3四半期連続の減益

法人企業統計
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財務省が3月2日に公表した法人企業統計によると、19年10-12月期の全産業(金融業、保険業を除く、以下同じ)の経常利益は前年比▲4.6%(7-9月期:同▲5.3%)と3四半期連続の減少となった。非製造業は前年比1.1%(7-9月期:同0.5%)と2四半期連続の増益を確保したが、製造業が前年比▲15.0%(7-9月期:同▲15.1%)と6四半期連続で減少し、3四半期連続で前年比二桁の大幅減益となった。

法人企業統計
(画像=ニッセイ基礎研究所)
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製造業は、輸出の低迷に国内需要の悪化が重なり、売上高が前年比▲6.7%(7-9月期:同▲1.5%)と減少幅が拡大したことに加え、売上高経常利益率が18年10-12月期の6.4%から5.8%へと悪化したことが収益の押し下げ要因となった。売上高経常利益率を要因分解すると、原油価格の下落に伴い変動費は利益率の改善要因となったが、人件費、金融費用、減価償却費が利益率の悪化要因となった。人件費は前年比▲0.7%と10四半期ぶりに減少したが、売上高の落ち込みが大きかったため、売上高人件費率は前年よりも上昇した。

非製造業は、消費税率引き上げ後の国内需要の落ち込みを反映し、売上高の減少幅が7-9月期の前年比▲3.1%から同▲6.3%へと拡大したが、売上高経常利益率が18年10-12月期の4.8%から5.1%へと改善したため、かろうじて増益となった。人件費が前年比▲2.4%と3四半期連続で減少したが、売上高の落ち込みがそれ以上となったため、売上高人件費は前年よりも悪化した。一方、円高、原油安の影響で変動費が前年比▲7.2%と売上高以上に減少したため、変動費要因が利益率を大きく押し上げた。

新型コロナウィルスの影響で、企業収益の一段の悪化は避けられず

季節調整済の経常利益は前期比▲2.5%(7-9月期:同▲2.3%)と3四半期連続で減少した。非製造業は前期比0.3%(7-9月期:同▲2.0%)とほぼ横ばいとなったが、製造業が前期比▲8.6%(7-9月期:同▲2.8%)と6四半期連続で減少した。

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経常利益(季節調整値)は19.5兆円となり、過去最高となった18年4-6月期の23.8兆円と比べると2割近く低い水準となった。特に製造業の経常利益はピーク時(18年4-6月期)から4割近く落ち込んでいる。

前回の消費税率引き上げ後(14年4-6月期)は製造業(前期比▲6.9%)、非製造業(同▲10.0%)ともに大幅減益となったのに対し、今回は製造業が減少を続ける一方、非製造業は前期から横ばいで踏みとどまった。ただし、非製造業の経常利益は前回の増税前は駆け込み需要で大幅増加(14年1-3月期:前期比15.7%)となっていたのに対し、今回は駆け込み需要が小さかったことなどから、増税前にすでに減益となっていた(19年4-6月期:前期比▲8.1%、7-9月期:同▲2.0%)。非製造業の収益の底堅さは消費増税前からすでに失われている。20年1-3月期は消費税率引き上げの影響が残る中で、新型コロナウィルス感染拡大の影響で内外需ともに大きく落ち込むことから、製造業、非製造業ともに収益が一段と悪化することは避けられないだろう。

企業収益の悪化が設備投資に波及

設備投資(ソフトウェアを含む)は前年比▲3.5%(7-9月期:同7.1%)と13四半期ぶりに減少した。製造業(7-9月期:前年比6.4%→10-12月期:同▲9.0%)、非製造業(7-9月期:同7.6%→10-12月期:同▲0.1%)ともに減少に転じた。

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季節調整済の設備投資(ソフトウェアを含む)は前期比▲4.2%(7-9月期:同▲1.7%)と2四半期連続で減少した。製造業が前期比▲5.0%(7-9月期:同1.5%)と2四半期ぶりに減少、非製造業が前期比▲3.8%(7-9月期:同▲3.3%)と2四半期連続で減少した。

10-12月期の設備投資は、7-9月期に簡易課税制度を採用する中小企業の駆け込み需要や軽減税率・キャッシュレス決済対応の需要によって高い伸びとなった反動も含まれるため、落ち込み幅は割り引いてみる必要がある。ただし、18年半ば以降の企業収益の悪化によって、設備投資増加の背景にあった潤沢なキャッシュフローという条件は崩れつつある。先行きについては、景気循環に左右されにくい研究開発投資、省力化投資などが下支えすることは見込まれるものの、企業収益の悪化に遅れる形で設備投資が実勢として減速することは避けられないだろう。

10-12月期・GDP2次速報は1次速報とほぼ変わらず

本日の法人企業統計の結果等を受けて、3/9公表予定の19年10-12月期GDP2次速報では、実質GDPが前期比▲1.6%(前期比年率▲6.4%)になると予測する。1次速報の前期比▲1.6%(前期比年率▲6.3%)からほぼ変わらないだろう。

設備投資は前期比▲3.7%から同▲4.0%へ下方修正されるだろう。設備投資の需要側推計に用いられる法人企業統計の設備投資(ソフトウェアを除く)は前年比▲5.0%となり、7-9月期の同7.7%から伸びが大きく低下した。法人企業統計ではサンプル替えや四半期毎の回答企業の差によって断層が生じるが、当研究所でこの影響を調整したところ前年比ほぼ横ばいとなった。一方、金融保険業の設備投資(ソフトウェアを除く)は前年比6.3%(7-9月期:同▲3.3%)と6四半期ぶりに増加した。

19年10-12月期の法人企業統計の設備投資は弱い結果となったが、GDP統計の設備投資は1次速報値の段階ですでに弱い結果(名目・前年比▲3.2%)となっており、本日の法人企業統計の結果を反映した下方修正は小幅にとどまるだろう。

また、民間在庫変動は1次速報で仮置きとなっていた原材料在庫、仕掛品在庫に法人企業統計の結果が反映されるが、1次速報の前期比・寄与度0.1%から変わらないだろう。その他の需要項目では、民間消費は12月のサービス産業動向調査の結果などが反映され、前期比▲2.9%から同▲2.8%へ上方修正される一方、公的固定資本形成は12月の建設総合統計の結果が反映され、前期比1.1%から同0.9%へ下方修正されると予想する。

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斎藤太郎(さいとう たろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 経済調査室長・総合政策研究部兼任

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