新型コロナウイルスの感染拡大により、景気の持ち直しが後ずれする可能性
要旨
●民間調査機関による経済見通しが出揃った。本稿では、2月26日までに集計した民間調査機関21社の見通しの動向を概観する。民間調査機関の実質GDP成長率予測の平均値は、2019年度は前年度比+0.3%(11月時点見通し:同+0.7%)、2020年度は同+0.3%(11 月時点見通し:同+0.5%)、2021年度は同+0.8%である。
●2020年度の成長率予想は、11月時点から下方修正された。消費税増税による消費の落ち込みが予想以上に大きかったことに加えて、新たに新型コロナウイルスの感染拡大によって短期的な景気減速は避けられない見通し。今回の予想の前提として、20年4-6月期を新型コロナウイルスの終息時期と想定する見通しが多いが、感染拡大の終息時期によっては景気の持ち直しが後ずれする可能性がある。
●2021年度は、消費税増税の影響の一巡と、海外経済の回復に伴う輸出の持ち直しから、緩やかな経済成長が見込まれている。
●消費者物価指数(生鮮食品を除く、消費税含む)の見通しは、19年度は前年度比+0.6%、20 年度は同+0.5%、21年度は同+0.5%となった。消費税分を含めても物価上昇は低空飛行が続き、物価上昇率目標2%の達成は困難との見通しである。
コンセンサスは2019年度:+0.3%、2020年度:+0.3%、2021年度:+0.8%
民間調査機関による経済見通しが出揃った。本稿では、2月26日までに集計した民間調査機関21社の見通しの動向を概観する。民間調査機関の実質GDP成長率予測の平均値は、2019年度は前年度比+0.3%(11月時点見通し:同+0.7%)、2020年度は同+0.3%(11月時点見通し:同+0.5%)、2021年度は同+0.9%である。11月時点から2019年度、20年度の成長率予測は下方修正された。
19年10-12月期は前期比年率▲6.3%と市場予想を下回る大幅なマイナス成長
2月17日に公表された2019年10-12月期実質GDP成長率(1次速報)は前期比年率▲6.3%(前期比▲1.6%)となった。個人消費が前期比▲2.9%(7-9月期:同+0.5%)、設備投資が同▲3.7%(7-9月期:同+0.5%)、住宅投資が同▲2.7%(7-9月期:同+1.2%)と下落に寄与した。今回の結果は事前の市場予想(前期比年率▲3.9%)を下回るネガティブサプライズであった。前回増税時よりもマイナス幅は小さいものの(2014年4-6月期実質GDP前期比年率:▲7.4%)、増税前の駆け込みは前回よりも小さかったことから、「景気の基調は前回増税後よりも弱い」(ニッセイ基礎研究所)との見方が多い。
項目別にみると、個人消費については「消費増税に加え、10月の大型台風の襲来や暖冬など様々なマイナス要因が重なった影響」(日本総合研究所)により大幅に減少した。また、設備投資については消費税増税の影響に加えて、「海外経済の不透明感を背景に、製造業を中心に企業の投資姿勢は慎重化している」(三菱総合研究所)ことにより減少したとみられる。今回の結果を受けて、「大型台風の影響など特殊要因による下押しはあったが、大規模な増税対策実施を踏まえると、日本経済は弱含んでいる」(みずほ総合研究所)と評価される。
先行きの見通しは下方修正、新型コロナウイルスの感染拡大で成長率は短期的に減速する見込み
2019年度の成長率予想は、前年度比+0.3%(11月時点見通し:同+0.7%)と、11月時点から下方修正された。需要項目別にみると公共投資の予測が小幅に引き上げられた一方で、個人消費や設備投資などの予測が引き下げられた。19年10-12月期の成長率が市場予想を大幅に下回る結果となったことに加えて、「消費税増税で家計可処分所得が目減りした影響で消費の持ち直しは鈍いとみられる」(農林中金総合研究所)ほか、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、成長率予想は下方修正された。
20年1-3月期の実質GDP成長率予想は平均で前期比▲0.0%となった。前期比プラス成長を予想する会社と2四半期連続のマイナス成長を予想する会社とで見通しが分かれている。ただし、各社とも新型コロナウイルス感染拡大による下押しを見込んでおり、プラス成長の予想であっても成長率は小幅なプラスにとどまっている。「世界経済に底入れの兆しが出始め、消費税増税の影響も徐々に和らぐと想定していたものの、コロナウイルスの感染拡大の影響で、日本経済は短期的に大きく押し下げられる可能性がある」(信金中央金庫 地域・中小企業研究所)と、景気の持ち直しが期待されていた中で、新型コロナウイルスの感染拡大は新たな景気下振れ要因となった。
2020年度の成長率予想は同+0.3%(11月時点見通し:同+0.5%)と11月時点から下方修正された。19年度後半に引き続いて、「消費税増税による家計負担に加え、新型肺炎の感染拡大による内外需の下振れが、20年半ばにかけて成長減速要因となる」(三菱総合研究所)とみられる。一方で、「東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けて個人消費を中心にイベント効果が高まる」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)ことが、景気の押し上げ要因になるとみられる。また、公共投資は19年度に引き続き高い伸びが予想されており、「政府の経済対策を受けた公的需要の増加が景気の減速を和らげる」(浜銀総合研究所)ことが見込まれている。新型肺炎の感染拡大が短期のうちに終息すれば、「2021年度にかけての日本の景気は、世界経済の底打ち、5G関連需要の本格化、政府の経済対策等を背景に、基本的に緩やかな回復基調をたどる」(明治安田生命保険)と予想されている。
