要旨
● 今年は今のところ暖冬傾向にあり、景気への悪影響が懸念される。実際、2015年は記録的な暖冬に見舞われ、10-12月期の全国平均気温は平年より約+1.2℃高くなった。この暖冬の影響もあり2005年10-12月期の消費支出(家計調査)は前年比▲3.2%の減少に転じ、同時期の実質国内家計最終消費支出も同+0.3%と伸びが急減速した。「被服・履物」の支出額が大幅に減少し、冬のレジャーの低迷により「娯楽・レジャー・文化」でも暖冬が逆風になった。
● 暖冬で業績が左右される業界としては、冬物衣料関連がある。また、電力・ガス等のエネルギー関連のほか、製薬会社やドラッグストア等も過去の暖冬では業績が大きく左右されている。自動車や除雪関連といった業界も暖冬の年には業績が不調になりがちとなる。鍋等、冬に好まれる食料品を提供する業界やスーパー、食品容器等の売り上げも減少しやすい。冬物販売を多く扱うホームセンターや暖房器具関連、冬のレジャー関連などへの悪影響も目立つ。
● マクロ的には、10-12月期の気温が+1℃上昇すると、同時期の家計消費支出が▲0.6%程度押し下げられる関係がある。これを金額に換算すれば、10-12 月期の平均気温が+1℃上昇すると、同時期の家計消費支出を約▲3,604億円程度押し下げると試算される。仮に2015年並みの暖冬(平年より+1.2℃上昇)になれば、そのインパクトは10-12月期の個人消費を▲0.7%、金額にして▲4,306億円程度押し下げる規模に拡大する。
● 今後の動向次第では、2019年10月の消費増税や台風の被害等により悪化に拍車がかかっている日本経済に暖冬が思わぬダメージを与える可能性も否定できない。
経済活動を停滞させる 暖冬
今年も昨年に引き続き、今のところ暖冬となっている。気象庁が 11月25日に公表した12月から来年2月までの3か月予報でも、来年1月にかけて気温は 全国的に平年並みか高いと予想している。
近年では、201 年に記録的な暖冬となり、北海道を除く北日本で平年より10日-14日以上遅い初雪・初冠雪、沖縄では12月に長期的な高温を観測した。また12月は日本国内のみならず、国外の多くで北半球最大規模の大暖冬となった。
気象庁の発表によると、2015年10-12月期の全国平均の気温は前年より+1.2℃程度高くなった。この暖冬の影響で同時期の 消費支出(家計調査)は前年比▲3.2%の減少に転じた。特に、被服履物が冬物衣料の売り上げが不調となったことから、同▲11.5%の落ち込みを記録した。また、交通関連を見ても、暖冬の影響は明確に表れた。同時期の交通・通信支出は暖冬の影響で冬のレジャーやタクシー利用が落ち込み、車関連でも スタッドレ タイヤ等の冬物商材が落ち込んだことで売り上げが低迷した。保険医療の支出動向も製薬関連が落ち込み、全体として低調に推移した。
国民経済計算ベースで見ても、暖冬の影響が及んだ。2015年10-12月期の実質国内家計最終消費支出は前年比+0.3%と伸びが急速に鈍化し、家計調査同様に被服履物の支出額が大幅に減少した。また、冬のレジャーの低迷により娯楽・レジャー関連でも暖冬 がブレーキとなった。
広範囲にわたる暖冬の影響
以上より、今年の冬も暖冬が続けば 、各業界に影響が及ぶ可能性がある。
過去の経験によれば、暖冬で業績が左右される代表的な業界としては冬物衣料関連や百貨店関連がある。また、電力・ガス等のエネルギー関連のほか、製薬会社やドラッグストア等も過去の暖冬では業績が大きく左右されている。自動車や除雪関連といった業界も、 暖冬 の年には業績が不調になりがちとなる。鍋等、冬に好まれる食料品を提供する業界やスーパー、食品容器等の売り上げも減少しやすい。冬物販売を多く扱うホームセンターや暖房器具関連、冬のレジャー関連などへの悪影響も目立つ。
一方、屋外娯楽関連サービスや鉄道、外食に加え、コールド系の飲食料品の販売比率が高いコンビニなどには恩恵が及ぶ可能性がある。
10-12月期の気温+1℃ 上昇 で家計消費 ▲3, 604億円程度減少
そこで、過去の気象の変化が家計消費全体にどのような影響を及ぼしたのかを見るべく、国民経済計算を用いて10-12月期の実質家計消費の前年比と全国平均の気温の前年差の関係を見た。すると、10-12月期は気温が上昇した時に実質家計消費が減少するケースが多いことがわかる。従って、単純に家計消費と気温の関係だけを見れば、暖冬は家計消費全体にとっては押し下げ要因として作用することが示唆される。
そこで1990年以降のデータを用いて、10-12月期の全国平均気温を説明変数に加えた実質消費関数を推計し、冬場の気温がマクロの家計消費に及ぼす影響を試算してみた。これによると、10-12月期の実質家計消費と気温との間には、気温が+1℃上昇する毎に同時期の家計消費支出が▲0.6%程度押し下げられるという関係が見られる。これを金額に換算すれば、10-12月期の平均気温が+1℃上昇すると、同時期の家計消費支出を約▲3,604億円(▲0.6%)、実質GDPを約▲2,514憶円(▲0.2%)程度それぞれ 押し下げることになる。
従って、この関係を用いて今年10-12月期の気温が記録的高温となった2015年と同程度となった場合の影響を試算すれば、平均気温が平年比で+1.2℃上昇することにより、今年10-12月期の家計消費は平年並みだった時に比べて約▲4, 306億円(▲0.7%)、実質GDPは約▲3,004億円(▲0.2%)程度それぞれ 押し下げられることになる。このように、暖冬の影響は経済全体で見ても無視できないものといえる。
悪化が明確化する日本経済に思わぬダメージ
なお、今回の試算では2015年並みの暖冬となったことを前提に試算しているが、今後も暖冬が続くとは限らない。しかし、実際に暖冬になれば、気象要因により家計の消費行動に大きな変化が及ぶことも十分に考えられる。
2015年の場合、前年の低温の反動や暖冬に加えて、チャイナショックに伴う株価の下落や消費マインドの低迷も手伝って、同年10-12月期の家計消費支出(除く帰属家賃)は前期比年率▲2.7%となり、同時期の経済成長率は前期比年率▲1.2%とマイナス成長に陥った。
今回も、10-12月期は既に消費増税と台風の影響等により、経済成長率と関連が深い鉱工業生産指数は予測指数などを加味すると前期比▲4.6%となる。したがって、来年2月に公表となる 2019年10-12月期の経済成長率も大幅なマイナス成長になる可能性が高い。
以上の事実を勘案すれば、今後の気象動向 次第では、 悪化 が明確になりつつある日本経済に暖冬が思わぬダメージを与える可能性も否定できないだろう。特に足元の個人消費に関しては、 消費増税や自然災害等のマイナスの材料が目立っているが、今後の個人消費の動向を見通す上では、 さらに 暖冬といったリスク要因も潜んでいることには注意が必要であろう。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 首席エコノミスト 永濱 利廣