20年1月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て、通関ベース)は前年同月比4.0%減(前月:同5.3%増)と低下し、2ヵ月ぶりに減少した(図表1)。輸出は米中貿易摩擦を背景とする世界経済の鈍化により18年後半から減少傾向で推移していたが、昨年末には半導体サイクルの回復や米中通商協議の第一段階の合意といった明るい材料が出るなど、輸出に底入れの動きがみられた。しかし、今年1月は欧米向けを中心に輸出が減少、そして2月には新型肺炎の影響で対中貿易が縮小する恐れがあり、当面は輸出入の下振れが続くと予想される。
ASEAN6カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、1月は昨年二桁成長の続いた北米向け(同4.0%増)が鈍化、EU向け(同14.8%減)が落ち込んだ。中華圏の旧正月休暇に伴う営業日の減少により東アジア向け(同3.8%減)と東南アジア向け(同4.3%減)も2ヵ月ぶりのマイナスとなったが、電気電子製品の輸出の持ち直しを受けて減少幅が小幅に止まった(図表2)。
タイの20年1月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比3.3%増(前月:同1.3%減)と上昇して6ヵ月ぶりのプラスに転じた。輸出の伸び率は昨年、米中貿易摩擦や世界経済の減速、通貨バーツの上昇を受けて電子機器を中心に減少傾向が続いたが、足元では石油と金の輸出が増加するなど底入れの動きがみられる。一方、輸入額は前年同月比7.9%減(前月:同2.5%増)と低下して2カ月ぶりのマイナスとなった結果、貿易収支は15.6億ドルの赤字となり、前月から21.5億ドル悪化した(図表3)。
輸出を品目別に見ると、全体の約8割を占める主要工業製品は同5.2%増(前月:同0.9%減)と上昇して4ヵ月ぶりのプラスとなった(図表4)。工業製品の内訳を見ると、電子機器(同1.5%減)が2ヵ月ぶりに減少、機械・装置(同3.2%減)と石油化学製品(同9.3%減)が低迷した一方、主力の自動車・部品(同1.7%増)が3ヵ月ぶりに上昇、非貨幣用金(同295.1%増)や家電製品(同11.5%増)が大きく増加した。また鉱業・燃料は同7.3%増(前月:同3.0%減)となり、前年同期に停止していた製油所が生産を再開したため、石油製品(同4.5%増)を中心に9カ月ぶりのプラスとなった。一方、農産物・加工品は同6.3%減(前月:同2.7%減)と低下して6ヵ月連続のマイナスとなった。畜産物(同47.0%増)や天然ゴム(同12.0%増)、ゴム製品(同5.4%増)が増加する一方、品種改良が停滞しているコメ(同34.0%減)、タピオカ(同24.5%減)が大きく減少するなど、品目毎のバラつきがみられた。
ベトナムの20年1月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比17.4%減(前月:同14.0%増)と大幅に低下した。輸出の伸び率は昨年、繊維関連製品と電気製品・同部品の拡大によって概ね好調に推移したが、今年1月は旧正月に伴う営業日数の減少によって一時的に落ち込んだ。また輸入額も前年同月比13.7%減(前月:同8.6%増)と急低下した結果、貿易収支は2.8億ドルの赤字となり、8ヵ月ぶりに赤字化した(図表5)。
輸出を品目別に見ると、まず輸出全体の約2割を占める電話・部品が同18.0%減(前月:同4.8%減)とマイナス幅が拡大して、3ヵ月連続の減少となった。一方、電気製品・同部品は同8.2%増(前月:同46.8%増)と増勢が鈍化、11ヵ月ぶりの一桁成長に止まった(図表6)。繊維関連では、織物・衣類が同25.0%減(前月:同7.5%増)、履物が同20.9%減(前月:同12.3%増)となり、それぞれ大きく低下した。農林水産物を見ると、コーヒー(同29.9%減)と水産物(同33.2%減)、天然ゴム(同34.4%減)、野菜(同20.6%減)が落ち込んだほか、コメ(同2.2%増)が停滞するなど、総じて不調だった。
輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が同20.7%減(前月:同7.7%減)、地場企業が同10.7%減(前月:同26.5%増)となり、それぞれ落ち込んだ。
マレーシアの20年1月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比0.6%減(前月:同3.2%増)と低下し、小幅ながら2ヵ月ぶりのマイナスとなった。輸出の基調は18年後半から主力の電気・電子製品の鈍化とパーム油の出荷減少、19年には原油需要の低迷が加わって減速傾向が続いていたが、足元では循環的底入れの動きがみられる。また輸入額も前年同月比1.5%減(前月:同1.5%増)と減少した結果、貿易収支は29.4億ドルの黒字となり、前月から0.7億ドル黒字が縮小した(図表7)。
