10年後の消費マーケットを考えるために、10年前、20年前の変化を振り返ってみた。人口1人当たりの消費額は、5.7~5.8%となり、今後、人口が10年間で△4.9%減っていくと、消費マーケットはほとんど頭打ちとなる可能性が高い。これをAI化などのテクノロジーで打開することはできるだろうか。

経済
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消費マーケットの成長が静止する未来

2020年を迎えたので、次の10年に当たる2030年の未来について考えてみたい。まずは、個人消費の市場規模は、人口減少の進む未来にどうなりそうかを予想する。

今後の人口推計は、今まで以上に総人口の減少が進む。国立社会保障・人口問題研究所の中位推計(2017年)では、2020年12,577万人から2030年11,912万人へと△4.9%減となる見通しである。もしも、10年後の消費マーケットが拡大しているとすれば、この△4.9%の人数減少幅よりも、人口1人当たりの消費額が上回って増加している必要がある。

1人当たりの消費額が10年間でどの位増えそうかを検討してみると、過去、2000年度→2010年度、2008 年度→2018年度はどうであったかを調べると参考になる(図表1)。計算は、物価変動を控除した実質消費の中で、持ち家の帰属家賃を除いた金額を使う。それを総人口で割ると、1人当たりの消費額がどう変化したのかという実績がわかる。

2030年の消費マーケットは拡大せず
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2000年代は、1人当たり消費額が5%台のペースで増えてきた。2000年から2018年の人口はほぼ0%の伸びで、1人当たり消費額が年平均0.5%で伸びてきた。マクロの消費マーケットも、実質値では緩やかに伸びている(図表2)。2020~2030年度にかけて同じペースで増えるとしても、人口減が△4.9%減となる前提では、消費マーケットは1%未満でほぼ横ばいになりそうだ。例えば、過去10年と同じく1人当たり消費額が5.8%であれば、2030年の消費マーケットは239.7兆円となり、変化率は僅か0.9%増加となる。年平均で0.1%増加はほぼ成長が静止しているのと同じである。筆者が読者に伝えたいことは、今後10年後は人口減少により消費マーケットの成長が停止して、その後縮小する可能性が高いという未来図があることである。

2030年の消費マーケットは拡大せず
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(参考)2030年度の実質GDP(経済規模)を推計すると、583.1兆円と2020年度に比べて8.0%の増加となりそうだ。2019・2020年度は弊社の経済予測値、2021~2030年度は日本経済研究センターのESPフォーキャスト調査を使った。2019~2030年度で平均すると年0.74%という計算になる。もしも、この数字が正しいのであれば、家計最終消費(除く持ち家の帰属家賃)がGDP全体に占める割合は、2018年度の44.5%から41.1%になる。人口減少の下、企業や政府部門が専ら成長するという図式になるのだろう。

生産年齢人口の変化

今後、人口減少が進んだとしても、消費マーケットが全体として成長し続けるにはどうなればよいのだろう。筆者は、2000~2020年のトレンドからみて、1人当たり消費額は10年で5%台だろうと、目算を立てた。2000年代よりも過去を振り返ると、1990~2000年は9.3%増(推計)、1980~1990年は37.8%(旧GDPベース)、1970~1980年は38.4%(同)とより高い成長を遂げてきた。2020~2030年の1人当たり消費額が10年間で5%台しか増えないという前提は、絶対に変わらない可能性と決めつけることはできない。「今までと同じペースであれば」という前提で、10年後の消費マーケットは成長が止まると予想できるのである。

では、なぜ、2000年代になると、1人当たりの消費額はそれまでの高い成長率を実現できなくなったのだろうか。その答えは、バブル崩壊とか、イノベーションの不在などマクロ経済の変調・限界説など多様な仮説を立てることが可能だ。確かに、GDP全体ではそうかもしれない。ただ、そうした議論をすると、論点が拡散してしまう。むしろ、消費マーケットに限定した議論として、筆者は人口高齢化を原因の有力説として挙げたい。わかりやすいデータとして、15~64歳の生産年齢人口が、総人口に占める割合に注目すると、その割合は1990年代にピークに達して、2000年代以降に急低下する(図表3)。勤労所得を稼いでいる中核の生産年齢人口が低下することは、それ以外の子供や高齢者の割合が上昇するということである。子供(0~14歳)のウエイトは1980~2000年頃までに低下して、それ以降はもう低下しなくなっている。すると、高齢者(65歳以上)のウエイトが上昇していることになる。データでは、1995~2020年にかけて、高齢化の重みが増していることがわかる。

2030年の消費マーケットは拡大せず
(画像=第一生命経済研究所)

非正規化の要因

人口動態と消費の関係を少し整理すると、1980~2000年までのように子供のウエイトが低下しているときは、1人当たりの消費額は増えていく。単純に子供1人が使う支出よりも大人1人が使う支出の方が大きいからだ。子供のウエイトが高まるときは、1人当たり消費額は低下する。1980~2000年は、その逆の圧力が働いた。生産年齢人口に当たる親たちは子育ての費用が軽くなり、支出を別の消費に回すこともできた。

