要旨
●新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、休業時の所得補償制度が議論となっている。休業時の公的な所得補償制度には、労働基準法の休業手当と健康保険の傷病手当金がある。
●しかし、休業手当は企業側の指示が要件となっている。傷病手当金は被用者保険に加入していれば自主休業でも支給されるが、加入していないパート労働者や非適用事業所で働く人には適用されず、公的制度からの所得補償が受けられない。
●パートで生計を支えるひとり親世帯などは、来週以降の小中高等学校の休校要請もあり、休業により経済的に厳しい状態に置かれる可能性が高くなる。政府は一時的な財政措置も含め、休業時の公的所得補償制度の対象外となっている人たちを中心に対応を検討、早期公表することが求められている。
法定された休業補償制度を整理整頓
新型コロナウイルスが猛威を振るっている。政府や企業は、風邪症状のある人への自宅療養を求めているが、これを受けて労働者が休業時に所得補償を受けられるかどうかが昨今議論となっている。現時点での休業補償制度の枠組みを整理し、政府に求められる政策対応を考える。
“企業側の指示”なら休業手当が適用
まず、法定されている休業時の所得補償制度のひとつに労働基準法における休業手当がある。これは、労働者が「使用者の責による」理由によって休業した際に、企業に平均賃金の60%以上を休業手当として支払う義務を定めたものだ。
焦点は、今回の新型コロナウイルスが、「使用者の責」に該当するのかどうか、ということになる。この点について、厚生労働省は通達を公表している。まとめたものが資料1だ。感染疑いの労働者を企業の指示で休業させた場合には休業手当の対象となるが、自主休業は対象外と整理している。
労働者が自主的に休んだ場合でも健康保険の傷病手当金は受けとれる この労働基準法の休業手当を受け取れない場合でも、第二の所得補償制度として被用者保険の健康保険における傷病手当金がある。これは、業務外事由によって仕事に就くことができない場合、給与支払いがない日数に応じて、標準報酬日額(≒月給/30)×日数の3分の2を支給するものである。支給される期間は支給開始日から1年6カ月ある。
これは、特に休業理由が「使用者の責」である必要はない。仮に休業が数カ月にわたった場合でも、被用者保険の健康保険に加入していれば、一定の所得補償が社会保障制度のなかから得られると考えておいて良いだろう。
問題は被用者保険に加入していない人たち
ただし、この傷病手当金を受けられない人もいる。それは被用者保険、企業の健保組合や協会けんぽに加入していない人だ。市町村の運営する国民健康保険の加入者や、配偶者の被扶養者として働く人などが該当する。国民健康保険には傷病手当金の仕組みがそもそもなく、被用者保険も被扶養者の就労にかかる所得補償を行う枠組みにはなっていない。
被用者保険に加入する要件は複数あるが、主な要件は「週あたり労働時間が30時間以上」であることだ(事業規模などの一定要件を満たす場合には週20~30時間でも短時間労働者として被用者保険に加入する)。また、被用者保険は事業主が法人の場合はすべからく適用されるが、事業所が①常時5人未満の個人事業所や、②常時5人以上の非適用業種(※1)の個人事業所の場合には適用されない。
また、そもそも自営業主やフリーランスで働く人には、労働基準法や被用者保険が適用されない。以上を資料2で整理した。
所得補償を受けられない人を中心に、一時的財政措置も含めた対応を
新型コロナウイルスの感染拡大による休業によって、休業時の所得補償が得られない可能性があるのは、被用者保険の適用外で働くパート労働者や、非適用業種の事業所で働く人たちだ。特に、これらの人たちが主たる生計者である場合、経済的に厳しい状況に置かれる可能性が高くなる。例えば、パートで働くひとり親世帯などが該当するだろう。特に、来週から実施される小中高等学校の休校要請もあり、子どものいる世帯では仕事を休まざるを得ない状況も増えてくると考えられる。
政府は、こうした休業時の公的な所得補償制度が適用されない人たちを中心に、一時的な財政措置も含めた対応を検討し、その指針を早期に公表することが必要であるだろう。それが無理な外出を抑制し、感染拡大を防ぐことにもつながるのではないか。
(※1) 農林水産業、旅館、飲食店、理美容店など。
第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 副主任エコノミスト 星野 卓也