課題の解決につながる情報を幅広く持つ

課題解決の提案に関しても、最初は士業としての専門分野から始めるのがよいでしょう。

私の場合は会計と税務が専門なので、資金繰りや税金といった数字の相談から入ることが多いです。先方から相談されなくても、決算書を見れば多額の税金がかかる、あるいは資金繰りが苦しいといったことはわかるので、その点に関して質問し、じっくりと話を聴いたうえで経営課題を明確にし、その状況を改善するための提案をします。

たとえば、資金繰りが苦しい場合、公認会計士や税理士の提案として多いのは、経費の削減、銀行からの借り入れ、借入金返済のリスケジュール、売掛金と買掛金の決済サイトの見直し、換金性の高い資産の売却、補助金や助成金の獲得などです。これらについて詳しくなり、いくつか事例を経験してきちんと提案できることがまずは重要です。

資金繰り改善の方策①「経費節減」

経費削減は即効性がある資金繰りの改善方法の一つです。電気代、水道代、通信費、コピー代などは比較的簡単に削減できますが、数百万円から数千万円の経費削減になる場合もあります。こうした経費削減は提携先の経費削減業者に無料診断を依頼して、削減可能と判断されたら手続きをお願いしています。クライアントは削減できた金額の一部を報酬として支払うため、クライアントは得こそしますが損をすることはありません。

これらの経費削減は具体的な数字で効果を把握できます。こうした明らかな成果が出る提案をして信頼を得ることができると、より深く経営に関われるようになります。

資金繰り改善の方策②「借り入れ」

銀行からの借り入れや、借入金返済のリスケジュールで資金繰りを改善につなげるためには、財務状況を勘案して銀行とどのように交渉を進めるべきかを助言して、事業計画書の作成などを支援します。そのためにも各金融機関の法人営業担当者と接点を持ち、融資実行の際の重要なチェックポイントや有利な条件で借りるための制度について把握します。

さらにクライアントには銀行の法人営業担当者を紹介し、面談に同席してさまざまなフォローを行います。銀行からの借り入れは、法人営業の担当者経由で申し込むと、窓口から申し込む場合と比べてその後の手続きの負担がずいぶんと軽くなり、融資が通る可能性も高くなります。そのため金融機関の法人営業担当者との結びつきを強化するだけで大きな付加価値となります。

銀行の法人営業担当者は法人の融資先を必死で探しています。そのため、士業から「借り入れを希望している会社を紹介したい」と言われれば喜んで会ってもらえます。また、メガバンクよりも地方銀行や信用金庫、信用組合のほうが少額の融資でも柔軟に対応してくれますので、中小企業の借り入れを支援するうえではそういった金融機関がお薦めです。

資金繰り改善の方策③「補助金・助成金申請」

補助金や助成金の獲得も資金繰りの改善につながります。申請さえすれば高い確率で獲得できる補助金や助成金もあるのに、情報を知らないだけで取得機会を逸している企業が非常に多いのが現状です。前出の行政書士の石下氏が運営するサイト「みんなの助成金」では、補助金や助成金の情報がタイムリーに入手できます。こうした提案は資金繰りに困っている会社のみならず、ほとんどの会社に喜んでもらえる付加価値の高い提案です。

根本的な売上改善の提案

ただ、これらの方策はあくまで一時的なものであり、根本的な資金繰り改善のためには、売上を増やして利益が出る体制を確立することが必要です。そのための手立ては多数ありますが、私がこれまでにした提案の一部をご紹介します。

  • 売上の構成を分析し、売上を伸ばしやすい商品と伸ばしにくい商品を明確にする
  • 利益率の高い商品と低い商品とに分類し、利益率の高い商品の販売を強化する
  • 商品の仕入れ先を見直す、あるいは仕入れ先と交渉して原価を下げて利益率を上げる
  • ターゲットとなる顧客像を明確にし、そのターゲットに絞った広告を打つ
  • 客単価を上げるため商品メニューを増やす。メニューが多過ぎる場合は数を絞る
  • 同業他社の状況を調べ、他社にはない強みを商品の企画に入れる
  • 消費者心理に基づいて営業マンの営業トークを改善する、モチベーションを上げる
  • 消費者心理に基づいて商品パッケージ、HP、チラシなどのデザインや文言を見直す
  • HPやLPに関してABテストを行い、ウェブからの申込率を上げる
  • 店舗の外装・内装を見直し、SNSで拡散されやすくするための特徴的なデザインを行う
  • 接客のトークを改善するため、評価の高い接客係のトークを分析する
  • モニター制度やアンケートを実施し、顧客の本音を把握する
  • 自社の商品と相乗効果が出せる商品を扱っている業務提携先を発掘する
  • 多くの顧客を紹介してくれる可能性がある人との接触頻度を上げる
  • 既存の顧客リストを整備して定期的にアフターフォローを行う
  • 過去の見込み客の掘り起こしを行い、キャンペーンなどのお知らせを行う
  • 人手不足が売上拡大の障害であれば採用戦略を見直し、募集をかける
経営参謀としての士業戦略
藤田 耕司(ふじた・こうじ)
一般社団法人日本経営心理士協会代表理事、FSGマネジメント株式会社代表取締役、FSG税理士事務所代表
公認会計士、税理士、心理カウンセラー
19歳から心理学を学び、心理カウンセラー等の複数の心理系資格を取得。2011年に監査法人トーマツを退職し、コンサルティング会社と会計事務所を設立。人材育成から労務問題、採用、営業、マーケティングまで幅広い分野で、これまでに1,000件超の経営相談を受け、数字と人間心理の両面から経営改善を行う。また、これまでの経営改善事例から経営者の心理、部下の心理、顧客の心理、自己の心理を分析し、経営心理学として体系化することで経営指導の成果を大きく高める。現在、経営者人材や経営参謀の育成を目的として経営心理学を伝える経営心理士講座を主宰。全国から経営者や士業が集まっている。著書に『リーダーのための経営心理学』(日本経済新聞出版社)、『もめないための相続心理学』(中央経済社)がある。

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