日本とシリコンバレーで計5社を立ち上げたシリアルアントレプレナー(連続起業家)の田所雅之氏が、2020年2月18日に著書『御社のイノベーションはなぜ失敗するのか? 企業発イノベーションの科学』を出版した。
連載記事第3回目の今回は、日本企業のイノベーションが成功しない本質的な理由を伺った。(聞き手:山岸裕一、編集構成:菅野陽平)※本インタビューは2020年2月に実施
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組織はいずれ「1階化」してしまう
―前回、新著は主に経営層に読んでほしいとのお話でした。現場の人たちにもオススメできる内容でしょうか?
現場の人たちからもよく相談されます。現場から草の根的にできることはいっぱいあるし、いざ自身がマネージャーになった際の予習をしていただくこともできます。会社の意思決定はトップダウンだけでなくボトムアップでも起きる場合があるし、火を焚きつける意味でも読んでいただければ、得るものがあると思います。
しかし、どうしても現場の方は上長の言うことを聞いてしまう。『起業の科学』は現場やマネージャーなど立場は関係なく読んでいただきたいのに対し、今回の書籍はどちらかというと意思決定者に読んでいただきたい。
―基本は、組織を変えられる立場の人、ですね。
そうですね、リソース配分ができる立場の方。要するに、執行と経営は違うわけです。経営とは、ヒト・モノ・カネ・情報のリソースを集めてきて配分することですよね。
「3階建ての組織(第2回にて詳述)」は執行ではないんです。建物の中では執行しているんですけど、まさに経営を司る部分なんですね。
例えば私の経験で言うと、ベーシックという150人ほどの会社のCSO(Chief Strategy Officer)で、私は3階だけ一生懸命やっているんです。しかし、この少ない組織でも1階化しちゃうんです、基本的に。
私の役割はアクセラレーターですが、2年間ほどの経験で気づいたことがあります。おそらく、30人くらいの規模を超えてきたら、1階部分、つまりPLがとても大事になってくるので、それが至上命題になっちゃうんですよ。
しかし、損益だけに合わせてしまうと、特に上場後は顕著ですが「ゾンビ状態」になってしまう。時価総額100億円前後で停滞してしまっている企業はそんな感じなんです。要するに、次のモデルが創れていない。現状や過去の市場にフィットしてしまう。
結果、マザーズ(新興企業向け株式市場)は100億〜200億円で停滞する問題が起きている。何が言いたいかというと、大企業で起きている保守化は、上場しなくとも30人や50人に達した段階で起きちゃうんです。
それはもったいない。意思決定できるリソースを持っている方々が、執行ではなくて経営側でより進化してほしいな、との思いもあって書きました。
―今回の書籍のコアメッセージは、経営層に人たちに共通言語を持ってもらい、上手く経営してもらうことでしょうか?
上手くいくというか、「進化圧」がかかってないんですよね。進化を必要とする圧力を無視するとダメだなと思ってて。適切な進化圧をかけるというのがこの書籍のミッションですね。