シンカー: 新型コロナウイルスの動向が、1月半ば以降、「質への逃避」が目立つマーケットを支配してきた。景気・マーケットの不透明感が強くなっているため、マーケットの予測には大きな混乱があるようだ。ブルームバーグによると、2020年1~3月期から10~12月期の実質GDP成長率のコンセンサスは、前期比年率+0.6%・+1.5%・+1.6%・+0.8%となっている。このコンセンサスを前提にすれば、2020年の実質GDP成長率は-0.4%と大きなマイナスとなってしまう。一方、ブルームバーグによると、2020年全体の実質GDP成長率のコンセンサスは+0.4%となっている。両者に大きな乖離が生まれ、一貫性がなくなっているようだ。2019年10~12月期の実質GDPが前期比年率~6.3%と大きく落ち込んだため、その反動が出て、新型コロナウィルスの影響があったとしても、2020年1~3月期が同+1.9%とリバウンドすると、2020年全体の実質GDP成長率は0.4%とコンセンサス通りになる。もし1~3月期がほぼゼロ成長となれば、今回の消費税率引き上げ、自然災害、暖冬、新型コロナウィルスなどの景気下押し圧力は3四半期で年率~2%程度となり、前回の消費税率引き上げ(3四半期の年率で~1%程度)の倍、東日本大震災(2四半期の年率で~4%程度)の半分と、かなり巨大になってしまうため、過度に悲観的な仮定のように感じる。実際のところ、2019年10~12月期が自然災害などでテクニカルに落ち込みすぎたため、論理的には2020年1~3月期の予測を持ち上げなくてはいけないが、新型コロナウィルスの影響により以前の予測より上方修正に見えるような形にすることができず、コンセンサスには不都合が生まれているようだ。このようなマーケットの予測に大きな混乱があることは、悲観論が過度であることを示すのかもしれない。東日本大震災の時も、実質GDPは2四半期で大きな落ち込みをみせたが、3四半期目にペントアップ需要で大きくリバウンドし、3四半期を合計してみればプラス成長であった。今回も新型コロナウィルスの影響が小さくなるにしたがって、ペントアップ需要が出てくるとともに、各国の経済対策の上積みされ、成長率の戻りは過度の悲観論を織り込んだコンセンサスより早いだろう。
グローバル・レポートの要約
●ドイツ経済(2/6):リセッションの瀬戸際で、米国に続いて陥る見込み
ドイツでは、12月の鉱工業や消費関連指標が暗い内容だったが、14日発表の2019年第4四半期(Q4)のGDP成長率は前期比0.03%となり、発表されていた2019年通期成長率(0.56%)の下方修正を辛うじて回避した。鉱工業部門は一連のショックを受けており、それにコロナウイルス禍の脅威が加わったが、構造的な逆風もすぐに消えるとは考えづらい。特に懸念されるのは、企業投資の低調さ(自動車メーカーはエレクトリック・テクノロジーへの移行に強力に取組んでいるが)と資本財生産減少の加速である。これは、2020年初めの貿易と鉱工業生産が、弊社が見込んでいたテクニカルなリバウンドよりも遥かに弱くなると示唆している可能性がある。とはいえ、中国以外の主な貿易相手国では大幅な(景気見通しの)下方修正が無く、鉱工業部門のマイナス寄与はQ1には小さくなると、弊社は引続き見込んでいる。また家計消費も回復するとみられる(背景は、労働市場の活況、実質可処分所得の力強い増加、原油価格の弱含み、消費者信頼感の底固さ)。この結果、最終的には米国のリセッションがドイツをリセッションに追い込む形になる可能性があり、その際には財政政策が追加される公算も大きくなるだろう。直近の政治的不確実性(メルケルCDU党首の後任を巡るもの)で、財政見通しが変化することは無いとみられる。それが変化する最も強いきっかけになるのは、緑の党が次期政権に加わる可能性(が出ること)である。
●米国経済(2/14): 民主党の2020年大統領選候補を考える
民主党が11月の大統領選でトランプ大統領に挑戦する候補者を選ぶ中で、予備選で再び問題が発生した。いずれにしても、トランプ大統領と対決する民主党候補が、穏健派、リベラルのどちらになるのかが大きな問題となる。トランプ再選の可能性が高くなった:弊社は2016年11月に、トランプ政権の成立は偶然で、1期で終わると考えていた。しかしトランプ大統領の政権維持力が強いことが明らかになり、今年11月に再選される可能性が高くなった。弊社は現時点で、トランプ大統領再選の可能性は60%、(まだ明らかになっていない)民主党の候補者が勝利する可能性は40%と考えている。世論調査は民主党候補が勝利する可能性がもっと高いと示しているが、市場はトランプ再選に強く傾いているようだ。ただトランプ再選となっても、民主党は議席数を増やすとみられる。
●債券市場(2/10):不安と期待
新型コロナウイルスの動向が、1月半ば以降、「質への逃避」が目立つ世界の債券市場を支配してきた。経済への持続的な影響について、最近の不安が現実化しないことを願うばかりである。投資環境がリスクオンのモードに切り替われば、それに続いて起こるのは金利の緩やかな反発であろう。当面、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策は現状維持が見込まれるため、債券相場に強気な弊社の長期的スタンス、デュレーション・ロングの方針に沿って、ポジティブ・キャリーの条件付きトレードを堅持していく。ユーロ圏では、イールドカーブ(10年セクター)のベア・スティープニングや、短期金利カーブが再びスティープ化する可能性を想定し、スワップションを活用したヘッジ取引を推奨する。
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司