隠れキリシタンは、パラレルキャリアという発想が重要
とはいえ、現在、企業で行われている「働き方改革」は、労働者に残業をしないように効率的に働くことを強いていますので、時間は短くとも、朝から夜まで余裕なく働かざるを得ない状況になっています。その上で終業後、別の会社で働くのというのは、現実的には難しいと感じる人も多いかと思います。
そこで意識してほしいのが、「パラレルキャリア」という言葉です。ピーター・ドラッカーがこれからの社会での生き方のひとつとして、著書『明日を支配するもの』等で提唱している概念です。
パラレルキャリアとはその名の通り『複数のキャリアを平行して築いていく』ことですが、「報酬を得ることを必ずしも目的にしていない」ものとされており、昔から描いていた夢の実現や社会貢献などが含まれます。副業といっても単に空いた時間を別の労働に費やすのではなく、こうした「本当にやりたいこと」を探し、それに関連することをやることをぜひお勧めしたいと思います。
実は副業が「本業」にも貢献する
もちろん最初から副業として始めるパターンもあるでしょうが、趣味でやっていたことがいつの間にか広がっていくようなケースもあるでしょう。そして、当初はボランティア的にやっていたことが、だんだんと報酬を得るような状況に進展することもあります。
こうした本業以外の活動で獲得した人脈や能力、経験が次のキャリアや起業に役立つのはもちろんですが、実は、現在の本業の仕事にも役立つ可能性が高いのです。異業種の人脈と繋がることで、本業でのビジネスチャンスが広がり、会社から再評価され、「ここまでか」と諦めていたが昇進の機会が訪れた、という話を耳にすることもあります。
人生100年時代と言われていますが、公的年金の支給開始年齢も70歳ということになると、80歳くらいまではそれなりの稼ぎがないと、まともな生活ができません。
とすれば、こうした「隠れキリシタン」活動を行うにしても、本業の収入を補完するための副業という近視眼的な発想ではなく、もっと長期的にキャリアを考える必要があります。
週末起業はパラレルキャリアに最適
副業を考えている人の中には当然、将来的な起業を考えている人も多いことでしょう。
副業が軌道に乗り、フリーランスで開業する人が増えてきた印象がありますが、会社を辞めて、いちから起業するのは大変です。
独立起業したが、失敗してまたサラリーマンに戻ったという話もよく聞きます。失うものが少ない20代であれば、私も「若いうちは、失敗してもいいからどんどんチャレンジしよう!」とエールを送りますが、扶養家族や住宅ローンなど背負っているものが大きい50代になると、そう簡単な話ではありません。
かといって「2年間無収入でも生活できるだけのキャッシュを貯めてから起業する」といって起業した人など見たことはないですし、成功している人も私は知りません。
そこでお勧めしたいのが『週末起業』です。
会社員として安定収入を確保しながら、週末などの空き時間を利用して事業を起こすのです。これなら、仮に失敗してもダメージは最小限に抑えることができます。
働き方改革で、平日の夜と週末の2日間は自由に使える時間が確保できるようになった人も多いことでしょう。ならばその時間を使って事業計画を策定したり、市場性を分析したり、顧客情報を集めたり、人脈作りに出かけたり、ホームページを立ち上げたり、メルマガやブログを始めたり等々してみてはいかがでしょうか。会社に在籍しながら隙間時間・休日を利用してできることは山ほどあります。
隠れキリシタン状態で週末起業することで、事業領域についての知識を深めるだけでなく、経営感覚やコスト意識、マネジメント能力を研ぎ澄まされます。ダメだと思えば撤退して本業に集中すればいいのです。
起業が成功しても失敗しても確実に「経験値」が得られるこの方法、パラレルキャリアを志向する方にぜひお勧めしたいと思います。
麻野進(あさの・すすむ)
株式会社パルトネール代表取締役社長
1963年、大阪でサラリーマンの家で生まれる。大企業から中小・零細企業など企業規模、業種を問わず、組織・人材マネジメントに関するコンサルティングを展開。人事制度構築の実績は100社を超え、年間1000人を超える管理職に対し、組織マネジメント、セルフマネジメントの方法論を指導。入社6年でスピード出世を果たし、取締役に就任するも、ほどなく退職に追い込まれた経験から「出世」「リストラ」「管理職」「中高年」「労働時間マネジメント」「働き方改革」を主なテーマとした執筆・講演活動を行っている。
著書に、『イマドキ部下のトリセツ』(ぱる出版)、『課長の仕事術』(明日香出版社)、『「部下なし管理職」が生き残る51の方法』(東洋経済新報社)などがある。(『THE21オンライン』2019年12月23日 公開)
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