はじめに

食肉が究極の贅沢になる日
(画像=industryviews/Shutterstock.com)

「食の洋風化」と叫ばれてから久しい。魚が相対的に高くなってきていることもあり、我が国で一日でも肉(meat)を食べないという人は、ビーガンでもない限り珍しくなってきた。またひとえに肉といっても「WAGYU」と呼ばれ世界的にも珍重される我が国の高級肉からブラジル産・タイ産の鶏肉までその価格帯や味はピンキリであり、更にホルモンが再度流行している上にジビエ・ブームもあり馬肉や鹿肉、ウサギ肉(ラパン)など部位のみならず元となる動物の種類もますます豊富になってきている。

しかし肉をこのまま日常生活で食することが出来なくなる可能性も生じ始めていることに留意しなければならない。単に各人の信義上の理由ではなく、環境面など様々な面で肉を巡る環境が厳しくなっているからだ。それに対して盛り上がりを見せているのが、「代替肉(Fake meat)」である。

代替肉とは(大抵)植物由来の異なる食物を利用して製造した「肉もどき」を指す。たとえば大豆原料に血を“演出”するためにビーツを混ぜ込んだ代替肉を提供するビヨンド・ミートは昨年5月にIPOを果たしたが、上場から僅か3か月で株価を5倍弱にまで伸ばしたのである。同社にはビル・ゲイツやレオナルド・ディカプリオなどの著名人が、また米食肉最大手のタイソンといった巨大企業が出資したことでも有名である。本稿はますます注目を集める「代替肉」を扱う。

(図表1 上場から3か月で5倍弱まで株価を伸ばしたビヨンド・ミート(BYND))

上場から3か月で5倍弱まで株価を伸ばしたビヨンド・ミート(BYND)
(出典:Yahoo! Finance)

食肉を巡る環境は厳しい

そもそも食肉を避けるのは、元来宗教上の理由によるものが殆どだったが、ダイエットなどの健康的理由、更には“ファッション”としての忌避を始めとして欧米では徐々に広まってきたのは読者各位も知るとおりである。健康面では、食肉が(大腸)ガンを誘発しやすくするといった臨床事例がますます集まってきている。そうした食肉忌避を更に加速しているのは、気候変動がある。

牛肉を典型として畜産では(1)穀物といった飼料を与える肥育、(2)牧草を与える飼育の2種類がある訳だが、前者では大豆(かす)やトウモロコシなどの飼料作物の成長に大きく影響を受けることとなる。後者では牧草が育つか否かに大きく依存することとなる。

前者で問題なのが、かたやアフリカなどで食糧難が生じている中で、敢えて飼料として穀物を用いることに対して批判があることである(無論、バイオエタノールなどでも同様の批判があるのだが)。それだけではない。大豆やトウモロコシは発芽や成長などの各生育過程で気候に変化が生じると、枯れてしまったり生長不順を簡単に生じたりと脆弱性が高い。

また後者ではオーストラリアやアルゼンチンが有名ではあるが、未だに深刻な被害を与えている森林火災がその生産に悪影響を与え得るのである(無論、森林再生を断念して畜産に火災後の土地を利用することもあり得る)。

(図表2 オーストラリアにおける森林火災)

オーストラリアにおける森林火災
(出典:Newsweek)

食肉による健康上のリスクが“喧伝”され生産が徐々に困難になりつつある中で、食肉が贅沢になりつつあるのである。

ただし前述した代替肉に加えて新たに登場しつつあるのが、「培養肉」である。米国だけでなくイスラエル、オランダ、更には我が国でも工場で細胞を培養することで「製造」することを進めているのである。日清食品を始めとして我が国の大手食品産業も「培養肉」に向けてその研究に投資している。

富裕層は“天然に”生産した家畜を、一般層は“人工に”(培養して)生産した「培養肉」を食すという棲み分けが生じる日もそう遠くないのである。

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
元キャリア外交官である原田武夫が2007年に設立登記(本社:東京・丸の内)。グローバル・マクロ(国際的な資金循環)と地政学リスクの分析をベースとした予測分析シナリオを定量分析と定性分析による独自の手法で作成・公表している。それに基づく調査分析レポートはトムソン・ロイターで配信され、国内外の有力機関投資家等から定評を得ている。「パックス・ジャポニカ」の実現を掲げた独立系シンクタンクとしての活動の他、国内外有力企業に対する経営コンサルティングや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。

大和田克 (おおわだ・すぐる)
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー。2014年早稲田大学基幹理工学研究科数学応用数理専攻修士課程修了。同年4月に2017年3月まで株式会社みずほフィナンシャルグループにて勤務。同期間中、みずほ第一フィナンシャルテクノロジーに出向。2017年より現職。