子供の教育に対して、富裕層は独特の考え方を持っている。

日本で唯一、フルオーダーメイド型のバトラー(執事)サーヴィスを提供している日本バトラー&コンシェルジュ株式会社の代表、新井直之氏によると、富裕層のお受験対策は子供が1歳になる頃からスタートし、有名校へ入学させるためにあの手この手を尽くすのだという。

ただし、たとえ富裕層といえども志望校に合格するケースは一部に限られる。それでも富裕層が子供の「お受験対策」にこだわるのにはそれだけの理由が存在した。

資産数億円以上の富裕層の教育をテーマにした本特集第1回は、多くの富裕層の大きな関心事である「お受験」について取り上げる。有名私立小学校に入学するためのお受験は、富裕層にとってどのような意味を持つのだろうか?(取材・大岡雅弘/写真・森口新太郎)

新井直之さん
フォーブス誌世界大富豪ランキングトップ10に入る大富豪、日本国内外の大富豪・超富裕層を顧客に持つ日本バトラー&コンシェルジュ株式会社の代表を務める傍ら、企業向けに富裕層ビジネス、顧客満足度向上に関する講演・研修、コンサルティング、アドバイザリー業務を行なっている。ドラマ版・映画版・舞台版『謎解きはディナーのあとで』、映画版『黒執事』では執事監修、主演の櫻井翔さん、北川景子さん、水嶋ヒロさん、DAIGOさん、西山茉希さんの所作指導を担当。Amazonランキング1位(経営)総合3位を獲得した『執事だけが知っている世界の大富豪58の習慣』(幻冬舎)をはじめ、著書多数。

受験から留学、習い事までバトラーによる敎育のサポート範囲は広い

富裕層が実践する子供の教育 #01
(写真=森口新太郎、ZUU online編集部)

――新井さんは富裕層を対象とした「フルオーダーメイド型バトラーサーヴィス」を提供する会社の代表であり、ご自身もこれまで多くの大富豪、超富裕層のご家庭でバトラー(執事)としての業務に携わってきたとお聞きしています。実際の顧客層は資産がどのくらいの方が多いのでしょうか。また、バトラーがそうした富裕層のお子さんたちと接する機会はどれくらいあるのでしょうか?

当社の提供するバトラーサービスは執事を一人雇うだけでも年間1500~2000万円ほどかかってしまうので、顧客層は自ずと年収数億円以上の富裕層や富豪と呼ばれる方たちということになります。

私たちがそうしたご家庭のお子さんたちと接する機会は非常に多いです。そもそも私ども日本バトラー&コンシェルジュのバトラーは、お客様のオフィシャルな面とプライベートな面、そのどちらにも関わります。お客様のあらゆるご要望に合わせてサポートをさせていただき、お困りごとがあれば解決のお手伝いもするのがバトラーの務めです。

その中でもプライベートな部分では、主(あるじ)の方の次に接する機会が多いのがお子様です。直接接する機会もありますし、お子様に関連した事柄についてお手伝いをさせていただくことも多いので、結果的にお子様とは深く関わることになりますね。

――具体的にはどんなサポートをするのでしょうか?

例えばお子様がお受験をすることになれば、私どもでそのための準備を整えます。留学したいということであれば留学先の手配をすることもあります。ピアノやバレエを習いたいのでいい先生を探してほしいといったリクエストをいただくこともありますね。

富裕層の「お受験対策」は1歳からスタート

――いわゆる「お受験」の対策は何歳から始まるのですか?

幼稚園受験も小学校受験も、1歳くらいから準備に入ります。まずはお受験をするのか、一般校に入るのか、インターナショナルスクールなどを選ぶのかを決めて、お受験をするという場合であれば「お受験アドバイザー」の選定をします。

――1歳からお受験の準備を始めるとは……。富裕層の方たちはどれくらい先を見据えて教育のプランニングしているのでしょうか?

お受験を考えるのは「有名私立大学に附属した一貫校に通わせたい」という方々です。ですから大学までは確実に見据えていますね。もっと言うとその先の、大学を卒業して社会に出た後のことも視野に入れています。プラン自体はお子様が生まれたときから……というよりも、生まれる前から考えていらっしゃいますね。

なぜそんなにスパンが長いのかと言いますと、多くの富裕層の方々の子育てのゴールが、ご自身の事業をお子様に引き継がせる、あるいは一家の資産を継承させるというところにあるからです。

事業は向き不向きもありますから、必ずしもご子息、ご息女が継ぐというわけにはいかないかもしれません。しかし、それでも株式などを含めた資産の継承は大きなテーマとして残ります。多くの富裕層の方が、築き上げてきた資産をいかに守り、引き継いでいくか、そのためにお子様にどんな教育を施し、どう育てていくかを考えていらっしゃると思います。円滑に資産を継承させることがお子様の幸せにもつながりますから。

この考え方は代々資産を継承してきた方ばかりではなく、一代で財を成した方の場合もあまり変わりません。資産額が大きくなると自然とそうした発想になるのだと思います。

――一般家庭でも幼い頃から教育について考えるケースが無いわけではないと思います。ただ、具体的に子供の進路についてイメージし始めるのは大体、中学受験か高校受験あたりからですよね。それに、先を見ると言っても漠然と「いい会社に入ってほしい」「公務員を目指してほしい」くらいのことが多い気がします。

そうだと思います。よく私は「資産と時間のエレベーター」という言い方をします。資産が増えれば増えるほどエレベーターが上がっていくようなイメージで、遠い未来を見て今の行動を決めるようになる、という意味です。時間軸でいうと20年後30年後、さらには100年後の次の次の世代にどうやって今ある資産を渡そうかと、そこまで考えて今の行動を決めるようになるんですね。

そのことが教育にも反映されていると思います。超のつくような大富豪の方ほど30年40年、あるいはもっと先を見据えて、お子様の教育を考えていらっしゃいますね。

富裕層の子女教育における最重要ポイントは「人脈」

富裕層が実践する子供の教育 #01
(写真=森口新太郎)

――遠い先を見据え、事業や資産を継がせるという大前提があるとして、それがお受験で有名私立小学校に通わせることとどう結びつくのでしょうか?

事業や資産を継承していく上で最も大事なことが何かと言いますと人間関係、つまり人脈です。もちろんお子様にさまざまな知識を教えることも必要です。しかし、それよりもっと欠かせないのが人脈なんです。