不動産が高値水準と言われるようになってなって久しい。最近では、マンションセクターと、ホテルセクターで市況の先行きが懸念されるなか、市場では先月の末に米ファンドが行った3,000億円の「バルクセール(まとめ売買)」が話題となるなど、売買物件の品薄感が継続している。

不動産取引額
(画像=PIXTA)

昨年の年間取引額は、RCAによると4.5兆円(前年比+3%)であった。昨年の取引額をやや上回ったものの、直近で最も取引が多かった2014年の7.3兆円を3割強下回っている(図表-1)。

用途別では、オフィスの割合が大きく、2014年以降は取引全体に対して5割弱を占める状況が続いている。2019年はオフィスが45%、物流施設・商業施設、ホテルが11%、マンションが10%、開発用地が11%となった(図表‐2)。好調が続くオフィスと物流(1)で取引市場の56%を占めることなどが、今の市況の安定感につながっている。

不動産取引額
(画像=ニッセイ基礎研究所)

買主別ではJ-REITが買い越しを続けている。J-REITは保有物件を頻繁に売却することはないこともあり、他の買主の売買動向と比べると、その差は歴然としている。2019年の純取引額は、J-REITが約6,600億円の買い越し、外国資本が約750億円の買い越し、機関投資家が約670億円の売り越し、私募・個人が約820億円の売り越しとなった(図表‐3)。購入額でみれば、外資はJ-REITの7割、機関投資家は2割、私募・個人は5割であるが、それぞれ購入額と同等の売却を行っており、J-REIT以外の市場参加者の純投資額は低水準となっている。

一方、J-REITの購入額は全体比37%であり、上記買い越し額は全体比15%に及ぶ。またJ-REITの購入額のうち、2019年に新築された物件は1,000億円程度であるため、差の約5,600億円の既存物件が取引市場から消えたことになる。

今の不動産の市場には従来の不動産業の他、情報・通信業、小売業、電気ガス業など他業種からの参入も多く、少ない物件に希望者が殺到し、全セクターにおいて期待利回りが低下を続けている。利回りは価格と賃料のバランスを確認する指標として用いることができるが(2)、その水準は既にファンドバブル(天井圏は2007年から2008年半ば)の頃を大きく下回る状況が続いており、この点では天井圏と見ることもできる(図表-4)。

また、最近の売買の傾向では、冒頭の「バルクセール(まとめ売買)」や、「交換取引(ある物件の売主が、買主が保有する同規模の物件を同時に購入する取引)」も多く、「多くの人が買いたいと思う物件が市場から減っている」ということを示している。

しかし、天井圏に見えても不動産市場が崩れるような兆候は今のところ見当たらない。コロナウィルスの影響もオフィスや物流施設に与える影響は当面は限定的であろうし、金融市場などからの価格の下落圧力がかかったとしても、価格下落に強いREIT、私募、大手機関投資家などが市場参加者の主力である今の市況においては、大型の物件を投げ売りするような状況には至らないであろう。今後も売買物件の品薄状態は続き、市場参加者が積極的に買いたいと思うような優良物件は、ますます市場から減少していくため、不動産市場における高値は当面続くものと思われる。

不動産取引額
(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(1)渡邊布味子『オフィス・物流市場は一段と改善、住宅市場は弱含みで推移-不動産クォータリー・レビュー2019年第4四半期』(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2019年2月10日)https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=63627?site=nli (2)価格、純収益(賃料等)、利回りの関係は P=a÷R (P:対象不動産の収益価格、a:一期間の純収益、R:還元利回り)となる。 賃料の額は大きく変化しないが価格は騰落するため、利回り低下は価格の上昇、利回り上昇は価格の下落と見ることができる。

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渡邊布味子 (わたなべ ふみこ)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 准主任研究員

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