陰の極を迎えるか 日銀緩和の催促相場でオーバーシュートも

先週末、NYダウは続落し、そして何より為替が円高に振れているので、今週の週明けも売り先行で始まるだろう。先週末で日経平均のPBRは0.99倍。ほぼ底値だと思われるが、シカゴの日経平均先物は2万430円で引けた。更なる下押し圧力を受けながら、この水準でどれだけ下げ渋ることができるかが焦点だ。

PBR1倍割れがトヨタやNTTなども含む東証1部の約56%に達するというのは異常である。このコロナ騒動は景気に悪影響を与えているのは明白で、企業業績も間違いなく悪化する。しかし、一過性だし程度問題だろう。今期の減益幅は拡大するのは確実で来期の増益率も鈍るかもしれない。しかしPBR1倍割れというのは将来にわたって純資産が棄損することを織り込む評価だ。すなわち減益どころか赤字を織り込んでいるということだから、まっとうなバリュエーションではない。来期の業績が上場企業全体で赤字になるか?そんなことはあり得ない。V字回復だってじゅうぶんあり得るのに。

まあ、そんなこと言っても相場は理屈じゃないので、行くところまで行かなければ気が済まないだろう。株にはPBR1倍のような絶対的な評価尺度があるが、為替には何もない。為替は、なんにもないドタ勘の世界なので勢いがついた今、まず為替が走りそうだ。1ドル100円割れ、日経平均2万円割れがあってもおかしくない、くどいが理屈じゃないので。ここまできたら「きり」がいいかどうかの世界なので。

理屈じゃないが、ひとつの構図として、催促相場というのはあるかもしれない。日銀がためらっているマイナス金利の深堀りを引き出すための円高だ。しぶしぶ日銀がマイナス金利を進めれば一段と邦銀の株が売られ、さらなる株安を誘導する。それを狙っての仕掛け的な円買いはあるだろう。なにしろ円を(為替を)買うにはカネは要らないから。反対売買で決済する世界なので機関投資家でラインをもっているものはいくらでも買おうと思えば円を買えるのだ(個人の証拠金取引とはまったく違う)。1ドル100円割れを狙っての仕掛け的な円高進行には警戒したい。

だが、催促相場だとすればファンダメンタルズから離れたオーバーシュートであるので、反動も大きい。FEDの利下げが効かなかったと言われるが、「織り込み済みと追加緩和の催促」だと解釈できる。Anyway, don’t fight with FEDであることには変わりない。

相場は理屈じゃない、と言ったが最後は理屈である。いつ冷静になるか、だ。その意味では今週は市場の、投資家の、理性が試されると言えるだろう。PBR1倍割れ以外にも下げ止まる材料はある。先週のNYは大幅続落だったが、それでも一時の900ドル近い急落から引けにかけて下げ幅を縮めた。続落であるがローソク足では陽線で、陽・陰・陽・陰・陽の鯨幕パターンは維持した。悲観と楽観が交錯し、売りの勢力と買いの勢力がせめぎあっていることの表れだ。少なくとも悲観一色というフェーズからは前進したと言える。早晩放れてくるだろう。米国のファンダメンタルズを考えれば、上に放れる可能性が高い。米株のプレミアム(対10年債イールドスプレッド)は5%もついた。2013年以来の水準だ。これを取りに来ない投資家はいないだろう。

中国国家衛生健康委の発表によると、中国湖北省で5日に新たに確認された新型コロナウイルスの感染者数は126人となったが、全員が武漢市だった。湖北省の新規感染者が武漢を除いてゼロとなるのは初めてだとロイターが報じた。湖北省以外の地域では17人の感染が新たに確認され、この17人のうち、16人は海外から新型ウイルスが「逆流入」してきたケースだという。つまり、中国で、武漢以外で、中国国内の要因による感染者数は1人だということだ。

もう震源地、中国のコロナ感染は終息宣言一歩手前だろう。注目は湖北省が11日まで企業に対して要請していた休業措置が再度延長されるかどうかだ。延長されずに操業再開となれば、完全にヤマは越えたとの認識が広がるだろう。こうした状況を受けて上海総合が春節前につけた高値を抜いたりすれば、弱い日本株も少しは活性化するかもしれない。

中国はピークアウトとしても他国では感染者が増えている。増えることは予見可能だったのでサプライズではないのだが、マスコミが煽るのでこんな騒ぎになっていると思う。感染者は増えているが死者数の増加ペースは緩慢である。改めて致死率の低さが認識されるだろう。感染者数も、累積でみれば増えるのは当然だが、増加率でみればそろそろピークアウトするのではないか。

それでもニューヨーク州が非常事態宣言を出したり、日本政府も14日に緊急事態宣言を可能にする法案の施行を予定するなど、世の中的には今週が「コロナのヤマ場」となりそうだ。ただ、相場は速いので世間の動きとは一線を画すと期待したい。

今週の注目イベントは12日のECB(欧州中央銀行)理事会。市場は金融緩和の強化をほぼ確実視している。ユーロ売りから円買いにつながる流れには警戒が必要だ。もうひとつは13日のメジャーSQ(特別清算指数)算出日。波乱の年度末だけに、ロールオーバーなどが絡んでSQ前の水曜日当たりからボラティリティが大きくなりそうだ。

今週の予想レンジは広めにとる。19,900 ~ 21,300円。いずれにせよ、ここが陰の極で底値になるだろう。今週は市場の、投資家の、理性が試されると述べたが、もうひとつ試されるものがある。それは胆力だ。今週は「頭」と「腹」の勝負である。

広木隆 広木 隆(ひろき・たかし)マネックス証券 チーフ・ストラテジスト
上智大学外国語学部卒業。国内銀行系投資顧問。外資系運用会社、ヘッジファンドなど様々な運用機関でファンドマネージャー等を歴任。長期かつ幅広い運用の経験と知識に基づいた多角的な分析に強み。2010年より現職。著書『9割の負け組から脱出する投資の思考法』『ストラテジストにさよならを』『勝てるROE投資術

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