ところが、2000~2020年は、そうした子供のウエイト変化がなくなり、高齢者のウエイト上昇が目立ってくる。高齢者は年金生活者であり、彼らのウエイトが上昇するときは所得分布は低所得化へシフトしていく。世帯単位で考えると、年金生活の世帯が増えるほど、1世帯平均の消費額は減っていく。1人当たり消費額でみても、年金生活者の増加により大きく下押しされたと考えられる。

なお、生産年齢人口の継続的な減少は、1995年を境にして始まったが、雇用者数は現在に至るまで増加している。ならば、雇用増によって、家計の購買力が低下する必然性はないという見方はできるのか。ところが、雇用者の内訳をみると、正規雇用者数はほぼ頭打ちで、専ら非正規雇用が増加している(図表4)。1995年以降は、非正規化によって家計の所得分布が低所得シフトしている。雇用者の裾野が広がっても、家計の購買力が持ち上がらない状況は今も続いている。

2030年の消費マーケットは拡大せず
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90年代末からの非正規化は、企業の防衛的な行動によって起きた。人件費負担を抑制するために、正規雇用を非正規に代替したのである。2000年頃からマクロの労働分配率は下がり、企業収益が増えてもその恩恵が家計に行き渡りにくくなっている(図表5)。最近は、若年人口が減って、非正規雇用者は若者からシニアへとシフトして、非正規率は高いままである。労働分配率を低く抑えるために、非正規雇用者を必要とする構図は将来も続きそうである。

2030年の消費マーケットは拡大せず
(画像=第一生命経済研究所)

2020~2030年を見通すと、高齢者の割合が急上昇からマイルドな上昇へと変わるものの、生産年齢人口の割合は着実に低下していく。生産年齢人口が減少し、その中でシニア層が非正規にシフトしていく流れが続く限りは、1人当たり消費額が高く伸びる公算は低いとみられる。2030年に消費マーケットは頭打ちになりそうだが、仮にもっと非正規化が進めば縮小に転じるタイミングが早まることすらあるだろう。

隠れた事情

高齢化が進み、所得分布が低所得化していくことは、果たして必然なのかという点を考えたい。高齢者が増えたとしても、彼らが働き手になって高い勤労収入を得ることができれば、論理的には、高齢化は必然的に低所得化にはならない。しかし、現実の問題として、高齢者が働くとしても、高い勤労収入を得ることはできず、非正規化してしまう。この点は、確かに労働分配率が低いからであるが、隠れた事情があると筆者は睨んでいる。

その事情とは、シニア労働の低生産性という供給側の要因である。もしも、65歳以上になって、生産性の高い仕事をシニア労働者がうまくこなすことができれば、65歳以上の勤労収入は増えていき、高齢化が進んでも消費マーケットは1人当たり消費額を増やすことを通じて拡大させていくことは可能になる。

多くの場合、日本企業の中では、「年長者になって役職定年になると、給与が下がっても仕方がない」という通念がある。そして、企業内では意欲を失った社内ディスカレッジド・ワーカーが定年延長された人を中心に多くなっていく。しかし、発想を変えて、65歳以上、あるいは60~64歳の人達に若い頃よりも高い生産性を追求できる仕事が数多くあるのだろうかと考えてみる。もしも、そうしたポストが多くある(あるいは多く生み出せる)のならば、企業はシニアの人材を遊ばせておくことは非常に非合理的なことをしていると言える。合理的に考えると、私たちが目にする現実には非合理な部分は多いとしても、そうしたポストは多くないと考える方が自然だろう。つまり、「高齢者でも働き方次第で高い生産性を発揮できる」という種類の仕事が多くないことが制約なのだ。企業はもっと工夫すべきだが、そうした制約を無視することはできない。

AIによる労働代替の行方

最近になって、AIを使えば、数多くの職種がなくなっていくという議論と、そうしたAI技術を使えば、日本のような国は労働力不足を補うことができるのでメリットが大きいという議論を耳にする。筆者は問題設定を建設的に捉え直して「AI技術を使って、年齢・体力が制約にならない働き方ができるか」という風に考えてみたい。

結論から言えば、残念ながらそうしたアイデアと正反対な答えの方が導かれやすいと考えられる。なぜならば、AI技術は労働集約的な仕事を代替しにくいが、一定のスキルを用いて、PCや電子機器を利用する資本・技術集約的な仕事の方を奪うと考えられるからだ。そうなると、マクロで考えると、AI化がなじまないサービス業・福祉介護などの低賃金の仕事が残って、現在、PCや電子機器を利用して働いている中堅・高賃金の仕事のいくつかを消滅させる。これは、不都合な状況である。望ましいのは労働集約的な仕事をAIなどで省力化・無人化させて、そこで生産性が上昇することを通じて、働き手の賃金を上げることだ。

テクノロジーを使って生産性を上げることは、個別の業種では幅広く行うことができても、マクロで考えると難しい。省力化されて生じる余剰労働力は、生産性が低い労働集約型の仕事へと流れ込むことになるからだ。すると、社会全体では低生産性産業へのシフトの効果が大きくなり、平均値としての日本の生産性も上昇しにくくなる。新しい「生産性パラドックス」の問題がマクロ的な課題として浮上してくる。

以上のような問題点は、日本経済についてはあまり突っ込んで検討されていないように思える。この問題点は、今後10年間のうちにもっと話題になっていくだろう。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 熊野 英生