矢野経済研究所
(画像=PIXTA)

2011年3月11日から9年が経過した。明日から「復興・創生期間」の最終年となる。「東日本大震災からの復興に向けた道のりと見通し」(令和2年3月版、復興庁)によると災害公営住宅、防災集団移転事業の計画達成率は99%、復興道路は76%の整備が完了、海岸対策も99%が着工、66%が完成済みだ。双葉町では帰還困難区域の避難指示が一部で先行解除、これにより全町が避難状態にある自治体は無くなった。14日にはJR東日本の常磐線が全線開通、特急 “ひたち” が仙台と都心を結ぶ。バス高速輸送システム(BRT)に転換した路線も含めると被災路線のすべてが復旧することになる。

宮城、岩手、福島3県の県内総生産は震災前の水準を取り戻した。津波によって被災した農地の92%が営農可能に(2019年3月)、被災水産加工施設も96%が再開した(2019年1月)。昨年9月には気仙沼の造船所4社が合併した新会社「みらい造船」の新工場が完成、漁船の造船・修理に特化した東北最大級の造船所がスタートした。月内には福島イノベーション・コースト構想にもとづくロボット実証実験施設「福島ロボットテストフィールド」も全面開所する。50㌶におよぶ敷地には500m級の無人航空機用の滑走路や水中・水上の実験施設が備わる。双葉町や大熊町でもエネルギーの地産地消プロジェクトが立ち上がる。“2011年時点” からの延長線上にはなかった新たな事業が被災地の可能性を拓く。

一方、依然として4.8万人が避難状態にある。避難の長期化に伴う災害関連死も3,757人に達した。復興はまだまだ道半ばであり、“被災” は終わっていない。その象徴が福島第一原発である。昨年末、政府は1、2号機の使用済核燃料の搬出開始を2023年度から5年遅らせることを決定した。工程表の改定はこれで5回目だ。中間貯蔵施設の整備も遅れている。放射性汚染土を収めたフレコンバッグ412万袋が仮置き状態のままである。日々増え続ける膨大な汚染水の問題もある。海洋放水が現実的であるとの流れに傾きつつあるものの漁業者の反対は根強い。

昨年10月、台風19号によって氾濫した河川が多数の汚染土入りフレコンバッグを押し流した。その一部は未だに個数も所在も不明のままである。汚染水の海洋放出問題ではトリチウム以外の放射性物質が基準値を越えて残留している可能性も指摘される。そうであればそもそもの前提が危うい。
先月、原子力規制委員会は、敦賀原発2号機の再稼働審査において日本原子力発電から提出された書類の中に “データの書き換え” や “削除” があったと発表、「考えられないことだ」としたうえで「審査の根幹が揺らぐ」と批判した。関西電力の金品不正授受の問題も記憶に新しい。原子力災害は目に見えない。ゆえに政府、行政、企業、技術、データに対する “信頼” がすべての根幹となる。まずは「アンダーコントロール」という嘘を捨て去り、事実を公開し、共有すること、福島の復興はここが原点でなければならない。

今週の“ひらめき”視点 3.8 – 3.12
代表取締役社長 水越 孝