2019年の出生数は、年間推計で86.4万人と前年比△5.9%の大幅減になった。これは、人口推計(中位)よりも下振れした予想外の数字である。20・30歳代の女性の減少が響き、また2018年の婚姻数も前年比△3.4%と大きかったこともある。2019年の婚姻数は前年比△0.6%と小幅になったが、それで楽観してはいけないだろう。
出生数86.4万人のショック
厚生労働省よりショッキングなデータが昨年末に発表された。人口動態統計の2019年(令和元年)の年間推計で、出生数が86.4万人と前年比△5.9%の大幅減になったことである(図表1)。
筆者は以前に令和の元年効果により、2019年は婚姻数が増加して、東京五輪の2020年は出生数が増えると予想していた。また、政策的にも、こうした上げ潮効果を後押しするのが効果的だと主張していた。
ところが、婚姻件数の2019年推計は前年比△0.6%とマイナスであり、プラス浮上は実現しなかった。確かに、前年比△0.6%というマイナス幅は、2013~2018年のマイナス幅では最も小幅であった(図表2)。マイナスのトレンドは、年間△13,000人減だから、「元年に結婚しよう」という人は約10,000人くらいの増加寄与はあったとみられる。それでも、トレンドのマイナス幅の方が大きく、筆者が期待していた元年効果はそれを上回るものではなかったと言える。
もっと衝撃的だったのは、2019年の年間推計で出生数がかつてなく大幅なマイナスを記録したことである。2019年推計の出生数86.4万人は、過去を遡って1989年(平成元年)の前年比△5.1%を上回って、1975年以来の減少率※になりそうである。2000年以降の出生数でみて、2019年のマイナス幅は、標準偏差の2.6倍の幅での大きな下振れでもある。出生数が100万人を切ったのは2016年のことであるから、そのときから僅か3年後に86.4万人へ約△14%も出生数が減ったことになる。少子化のスピードは予想外に早いので、政府はもっと積極的に少子化対策を実行する方がよい。
※1975年の出生数は前年比△6.3%、ひのえうまの1966年は前年比△25.4%の減少であった。
人口推計よりも下振れる
ところで、なぜ2019年の出生数は大きく落ち込んだのだろうか。筆者は、厚労省のデータがあまりにショッキングだったので、何人かの人にその理由を尋ねてみた。すると、ある人から「この減少は、人口推計の予想通りの変化であり、意外感はない」という答えを聞いて驚いた。そのときは、手元に人口推計の出生数のデータがなかったので、うっかりとその発言を信じてしまった。しかし、後で確認すると、国立社会保障・人口問題研究所の中位推計は、2019年92.1万人であり実際と大きく食い違う(図表3)。中位推計のデータは△6.2%も下方修正されなくてはいけないので、決して「予想通り」ではなかった。出生低位のシナリオでは2019年83.6万人だった。その低位推計よりは3.3%ほど上回っている。低位のシナリオほどではないが、著しいマイナスである。
出生数減少の理由のひとつは、子供を産む年齢層の女性が減っていることだが、それは中位推計などの前提には織り込まれているはずだ。むしろ、各年で変動する要因が影響していると考えるべきだろう。別の要因として考えられるのは、結婚する人々が大きく減ったことではないだろうか。2018年の婚姻件数は、前年比△3.4%と過去10年間で2番目に大きく、その影響で2019年の出生数は減った。
もっとも、2019年の婚姻数が前年比△0.6%と小幅だったから、「2020年の出生数は回復するか」と筆者が問われると、今はそう答える自信はなくなっている。婚姻数と出生数の間に因果関係があるとしても、婚姻数だけで出生数が決まるほどは強い関係ではなさそうだ。むしろ、婚姻数が強い減少傾向にあり、容易に婚姻数が持ち上がらないことを深刻に考えるべきだろう。
20・30歳代の女性の減少
出生数の減少の根本的な原因は、20・30歳代の女性の減少である。これは、過去20~30年前の出生数の減少が、さらに次のサイクルになって出生ペースを減らす結果にはね返ってきた結果だろう。
2000年に、20歳から50歳までの女性の人口が1歳上の人口よりもどの位増えているかを並べると、その変化は20~50年前の出生数の前年比を反映している(図表4)。女性の年齢別出生率(出生数/女性人口)をみると、20~24歳は2.75%、25~29歳は8.21%、30~34歳は10.22%、35~39歳は5.74%、40~44歳は1.14%となっている(2017年)。1年間に子供を産む割合が10%を超えているのは29~32歳の年齢層である。現在47・48歳の女性がその年齢層だった2001~2004年頃までは子供は比較的増えやすかったとみられる。人口のボリュームゾーンが、出生率の高い時期を迎えていたからだ。
裏返しの理屈で考えると、現在30~35歳の女性は、出生数が大きく減少していた年齢層なので、その人達が出生率の高い年齢ゾーンを迎えることになっていて、全体の出生数も前年比で減少しやすい。2016~2019年にかけて出生数が減少したのは、その表れとみることもできる。
今後の出生数
もっとも、現在28歳以下の年齢層は、出生率の減少幅は小さくなって、出生数が下げ止まってきた時期の人々である。つまり、彼らが出産する人が多くなる29~32歳の年齢ゾーンに入ってくると、おそらくは出生数全体も減少しにくくなるはずだ。実は、国立社会保障・人口問題研究所の推計は、2020年までは出生数が前年比△2%台のマイナスであるが、2021~2024年は△1%台、そして2025年以降は△0%台へとマイナス幅が縮小する。その推計は、女性の人口減少ペースがマイルドになることをきちんと反映して、減少幅が2021年以降に縮小することを織り込んでいる。
国立社会保障・人口問題研究所の推計は、ピンポイントで2019年こそ大きく実績が下振れしたが、その趨勢でみるとそれほど間違ってはいないと思える。2016~2019年の減少幅は大きく、2021年頃からマイルドになっていくという予想においては、その推計は妥当と考えられる。
ただ、2021年以降の出生数は、変化率が大きくないだけで、絶対数が少なくなっていることに変わりはない。2016~2019年の出生減は、再び30年後の次のサイクルの出生減へとネガティブ・フィードバックするだろう。その悪循環に歯止めをかけることが大切だ。
政府の少子化対策
安倍政権は、全世代型社会保障を打ち出し、保育や教育費の無償化・支援を行っている。これが少子化への対抗策としてどこまで有効なのかは、今後、検証を要するだろう。これら従来の政策は、フランスや北欧の事例を参考にしているが、まだ積極的とは言い切れないと感じる。
結婚を促進することには、自治体や企業団体は取り組んでいるが、政府が税制・給付金などで大規模に行うことは熱心には行っていない。少子化対策は、(1)結婚を増やし、(2)若い年齢で出産し、(3)第2子よりも多く子供を増やすことが肝要である。近年は、合計特殊出生率こそはボトムアウトして1.41~1.45まで戻しているが、そもそも女性の人数が減っているので、絶対数としての出生数が減っていくトレンドを変えられない。多くの識者は、相当に大胆なことを実行しなくては、出生数を増やせないからとわかっているが、結婚を増やすことや、若い年齢で結婚・出産を行うことを政策として積極的に後押しするかどうかについては少し温度差があるように感じる。86.4万人というショッキングな数字が、今後の少子化対策に本気になることに対して、良い意味でのモチベーションになればよいと思う。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 首席エコノミスト 熊野 英生