2021年度の成長率予想は同+0.8%となった。「消費税増税の影響の一巡」(三菱総合研究所)に加えて、「世界経済に回復の動きが広がり、電子部品をけん引役に輸出の伸びが高まる」(信金中央金庫 地域・中小企業研究所)ことから、緩やかな経済成長が見込まれている。
このように、消費税増税による消費の落ち込みが予想以上に大きかったことに加えて、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、19年度、20年度の成長率予想は下方修正された。「新型肺炎による影響の広がりが、訪日外国人数の減少につながっているほか、家計や企業マインドを下押しすることから、短期的には低迷が避けられない情勢」(明治安田生命保険)である。今回の予想の前提として、20年4-6月期を新型コロナウイルスの終息時期と想定する見通しが多い。20 年4-6月期に経済活動が正常化することとなれば、「中国経済の回復やシリコンサイクルの持ち直しに加え、国内では拡張的な財政政策や労働需給のひっ迫で内需が底堅く推移し、緩やかながらも景気の回復基調が続く」(大和総研)とみられる。ただし、「終息時期が2020年央以降にずれ込めば、国内景気の一段の落ち込みが避けられないほか、世界同時不況入りも懸念される」(東レ経営研究所)など、目先で最大のリスクは新型肺炎の感染拡大の長期化である。その他の景気の下振れリスクとしては「引き続き海外経済の動向であり、中でも米中貿易摩擦が再燃すること」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)も挙げられており、世界経済の先行き不透明感は強い。
以下では需要項目別に、エコノミストの見方を概観していく。
個人消費
19年10-12月期の個人消費は前期比▲2.9%となった。消費税増税による駆け込み需要の反動減に、大型台風、暖冬の影響などが加わったことで個人消費は大幅な減少となった。
先行きについては、「政府の需要喚起策などが支えになるほか、東京五輪・パラリンピックに関連した需要増加もあり持ち直す」(富国生命保険)と見込まれている。ただし、「雇用・所得の弱い動きから消費の回復は限定的」(みずほ総合研究所)と持ち直しは緩やかなものになるとの見方が多数派だ。加えて、「家計の痛税感の払拭に時間を要しているため、個人消費が増税前の水準に回復する時期は、従来想定していたより後ずれする見通し」(日本総合研究所)である。
② 設備投資
19年10-12月期の設備投資は前期比▲3.7%と3四半期ぶりの減少となった。消費税増税の反動減に加えて、製造業を中心とする企業の投資姿勢が慎重化していることにより大幅な減少となった。
先行きについては、「構造的な人手不足を背景とする合理化・省力化投資のニーズが下支えする形で設備投資は底堅く推移する」(浜銀総合研究所)と予想されている。もっとも、「消費増税に伴う個人消費の低迷や新型肺炎によるインバウンド需要の落ち込みを受けて、小売り、宿泊・飲食サービスを中心に収益の悪化が見込まれる」(ニッセイ基礎研究所)ことなどから、設備投資は緩やかな上昇にとどまる見込みである。
③ 輸出
19年10-12月期の輸出は前期比▲0.1%と2四半期連続の減少なった。中国をはじめとするアジア向け輸出が増加した一方、米国向けやEU向けが減少したことで前期比ほぼ横ばいの結果となった。輸出は世界経済の減速を受けて弱い動きが続いている。
先行きについては、2020年は「新型肺炎の感染拡大により、春先にかけて大きく減少することが見込まれる」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)。新型コロナウイルスが終息すれば、「5G端末や5G基地局向けのグローバルなIT需要が拡大する可能性が高い点を踏まえると、日本からのIT関連財輸出が増加し、日本の電子部品・デバイスの生産も持ち直す」(浜銀総合研究所)との見方が多い。景気の先行きは「当面は輸出の回復がポイント」(大和総研)とみられている。
④ 公共投資
19年10-12月期の公共投資は前期比+1.1%となった。2019年度予算の拡張と災害対応を反映して4四半期連続の増加となった。
先行きは、「昨年12月に3年ぶりの経済対策である「安心と成長の未来を拓く総合経済対策」を閣議決定した」(明治安田生命保険)ことにより、政府による大規模な経済対策が行われることなどから、引き続き公共投資は増加が見込まれている。「人手不足による供給制約もあり大幅な伸びこそ期待できないものの、公的固定資本形成は底堅く推移し、景気の一定の下支えとなろう」(富国生命保険)とみられている。
消費者物価指数(生鮮食品除く総合、消費税含む)の予測の平均値は、2019年度が前年度比+0.6%
(11月時点見通し:同+0.6%)、2020年度が同+0.5%(11月時点見通し:同+0.7%)、2021年度が同+0.5%となった。見通しについて、2020年度の予測が下方修正されている。
先行きは、教育無償化などの制度要因に加えて、「消費税率引き上げ後の個人消費の低迷を受けて需給面からの物価上昇圧力が弱まるこは避けられないだろう」(ニッセイ基礎研究所)とみられている。また、「企業業績の鈍化などから2020 年の春闘賃上げ率が前年を下回ると見込んでおり、賃金面からの上昇圧力も限定的」(富国生命保険)とみられる。物価上昇率は低空飛行が続く見通しであり、今後も「日銀が目標とする前年比+2%には届かず」(農林中金総合研究所)と予想される。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所の見通しについては、Economic Trends「2019~2021年度日本経済見通し」(2月17 日発表)をご参照ください。
第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 エコノミスト 奥脇 健史