役社長。
1978年兵庫県生まれ。同志社大学を卒業後、2005年にソフトバンク・インベストメント(現SBIインベストメント)に入社し、ベンチャーキャピタリストとして国内外のベンチャー投資や投資先でのM&A、上場支援を行う。16年に日本創生投資を創設。中小企業に対する事業承継・再生に関する投資も行う。著書の『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』(講談社)は累計16万部を超え、スモールM&Aを実践で学ぶオンラインサロンの会員数も200人以上。

「中小企業の経営改善」がサラリーマンに向いている理由

スモールM&A #4
(画像=fizkes/shutterstock.com,ZUU online)

個人によるスモールM&Aに可能性があることは分かった。とはいえ、そんなに都合よく社長になり、報酬を得ながら過ごしていけるのだろうか。

三戸氏によれば、中小企業の多くは事業のスタイルや経営に改善点が多く、そこにテコ入れをすることで経営が上向くことが少なくないのだという。

「大企業ではよく見られるビジネス研修すら、中小企業の多くでは行われていません。総合職として勤務している人であれば、自然に最新の経営やビジネスのコツが身に付いているはずです」

大企業の下請け業務を請け負っている典型的な中小企業を例にすると、まず安定した収益源があるために営業戦略を研ぎ澄ます必要がない。元請けの指示どおりに求められた製品を納めていれば経営が維持できるのだ。もちろん技術革新も必要なく、大きな変化を起こす必要にも迫られない。

「大きな企業からの発注でそれなりに経営ができてしまっているだけに、危機感を覚えにくいのです。また、経営企画室のような部署もありませんからこうした仕組みの改善を求める声が上がることもなく、最新のシステムが導入されることもありません。

中小企業の経営者には財務諸表の見方がおぼつかないという人もいます。KPIやPDCAといった言葉も知らない人は珍しくない。創業者でなく、親の事業を継いだ経営者であればなおさらです。それでも経営ができてしまっているので、危機感がないのです」

ここに、大企業の総合職として勤めてきた人が新たな風を吹き込めばどうなるだろうか?

手書きだった帳票をデータ化し、受発注をすべて電子に切り替え、適切なチームビルディングやコーチングによるマネジメント、より簡便なコミュニケーションツールの導入……など、改善の余地はごまんとある。

本当にそれだけで経営が改善できるのか、疑問に思うかもしれない。しかし三戸氏は「当たり前のことを当たり前に実行する」ことの大切さを説く。

「V字回復、などと聞くとどんなドラマティックな手法を使ったのかと感じるかもしれませんが、多くはマネジメントモデルを少しアップデートするだけでも、経営は改善されることが多いのです」

再雇用or経営者?役員報酬と売却益で資産を築く

スモールM&A #4
(画像=PIXTA)

経営にはもちろん苦労やリスクもつきものだ。もしもスモールM&Aで企業を買い、経営を改善できたとして、会社員である今と比べてどれだけ金銭的なメリットがあるのかも気になるところだ。

「老後の資産形成という観点で考えてみましょう。会社を買うことで、老後の収入には変化が生まれます。