先月までの動き

年金数理部会では、国家公務員共済組合(国共済)、地方公務員共済組合(地共済)、私立学校教職員共済制度(私学共済)の平成30年度財政状況が報告された。年度内に分析結果が公表される予定である。年金事業管理部会では、日本年金機構の令和2年度計画案が報告された。保険料納付率の向上を図るための対策や、インターネットを利用した相談予約の準備などを進める計画となっている。

○社会保障審議会  年金数理部会
1月9日(第83回) 平成30年度財政状況(国家公務員共済、地方公務員共済、私立学校教職員共済)
URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000198131_00011.html  (資料)

○社会保障審議会  年金事業管理部会
1月24日(第47回) 日本年金機構の令和2年度計画の策定、その他
URL https://www.mhlw.go.jp/stf/kanribukai-siryo47_00001.html  (資料)

※厚生労働省年金局年金課
1月24日 令和2年度の年金額改定について
URL https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000191631_00006.html  (資料)

ポイント解説:年金額改定の仕組みと見直し

1月24日に2020(令和2)年度の年金額改定の内容が公表された。本稿では、その仕組みと、2021年度分から予定されている見直しを確認する。

●改正案の要点:加入対象者が公私年金で連動する形へ

現在の公的年金額の改定(毎年度の見直し)は、2つの要素から構成されている。1つ目は、物価や賃金の変化に応じて年金額の価値を維持する部分であり、これが年金額改定の基本的な意義である(以下では、基本的な改定という)。これに加えて、現在は年金財政を健全化している最中なので、少子化や長寿化の影響を吸収するための調整(いわゆるマクロ経済スライド)も加味される。2020年度の改定では、基本的な改定率が+0.3%、マクロ経済スライドの調整率が-0.1%であるため、年金額の改定率は+0.2%となった(図表1)。

年金改革ウォッチ,年金額改定
(画像=ニッセイ基礎研究所)

基本的な改定率は、物価の変動と賃金の変動の組み合わせで決まる(図表2)。このうち物価変動は、前年の消費者物価指数(総合・年(暦年)平均)の対前年上昇率が使われる。昨年10月に消費税率が引上げられたが大きな影響はなかったため(図表3)、一昨年より小幅な上昇(+0.5%)にとどまった。

年金改革ウォッチ,年金額改定
(画像=ニッセイ基礎研究所)

他方、賃金の変動は、上述した前年の物価上昇率に、2~4年度前までの実質賃金変動率の平均と3年度前の可処分所得割合変化率とを掛けたものであり、今回は+0.3%だった。この結果、図表2の(6)に該当し、基本的な改定率は68歳未満・68歳以上(1)ともに賃金変動率の+0.3%となった。

年金改革ウォッチ,年金額改定
(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(1)2000年改正以降は原則として、新たに受け取る年金(新規裁定年金)は現役世代の生活水準の変化を反映するために賃金に連動し、既に受け取っている年金(既裁定年金)は購買力を維持するために物価に連動する、という仕組みになっている。68歳が境なのは、賃金変動率が2~4年度前の賃金を基に決まる仕組みの上で、65歳時点までの賃金変動を反映するため。

●2021年度から:基本的な改定が68歳未満は常に賃金に68歳以上は物価と賃金の低い方に連動

2021年度分からは、基本的な改定率のルールが変更される。これまで図表4の(4)と(5)の場合は、受給者の年金額への影響や現役世代の賃金の伸びとのバランスを考慮して、物価上昇率で改定したり、年金額を据え置く(改定率をゼロとする)仕組みだった。しかし、この仕組みでは、年金額の伸び(改定率)が保険料収入の伸びの要素である賃金上昇率を上回るため、年金財政が悪化する方向に働いた。そこで、さらなる悪化を防ぐため、2021年度分からは図表4の(4)と(5)の場合も(6)と同様に賃金の伸びで改定することになっている。

年金改革ウォッチ,年金額改定
(画像=ニッセイ基礎研究所)

この変更は2016年に国会で審議され、一部の野党が「年金カット法案」と批判して注目を集めた。しかし審議の過程で、当面の受給者にとっては改悪だが、年金財政の悪化を防いで将来の給付水準の低下を抑える効果があることが認識され、報道各社の世論調査では賛成の割合が高まった(図表5)。2021年度改定の公表時(2021年1月22日)には、制度変更の意義が再認識されることを期待したい。

年金改革ウォッチ,年金額改定
(画像=ニッセイ基礎研究所)

中嶋邦夫(なかしま くにお)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任

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