所得面から見た2018年度の実質GNI・GDIは前年度から縮小

要旨

● 2018年度の経済成長率は4年連続でプラス成長を維持したが、所得面から見た実質GNIや実質GDIでみると、それぞれ▲0.2%、▲0.3%といずれもマイナス成長に転じており、少なくとも所得面から見た2018年度の日本経済はマイナス成長だった。

● 実質的な日本の経済規模を見るには、交易条件の変化を加えたGDIで見るべきであり、GDPだけを見ていると、現在の日本経済を過大評価してしまう。一方、GNIは第1次所得収支も含むため、国民全体の所得状況を見る指標となる。しかし、第1次所得収支は海外で所得が生じた時点で計上されてしまい、海外で得た所得を日本国内に還流させなくてもGNIに含まれてしまう。純粋な日本国内の所得の増加を知るには、GNIよりもGDIで見る方が正確。

● GDIを増やすには、第一に国内生産を増やすことが重要。国内生産を増やすためには、国内需要を増やすことが不可欠。今後は、政府の賃上げ要請や民間の支出促進優遇税制の推進等によるインフレ期待の引き上げがカギ。

● 第二に、継続的な補修が必要となる社会インフラや教育無償化、科学技術振興、防衛費、貧困対策などの分野での未来への投資も必要。こうした財政出動とともに解雇規制緩和やセーフティネットの充実等の構造改革が進み、結果として労働市場の流動化と高い雇用者保護が両立できれば、労働生産性の上昇を通じて民間の過剰貯蓄緩和が促されよう。

● 交易条件を悪化させない取り組みも重要。経済連携協定をテコに調達先の多様化などを推進することで化石燃料の価格を引き下げられれば、より一層の交易条件の改善につながる。それを実現するためにも、積極的な通商政策が必要。

● わが国の経済成長の問題点は、GDPが成長しても、そのまま国内の総所得であるGDIの成長に結びつくとは限らないことにある。GDPよりもGDIの方が景気実感に近いことなどを勘案すれば、GDP同様に経済成長率にGDI成長率を併用することも検討されるべき。

悲惨
(画像=PIXTA)

はじめに

2018年度の経済成長率は、2019年7-9月期のGDP二次速報で一次速報の+0.7%から+0.3%に大幅下方修正されたものの、4年連続でプラス成長を維持した。しかし、所得面から見た実質GNIや実質GDIでみると、それぞれ▲0.2%、▲0.3%といずれもマイナス成長に転じており、少なくとも所得面から見た2018年度の日本経済はマイナス成長だったとする見方もある。

そもそもGDPは、必ずしも現在の日本経済の実力を反映しているとは言えない。GDPとは、期間内に国内で生み出された付加価値の合計である。「生産」「需要」「所得」という三つの側面のどこから見ても等しくなる「三面等価の原則」があり、通常は実質GDPに変化が生じれば、それと連動して実質所得にも変化が生じるはずである。

しかし、所得から見た実質的な現在の日本の経済規模は、生産面や需要面から見た経済規模の変化に加え、実質GDPに反映されない交易条件(輸出品と輸入品の交換比率)の変化にも大きく左右されるため、「三面等価の原則」が働きにくいという、特有の経済構造となっている。

実質マイナス成長だった日本経済
(画像=第一生命経済研究所)

かい離するGDIとGNI

輸出価格が輸入価格を上回ると、その国の交易条件は有利になるため所得(交易利得または損失)が増え、反対に不利になると所得は減る。2017年10~12月期以降、原油をはじめとする資源価格の高騰により、日本の交易条件は大きく悪化した。このため、GDPに交易利得(損失)を加えた、国内の実質的な所得を示す指標である実質国内総所得(GDI)を押し下げている。つまり、実質的な日本の経済規模を見るには、交易条件の変化を加えたGDIで見るべきであり、GDPだけを見ていると、現在の日本経済を過大評価してしまうことになる。

