新型肺炎コロナウィルス(COVID-19)の感染は海を越え、アジア圏のみならず欧米でも急速に拡大している。海外の動向とともに、各国の反応や日本政府に対する報道などをまとめた。
新型肺炎でイタリアのベネチアカーニバルが前倒し中止に
中国、韓国に続き、感染者が多いイタリア。2020年3月3日の時点で79件の死亡、4日には2,500件以上の感染が報告された。 2月23日には、北部ベネト州で開催されていた世界3大カーニバルの一つ、ベネチアのカーニバルが中止になったほか、プロサッカーリーグのセリエAの試合を含むすべてのスポーツイベントが無観客で実施されている。
イタリア政府は、北イタリアの大部分で公の集会を禁止し、15日まで同国の全学校を休校にすると発表した。 ベネチアは2019年11月、過去50年で最悪の高潮による浸水被害を受けたことから、「過去3ヵ月にわたり、ベネチアの観光産業はまるでペストに見舞われたようだ」と、米ニューヨーク・タイムズ紙が報じている。
イベントの中止はビジネス分野にも広がっており、GoogleとFacebookが5月に開催予定だった各社の開発者イベントの中止を発表したほか、バルセロナで開催予定だった世界最大規模のモバイルイベント「モバイル・ワールド・コングレス」、Shopifyの開発者イベントなどが続々と中止となった。 一方、AdobeやWorkdayのように、イベントを会場ではなくオンラインで開催する動きも見られる。
アジア人への差別「コロナレイシズム」とは?
中国を発生源とし、発生当初は日本や韓国などアジア圏で広まったことから、欧米ではアジア人経由の感染を警戒し、それが差別的な言動を誘発している。こうした背景から、「コロナレイシズム(coronaracism)」という造語まで生まれた。
米CNNが目撃者が撮影した動画付きで報じた中国人女性への攻撃は、コロナレイシズムの氷山の一角だ。これは2月上旬、ニューヨークの地下鉄の駅で、マスクを着用した中国人女性が黒人男性から差別的発言と暴力を受けたというもの。
イギリス生まれの中国人コメディアン、ケン・チェン氏曰く、「実際に感染している中国人は0.001%に満たないにもかかわらず、99.999%以上の中国人がコロナレイシズムを経験している(英ガーディアン紙)」。
米フォーブス誌は、こうしたアジア人に対する差別は、「中国人排斥法(1882年にアーサー政権で可決された、中国人労働者の移住を制限する法律)、1880年代を彷彿させる」と報じ、「コロナウイルスを口実とする、長年蓄積された根深いものである」と指摘した。
一方、英ガーディアン紙は、「扇情的なメディア(の報道)が、人種差別的なコロナウイルスの恐怖を悪化させており、われわれは戦う必要がある」と報じた。「恐怖・うわさ・外国人への嫌悪感は密接に関連する問題」であり、一部メディアの報道が人種差別を加速させかねない危険性に警鐘を鳴らした。
批判・理解、分かれる日本政府への評価
集団感染が起こった豪華客船ダイヤモンド・プリンセス号や学校の臨時休校など、日本に関する報道も多い。中には「コロナウイルスに対応できない国に、オリンピックのホストが務まるのか?(ニューヨーク・タイムズ紙)」という辛口の記事も見られた。
ダイヤモンド・プリンセス号の集団感染をめぐり、日本政府の対応を要因の一つと批判する声が上がっている一方、世界保健機関(WHO)の広報担当者オリビア・ロー・デイビス氏は、日本政府の対応に理解を示した。
「この新型ウイルス(コロナウイルス)に対応した国は、過去にない。もっとも重要なことは、病気の人が適切な治療を受けられる環境を整備することであり、日本当局はこれを実行している(ニューヨーク・タイムズ紙)」
中国に続く学校の臨時休校に関しては、仕事をもつ多くの親が悲観的に捉えているとの報道が多い。「ベビーシッターやナニー(乳母)の文化がほとんど浸透していない日本において、柔軟性に欠ける労働慣行や性別の不平等性、片親や共働き家庭の増加による社会的格差も浮き彫りになった(英フィナンシャル・タイムズ紙)」
しかし、WHOのテドロス・アダノム事務局長は、コロナウイルスにパンデミック(世界的流行)の可能性があること、重要な決断を迫られる時期に達していることを理由に、「恐れてはいけない。今こそ感染を防ぎ、命を救うための行動を起こす時だ(英BBC)」と、迅速かつ積極的に行動するよう各国の政府に促す。
日本政府の対応への批判やオリンピック開催の不透明から、安倍政権の存続を重ね合わせる見方も強い。「オリンピック開催を死守するための政治的な動き(フィナンシャル・タイムズ紙)」「オリンピックを目前に控え、安倍首相は積極的にコロナウイルスへの防御対策を講じている姿を熱心にアピールしたがっている(ニューヨーク・タイムズ紙)」
各国の反応を冷静に観察・分析した意見も
現時点においては終息のめどが立たないがゆえに、今後も各国でさまざまな対応が見られるだろう。ニューヨーク・タイムズ紙には、各国の反応を冷静かつ皮肉っぽく分析した意見が掲載された。
「コロナウイルス対策として実施されている国境閉鎖や旅行の制限といった措置は、表面的には医学的措置ではあるものの象徴的でもある。基本的な 論理は、政治的理由から物理的な壁を建設することと大差ない。いずれも、偽りの安心感を市民に与えることが目的だ(スペイン・バスク大学イケルバスク研究のマイケル・マーダー教授)」
「コロナウイルスが広がるにつれ、巨大化しすぎた世界のほつれ目が見え始めている(ジャーナリスト、ファルハド・マンジュー氏)」