はじめに

インド発同時多発パンデミック
(画像=Byelikova Oksana/Shutterstock.com)

新型肺炎の流行が止まらない。我が国で武漢市への渡航経験の無い人物の感染可能性が“喧伝”されている上、フランスなど遠く離れた地域での罹患も確認されているのであり、予断を許さない状況にある。中国共産党に関する非公開情報によれば、現場レベルでは支援物資のピンハネや横流しが生じている一方で上層部は自己保身に入っているのだという。他方でこのコロナウィルスの流行はそもそも武漢市にある中国科学院武漢病毒研究所(Wuhan Institute of Virology)から流出したという議論すらある。すなわち人災の可能性があるのだ。これについても中国共産党内で公表するか否かで議論が割れ、最終的に公表しないという結論に至ったのだという(そのためにこの議論が出た後に、当局がこれを否定するという見解を公表したのだった)。

この流行はこのまま続く可能性があるのだが、他方で、憂慮すべきなのが、ここで新たな感染症が発生することであり、更にそれが同様にエピデミック、パンデミックへと拡大することである。すなわちエピデミック(パンデミック)が様々な国家・地域で同時多発的に発生することこそ真に留意すべきことなのだ。

(図表1 1月31日時点におけるグローバルでの感染状況)

ここで筆者が気にしているのが、一昨日(27日(パリ時間))付けでフランスの有力紙であるLe Mondeがインドにおける薬剤耐性菌の流行を警告した点である。一般的にパンデミックが発生するには、(1)その国・地域の衛生環境、(2)他国・他地域への物理的なアクセス(これが他への病気の拡散しやすさに関わる)、(3)国民の往来度合い、などを考慮すべきである。これらを考慮するとインド発で新たな感染症が発生した場合のリスクを憂慮すべきなのだ。そこで本稿はインドにおける感染症リスクを考察する。

感染症が蔓延するインド

インドの衛生状況は、我が国からの旅行者が軒並み体調を崩すことからも明らかなように悪い。全土で水供給状況が悪いため、たいていの家庭で水を貯めて利用している。飲食店であっても非常にリスクが高い。他方で医療機関についても先端的な機関があるにはあるものの、中間層や低所得層向けのところが低いであるため、総体として見れば医療水準が高いとは言い難い。このため、インド全土の衛生環境は劣悪な箇所が多い。我が国の外務省は(1)消化器感染症、(2)デング熱・デング出血熱、(3)チクングニア熱、(4)マラリア、(5)結核、(6)狂犬病、への罹患に注意するよう呼び掛けている。特に結核については薬剤耐性結核に注意するよう呼び掛けている。

またインドで最近起きたアウトブレイク・エピデミックをまとめるとこうなる:

1974年 天然痘
1994年 ペスト
2009年 インフルエンザ
2009年 B型肝炎
2014年 E型肝炎
2015年 インド豚インフルエンザ
2018年 二パウィルス

他方で疫病の歴史を紐解いたときにインド関連で大きく注目を集めてきたのが、1918年のスペイン風邪の流行時、インドでは多大なる被害を生じてきたという事実である。それから100年経った位までに、インフルエンザに対する脆弱性が高いことが専門家で議論されていることに留意しなければならない。

「大国」であることが弱点となるインド

このように脆弱な衛生環境を持つインドだが、他方で疫病の流行という意味ではその環境は更に輪を掛けてネガティブに働き得る。まずその人口の多さであり、また都市部における人口密度の高さである。

(図表2 中国とインドの人口推移)

出典:Our World in Data

インドの人口が間もなく中国の人口を超えるという予測は国連を始め様々な機関が公表している。また都市部における人口密度の高さは明らかである。当然ながらヒトからヒトへの感染という意味ではヒトとの接触回数が多ければ多い程感染しやすくなるのは自明であるから、インドのこの状況はマイナス要因になる。また印僑と呼ばれるように世界中にインド系の人々が散っていることも大きな問題である。今春節であることがコロナウィルスの流行において憂慮すべきことから明らかなようにインド人の移動も大きなネガティブ要因になるのである。

(図表3 依然として衛生施設普及率50%未満の開発途上国であるインド)

出典:国連大学
(出典:国連大学)

そもそもアフガニスタンやパキスタンなど周辺諸国と陸でつながっているというのも、大きなマイナス要因になる。やはり陸路の方がウィルスも移動しやすいのだ。

もちろん、インドばかりがエピデミックの発生において注目すべき場所ではない。しかし、上述したことに加え、中国に物理的に近いことも憂慮すべきことなのだ。二代人口集中国において感染症が発生してしまえば世界的にも大きな問題になるのは明らかである。この問題は全くもって無視してはならない。

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
元キャリア外交官である原田武夫が2007年に設立登記(本社:東京・丸の内)。グローバル・マクロ(国際的な資金循環)と地政学リスクの分析をベースとした予測分析シナリオを定量分析と定性分析による独自の手法で作成・公表している。それに基づく調査分析レポートはトムソン・ロイターで配信され、国内外の有力機関投資家等から定評を得ている。「パックス・ジャポニカ」の実現を掲げた独立系シンクタンクとしての活動の他、国内外有力企業に対する経営コンサルティングや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。

大和田克 (おおわだ・すぐる)
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー。2014年早稲田大学基幹理工学研究科数学応用数理専攻修士課程修了。同年4月に2017年3月まで株式会社みずほフィナンシャルグループにて勤務。同期間中、みずほ第一フィナンシャルテクノロジーに出向。2017年より現職。