交易条件を含む経済指標としては、GDIの他に国民総所得(GNI)がある。交易条件を加えて見るのであれば、GNIで見ることもできるのではとの意見もある。

二つの指標の大きな違いは、GDIは国内に落ちる所得を表し、GNIは国民を対象としている点だ。また、グローバルな経済活動の動向を示す経常収支は、貿易収支やサービス収支、第1次所得収支、第2次所得収支に分けられるが、GDIには貿易・サービス収支のみ計上されているのに対し、GNIは海外への投資で得た配当などの第1次所得収支も含む。従って、GDIは国内の所得規模を測る指標である一方で、第1次所得収支も含んだGNIは、国民全体の所得状況を見る指標となる。

実質マイナス成長だった日本経済
(画像=第一生命経済研究所)
実質マイナス成長だった日本経済
(画像=第一生命経済研究所)

更に、第1次所得収支は「投資収益」と「雇用者報酬」に分けられ、現在、収支の99%以上を「投資収益」が占めている。これは海外の金融資産から生じる利子や配当の受け取りや、海外への支払いも含む、第1次所得収支や企業の海外展開を反映した投資収支が黒字となっているためである。

近年、第1次所得収支の拡大を受けてGDIとGNIの乖離(かいり)が目立っており、GNIがGDIに対して超過傾向にある。これは、日本人の海外での経済活動が活発化し、日本よりも海外の経済成長率が高いこともあって、日本が対外資産から得られる収入の方が、海外が対日投資から得る額よりも多いためである。

少子高齢化が急速に進み、国内需要の減少が不可避な情勢では、国内の経済活動だけでは実質GDIの増加は困難とされている。それならば、企業が更に海外市場へ活路を見いだし、海外への投資で得た利益を日本国内に還流させるというグローバルな視点から、GNIを増やし、国民の所得を増やすべきという発想が生まれるだろう。

しかし、第1次所得収支は海外で所得が生じた時点で計上されてしまい、海外で得た所得を日本国内に還流させなくてもGNIに含まれてしまう。したがって、純粋な日本国内の所得の増加を知るには、GNIよりもGDIで見る方が正確といえる。

実質マイナス成長だった日本経済
(画像=第一生命経済研究所)

GDI成長率の併用を

GDIを増やすには、第一に国内生産を増やすことが重要である。そのためには、国内所得を生み出す源泉となる国内需要を増やす必要があり、ある程度の財政出動が不可欠だろう。

デフレ経済はすでに是正されているものの、2%のインフレ目標には程遠く、完全雇用を実現する中立金利水準はマイナスになっており、通常の金融政策が機能しにくくなっている。今後は、政府の賃上げ要請や民間の支出促進税優遇制の推進等により足元のインフレを上昇させ、インフレ期待を上げることがカギとなろう。

第二に、金融政策と財政政策の連携も重要である。そのためには、財政出動による継続的な補修が必要となる社会インフラや教育無償化、科学技術振興、防衛費、貧困対策などの分野での未来への投資が必要だろう。こうした財政出動とともに解雇規制緩和とセーフティネットの充実などの構造改革が進み、結果として労働市場の流動化と高い雇用者保護が両立できれば、労働生産性の上昇や民間の過剰貯蓄の緩和も促されよう。

加えて、交易条件を悪化させない取り組みも重要。日本の発電の主要化石燃料となる天然ガスの輸入価格は、世界の天然ガス価格が下がる中でも、依然としてヨーロッパの価格よりもドル建てで2倍以上の高水準にある。経済連携協定をテコに調達先の多様化などを推進することで化石燃料の価格を更に引き下げられれば、より一層の交易条件の改善につながる。それを実現するためにも積極的な通商政策が必要となろう。

結局、わが国の経済成長の問題点は、GDPが成長しても、そのまま国内の総所得であるGDIの成長に結びつくとは限らないことにある。欧米の統計でも交易損失や第1次所得収支は存在するが、日本のように貿易や投資の構造に偏りがないため、GDPとGDIの成長率が日本ほど大きく乖離しない。日本ではこれらの指標が同時に公表されることや、GDPよりもGDIの方が景気実感に近いことなどを勘案すれば、GDPと同様に経済成長率にGDI成長率を併用することも検討されてしかるべきだろう。(提供:第一生命経済研究所

実質マイナス成長だった日本経済
(画像=第一生命経済研究所)

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 永濱 利廣