会社の廃業・清算は誰も幸せにしない最悪のシナリオ
本章では事業承継の方法について解説しますが、その前に事業承継ができなかった場合、会社と経営者にどのようなことが起きるのかについてお話ししたいと思います。
まずは、廃業を決定している、あるいは予定している経営者がどれだけいるかというデータを見てみましょう。日本政策金融公庫総合研究所が2016(平成28 )年2月に発表した「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」によると、廃業を決定している企業の割合は12・4%、廃業を予定している企業が50%以上であり、これらの企業の社長の平均年齢は71・1歳となっています。
かなりの割合の経営者が事業承継の問題を先送りにしてきてしまい、70歳を過ぎて廃業を選択せざるを得なくなったという状況が見てとれます。では、経営者の方々が廃業を選択する理由にはどのようなものがあるのでしょうか。中小企業庁が公表している「中小企業白書 2017」には、次のようなことがあげられています(複数回答)。
- 業績が厳しい 37・3%
- 後継者を確保できない 33・3%
- 会社や事業に将来性がない 30・7%
- もともと自分の代限りでやめるつもりだった 30・7%
- 高齢のため(体力・判断力の低下) 22・7%
- 従業員の確保が困難 17・3%
- 技能等の引継ぎが困難 14・7%
- 事業用資産の老朽化 6・7%
多くの経営者がさまざまな問題に直面していることがわかりますが、私が皆さんに考えていただきたいのは、廃業は本当に正しい選択なのかということです。
廃業には、従業員とその家族を路頭に迷わせてしまう、経営者自身にも多額の負債が残るなど、多くのデメリットがあります。仕入れ先などの取引会社はビジネス的に打撃を被るし、それまで自分が築き上げてきた人的ネットワークや蓄積してきた独自技術は誰にも継承されずにこの世から消えてしまうでしょう。
想像してみてください、あなたが75歳や80歳になった時のことを。
ご自身が創業して育ててきた会社はもう跡形もなく、元従業員たちは散り散りバラバラで音信不通です。彼ら、彼女らには、ろくな退職金も渡せず会社から放り出したようなものだから、その後は生活に困窮した人もいるでしょう。もしかしたら、あなたのことを恨んでいるかもしれません。人生の最後にきてこれでは、あまりに寂しすぎるのではないでしょうか。
企業は非人格ですが、法人格という法律上の人格があります。経営者にとって、自分が創業して育ててきた会社は子供のような存在ともいえるでしょう。それを最後に清算して廃業してしまうことは、あえて誤解を恐れずに言うならば、親が子供を殺すようなものではないかと私は思うのです。
しかし、もし子供のように育ててきた自社を引き継いで、さらに成長させてくれるような会社があったとしたらどうでしょうか?
そのような会社同士をマッチングしてM&Aの仲介をするのが我々の仕事です。
M&Aとは、企業同士が合併したり、他社を買収することで、Mergers(マージャーズ)=合併とAcquisitions(アクイジションズ)=買収の頭文字を取って、「エム・アンド・エー」と呼ばれています。
私は、M&Aとは結婚と同じようなものだと考えています。そうであるならば、自分が創業した子供のように大切な会社に、しっかりした結婚相手、つまり譲り受ける企業を見つけて結婚させて、存続させていくことが親の責任でしょう。
M&Aで会社を譲渡して優良企業の傘下に入ることができれば、従業員たちは新たなステージで仕事に取り組み、引き続き生活の糧を得ていくことができます。そして、ご自身のリタイア後、従業員たちが「創業社長がしっかりと会社を残してくれたおかげで会社が大きくなった。生活も安定したし、給料も上がった。本当にありがたい」と感謝してくれたら、それこそが創業者にとって幸せな人生なのではないかと思うのです。
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