輸出を品目別に見ると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同3.0%減(前月:同2.1%減)と、主力の電気・電子製品(同4.6%減)を中心に6ヵ月連続で減少した(図表8)。また動植物性油脂が同0.6%増(前月:同31.4%増)とパーム油を中心に鈍化したほか、化学製品が同11.4%減(前月:同4.5%減)とマイナス幅を拡大させた。一方、鉱物性燃料は同7.3%増(前月:同1.3%増)と昨年の原油価格下落の影響が和らいで2ヵ月連続で拡大した。原油(同10.1%減)と天然ガス(同22.1%減)が低迷したが、石油製品(同63.5%増)が大幅に増加した。
インドネシアの20年1月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比3.7%減(前月:同1.1%増)と低下して2ヵ月ぶりのマイナスとなった。輸出の伸び率は昨年、世界的な需要減退と商品価格の下落を背景に主力の資源関連が振るわず低迷したが、足元では循環的底入れの動きがみられる。一方、輸入額は前年同月比4.8%減(前月:同5.6%減)とマイナス幅が縮小した結果、貿易収支は8.6億ドルの赤字となり、前月から8.0億ドル悪化した(図表9)。
全体の9割を占める非石油ガス輸出が同0.7%減(前月:同5.8%増)と2カ月ぶりに減少するとともに、石油ガス輸出が同34.7%減(前月:同33.8%減)とマイナス幅が拡大した(図表10)。品目別に見ると、鉄・鉄鋼(同56.7%増)が大幅に増加、電気機械(同19.9%増)と機械類(同2.6%増)が2ヵ月ぶりのプラスに転じたものの、主力の鉱産物(同23.6%減)と動植物製油脂(同3.4%減)、そして自動車・同部品(同5.6%減)が減少した。
シンガポールの20年1月の輸出額(石油と再輸出除く、ドル建て、通関ベース)は前年同月比3.0%減(前月:同3.5%増)と低下し、2ヵ月ぶりに減少した。輸出の伸び率は昨年から電子製品および石油化学製品、医薬品などの主力の輸出品が落ち込んで低迷していたが、足元では循環的底入れの動きがみられる。なお、総輸出額は前年同月比5.0%減(前月:同4.7%増)とマイナスとなり、総輸入額は同0.5%減(前月:同1.3%減)と低迷した。結果として、貿易収支が7.2億ドルの黒字となり、前月から18.5億ドル黒字が縮小した(図表11)。
輸出(石油と再輸出除く)を品目別に見ると、まず全体の約3割を占める電子製品が同12.7%減(前月:同20.5%減)と低迷して14ヵ月連続の減少となった(図表12)。電子製品の内訳を見ると、主力のIC(同20.2%減)をはじめ、PC(同32.0%減)、通信機器(同24.9%減)などが低迷した。また電子製品と並び全体の約3割を占める化学は同11.4%減(前月:同0.4%減)とマイナス幅が拡大した。化学製品の内訳を見ると、石油化学製品(同23.0%減)と医薬品(同5.2%減)がそれぞれ減少した。一方、食品(同11.4%増)やその他製造品(同9.0%増)が堅調に拡大して、輸出全体を下支えした。
フィリピンの20年1月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比9.7%増と、前月の同21.6%増から増勢が鈍化した。輸出の基調は18年12月から19年1月にかけて短期的に落ち込んだが、その後は一次産品の減少を電子製品の増加が相殺する格好となり、概ね緩やかな増加傾向が続いている。一方、輸入額は前年同月比1.0%増(前月:同7.6%減)と11ヵ月ぶりにプラスとなった。結果として、貿易収支は35億ドルの赤字となり、前月から10.3億ドル赤字が拡大した(図表13)。
輸出シェア上位10品目を見ると、まず輸出全体の5割強を占める電子製品は同15.8%増と、前月の同24.8%増に続いて二桁成長となった(図表14)。電子製品の内訳を見ると、電子データ処理機(同6.6%減)が2ヵ月ぶりに減少したものの、主力の半導体デバイス(同21.9%増)とオフィス機器(同76.1%増)が大幅に増加した。その他9品目は、その他鉱物製品(68.3%増)と金(同46.0%増)、製錬銅(同10.1%増)、その他製造品(同7.4%増)、イグニッションワイヤーセット(同1.3%増)、化学(同1.2%増)が増加する一方、機械・輸送用機器(同35.1%減)と金属部品(同13.2%減)、生鮮バナナ(同0.7%減)となり、概ね増加した品目が多かった。
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斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員
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