要旨

● 2020年度の当初予算案が閣議決定された。2020年度の一般会計歳出額は102.7兆円と過去最大。消費税率引き上げに伴う社会保障充実策が実施されることが主因で19年度予算から増加する。新規国債発行額は減少する形になるが、税外収入等を確保して出来た数字であるほか、補正予算を含んでいない点で財政赤字の縮小を示すものとは言い難い。

● 「臨時・特別の措置」として公共事業関係費が積み増されている。これらを2019年の経済対策に含める整理がなされているが、20年度予算において「臨時・特別の措置」が計上されることは2018年の骨太方針ですでに決まっていた方針であり、新たに追加されたわけではない。

● 「臨時・特別の措置」は2019・20年度の時限措置として位置づけられている。2021年度予算では枠がなくなり1.8兆円の歳出減要因となるが、この通りになるかは微妙なところ。景気動向などによっては措置の延長や補正への振り替え等も考えられ、情勢は流動的であろう。

オフィス,経済
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「10年連続の新規国債発行減」の読み方に注意

政府は、12月20日に2020年度の当初予算案を閣議決定した。歳出入の総額は102.7兆円であり、当初予算の規模としては過去最大。予算フレームを確認していくと、政策経費は79.3兆円と消費税率引き上げとセットで行われる社会保障充実策の実施を主因に増加している(2019年度当初予算:77.9兆円)。歳入は税収増によって2019年度の当初予算の値から増加している。2019年度の税収見込みは今年の補正予算編成時に下方修正されており(当初:62.5兆円→補正後:60.2兆円)、ここを土台にすると+3.3兆円の税収増が見積もられていることになる。大幅な税収増の主因は2019年10月に実施された消費税率引き上げ分の平年度化(+2.4兆円)だ。ここに景気回復分+0.9兆円が乗った形だ。

2020年度当初予算案のポイント
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公債金収入(=新規国債発行額)は、32.6兆円で2019年度当初予算から▲0.1兆円の減。これで当初予算ベースでは10年連続での減額となる。政府としては財政再建の進捗を示す意味合いがあると考えられるが、当初予算ベースでの比較に本質的な意味はない点に留意が必要だ。すでに19年度の補正予算が編成されており、19年度の国債発行額は18年度を上回る公算が大きくなっている。また、当初予算ベースの新規国債発行減は、税外収入を確保したことによって支えられている部分もある。外為特会の剰余金活用などが用いられることで、近年当初予算時点の税外収入が増えている。

2020年度当初予算案のポイント
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幼保無償化・高等教育無償化等の社会保障充実策が歳出増に寄与

分類別に歳出の動向を確認していこう。社会保障関係費は35.9兆円で2019年度当初予算から+1.7兆円の増加となった。社会保障関係費は歳出全体の35%を占め、引き続き最大の費目となっている。長期的に増加傾向にある理由は高齢化だが、今回の2020年度予算については、高齢化要因による社会保障関係費の増加(自然増)は+0.5兆円であり、増加の一部を説明するに過ぎない。増加の主因は消費税率引き上げとセットで行われる教育無償化をはじめとした社会保障の充実策が実施されることだ。2019年10月から開始された施策については、20年度から通年分の予算が必要になるため、歳出増の要因となる。

細かく見ていくと、2019年10月から行われている幼児教育・保育の無償化にかかる経費が0.3兆円(平年度化に伴って19年度から+0.2兆円の増)計上されているほか、住民税非課税世帯を対象に行われる高等教育の無償化が2020年4月からスタートすることに伴って、0.5兆円の国費が計上されている。また、2019年10月から行われており、低年金の高齢者などに最大年6万円を支給する年金生活者支援給付金に0.5兆円が使われる(平年度化に伴って19年度から+0.3兆円の増)。

このほか、診療報酬の改定によって薬価が▲0.98%の引き下げになったことや、介護保険料の算定基準となる介護納付金が組合員数基準から収入基準に変更されること(総報酬割への移行)等が、社会保障関係費の伸びを抑える要因となっている(▲0.2兆円程度)。

2020年度当初予算案のポイント
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公共事業関係費は6.9兆円が計上されており、うち消費税率引き上げに対する景気対策として計上される「臨時・特別の措置」分が0.9兆円となっている。これを除いた通常分は6.0兆円で昨年と変わらず。公共事業関係費は小数第一位まででみれば2014年度以降7年連続で6.0兆円とフラットな推移となっている。この点、当初予算の枠は変えずに、補正予算を調整弁とした財政運営になっていると言えよう。

2020年度当初予算案のポイント
(画像=第一生命経済研究所)

防衛関係費は5.31兆円と19年度予算の5.26兆円から増加した。宇宙状況監視システムや航空機の開発や取得等に計上される。このところは地政学リスクへの対応強化等を背景に徐々に増加している。その一方で規模は小さいながらも減少しているのが恩給関係費である。恩給は、主に戦時中に公務のために亡くなる、ないしは傷病のために退職した場合などに、本人や遺族に支給されるものである。対象者数の減少から減少傾向にある。防衛関係費の増加と恩給関係費の減少がちょうど相殺する形になっており、防衛関係費の増加は全体予算の増加要因として目立たなくなっている。

国債費は23.4兆円と19年度予算から減少している。国債費は債務残高や積算金利(予算編成における10年債利回りの想定)を中心に作成されている。20年度予算の積算金利は1.1%で19年度と変わっていない。また、債務残高は財政赤字の続く中で増加傾向にあり、国債費の増加要因となる。一方で、昨今の低金利環境によって国の債務全体の負債金利が低下していることは国債費の減少要因だ。20年度は後者の要因が前者を上回り、国債費予算は減少した。

経済対策分は新規追加ではなく、2018年骨太ですでに決まっていたこと

政府は12月5日に経済対策(安心と成長の未来を拓く総合経済対策)を閣議決定している。ここでは、国と地方の歳出として9.4兆円が計上されているが、このうち1.8兆円が今回の当初予算に組み込まれている。

注意したいのは、当初予算において経済対策予算が積まれることは、2019年の経済対策実施にともなって新たに決まったことではなく、すでに決まっていたことである点だ。2018年の骨太方針において、2019年と2020年度の当初予算において、消費税率引き上げの対策として「臨時・特別の措置」の枠を設けて対応することはすでに示されていたことだ。今回の経済対策は大規模経済対策として打ち出されているが、新たに積まれた財政支出は補正予算分程度であり、それほど大胆な財政出動に踏み切っているわけではない(※1)。

「臨時・特別の措置」の行方が21年度予算の焦点

今回の予算のうち、1.8兆円分は消費税率引き上げに伴う景気対策、「臨時・特別の措置」として計上されている。この枠は2019・20年度予算における限定的な措置となっており、素直に行けば2021年度の予算では計上されず、同額が歳出減要因となる。

ただし、情勢は流動的であろう。景気次第では「臨時・特別の措置」を延長すべき、との声が高まる可能性もあろう。当初予算の減額に対応する形で補正予算の増加圧力が高まることもあり得る。また、「臨時・特別の措置」の中身は公共事業関係費が中心となっているが、防災・減災対策の要請が強まる中で、これらが縮小されるかは不透明。来年6月ごろに示される骨太方針等で、予算編成の方針は見えてくるが、ここでは「臨時・特別の措置」の扱いが焦点となりそうだ。(提供:第一生命経済研究所


(※1) 経済対策の内容や景気への影響については、Economic Trends「13兆円経済対策の解剖」(http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/macro/2019/hoshi191210.pdf)を参照ください。

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
副主任エコノミスト 星野 卓也