よく、「落ち込んでも現実は変えられない」という。これはある意味では正しく、ある意味では間違っている。現実は変えられなくても、変えられるものがある――それは、現実をとらえる「解釈」だ。
今回は、自分や部下の悩みを解決する方法として、ABC理論を紹介する。自然とやってしまいがちな「解釈の誤り」についても解説するので、ぜひ参考にしてみてほしい。
ABC理論は、リーダーを目指すすべての人が活用できる手法だ。問題の本質を見抜く「洞察力」と「思考力」を身につければ、自然と人がついてきてくれるようになるだろう。
ケーススタディ(4)――問題の本質の所在
人材コンサルティング会社で働く及川圭佑(37)は、大きく伸びをしてから時計を見た。お昼休憩まであと5分。資料作成もひとくぎりついたので、どこでお昼を食べようかと思い巡らせる。
ふと、及川の目に同僚の大野の姿が飛び込んできた。何かうまくいっていないことがあるのか、表情がひどく暗い。そういえば昨日、部長に呼び出されていた。及川はそのあとすぐ外回りに行ったので、その後の詳細は知らなかった。
「大野、一緒に飯どうだ?」
12時を回ったタイミングで、及川は声をかけた。オフィスから少し歩いた先の中華料理屋に入り、ランチセットを頼む。店内は混んでいたが、ここには会社の人間はあまりこない。どう切り出そうか及川が考えていると、大野がちらりと微笑を浮かべて言った。
「お前は本当によく見てるよな」
どうやら、大野の様子がおかしいことに気づいた声をかけたことが、バレていたらしい。それなら話は早い。
「同期のよしみだ、愚痴ならいくらでも聞くよ」
及川の言葉に、大野は堰を切ったように話し始めた。
大野は最近、とあるプロジェクトのリーダーに任命された。しかし、メンバーのモチベーションも低く、上司との調整もうまくいかず、プロジェクトは難航している。昨日は進捗のことで上司に呼び出され、メンバーの一人は不満を言って、プロジェクトから抜けたいと言い出した。
「プロジェクトの進捗が遅れてるのは俺のせいだ。俺がリーダーでうまくいくはずないし、最初は断ったのに、適任者がいないとかで。まとめ役として、別の人間をリーダーにした方がいいと思う。俺は指示されて手を動かす方が向いている」
大野は完全に自信喪失している様子だ。どう言ったものかなと及川は考え、大野にクイズを出すことにした。
「大野、この間コミュニケーションのクイズ出したろ? 別のクイズもやってみないか?」
落ち込んでいた様子の大野は、興味を引かれたようだった。
Aくんが落ち込んだ原因は?」
(1) 仕事で失敗したという出来事そのもの。
(2) 失敗する人間は評価されないという考え方。
仕事で致命的なミス! その原因は?
「選択肢を聞くまで、(1)だと思ってたけど……。(2)のような捉え方もできるのか」
大野はそう言って考え込んだ。及川は続ける。