規律不在の前金ビジネスで、堕落の穴に陥った
このNOVAの事例の失敗の背景は、「前金ビジネス」の要諦を完全に外したことにあります。サービス提供前に顧客から支払いをしてもらう前金ビジネスは、支払いが後になるその他多くのビジネスと異なり、キャッシュフローの面でかなり楽になります。
しかし、この手のビジネスには「堕落」という大きな落とし穴があります。つまり、「契約を取るまでが全て」であり、その後の顧客満足度に興味が向きにくい、ということです。さらに、未消費レッスンを残したままフェードアウトする顧客が増えるほど、少ない講師数で教室を運営することができるようになるため、NOVAの利益率は高くなる、というメカニズムがあります。極めて堕落の引力が強いビジネスと言えます。
したがって、このような前金ビジネスほど、マネジメントサイクルに「規律のメカニズム」を入れなくてはなりません。具体的には、顧客からの満足度を何らかの経営指標として掲げ、満足度が低い講師や教室については経営が目を光らせて、早めの段階で手を打つ仕組みを導入することです。
しかし、残念ながらNOVAはこの「規律」が効いていませんでした。それよりも、「キャッシュイン」につながる生徒数、そしてそれにつながるCM作りや教室展開を何より優先していたのでしょう。そうなれば、現場はキャッシュにつながる「新規顧客の獲得」にしか目がいかなくなり、自ずと既に契約した人からのリクエストや苦情に対する優先度は落ちることになります。このような「サービス業としての堕落」が、結果的には時限爆弾のように時間差を置いてNOVAを直撃したのです。
倒産した後、猿橋社長の豪華過ぎる社長室も明らかになりました。まるで一流ホテルの部屋のような佇まい。その裏側には隠し部屋があり、サウナやベッドまで付いていたのです。前金ビジネスにおいて、手元にあるキャッシュは「一時的に顧客から預かったお金」でしかありません。しかし、多額のキャッシュを目の前に勘違いしてしまうと、「堕落」が始まるのです。「規律」という仕組みをビルトインせず、このような社長室を作ってしまった時点で、NOVAの命運は決まっていたのかも知れません。
私たちへのメッセージ
ビジネスにおいて規律が重要なことは言うまでもありませんが、キャッシュインの仕組みと規律の関係性を意識している人は少ないかも知れません。どんなビジネスを回すにもキャッシュは必要になります。そのキャッシュの出し手は、銀行の場合もあれば、株主も、そして今回のように顧客の場合もあります。私たちは好むと好まざるとに関係なく、このキャッシュの出し手を意識したビジネスをしなくてはなりません。
自分たちのビジネスのキャッシュの出し手は誰なのか、そしてそれに必要な「規律」は一体何なのか、この事例はそこを考える必要性に気づかせてくれるのです。
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