シンカー:消費税率引き上げによる需要の減退や新型コロナウィルスの影響もあり、物価の動きには弱さがみられる。新型コロナウィルス問題が深刻な中で物価が一時的に弱いことは実質所得を押し上げ、需要と景気の底割れを防ぐ力となる。一方、新型コロナウィルス問題の終息後のサプライチェーンを含めた供給の回復は、米中貿易紛争の余波も含め、グローバル生産体制のリスクの見直しと改変が進行するため、需要よりも遅い可能性がある。供給対比での需要の強さが生まれ、グローバルの物価動向はデフレよりもインフレへの方向性も持つ可能性がある。一時的な需要の弱さによる値下げに踏み切るハードルを上げ、価格弾力性を考慮した企業の価格戦略が広がるとみられる。堅調な消費需要を背景に、過度な円高不安で押し下げられてきた期待インフレ率の上昇をともないながら、物価は来年前半には1%程度まで上昇率が加速していく可能性は十分にあると考える。
2月のコア消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年同月比+0.6%と、1月の同+0.8%から上昇幅が縮小した。
上昇幅の縮小が大きめなのは、四つの下押し圧力が掛かった結果だ。
一つ目は、昨年の2月の季節調整済前月比+0.2%と強かった裏が出て、今年の2月は同?0.1%だが、前年同月比の上昇幅の大きめな縮小につながったようだ。
二つ目は、年初からの新たな原油価格の下落の影響が引き続き出ていることだ。
三つ目は、暖冬の影響により衣料などで値下げが行われたことだ。
四つ目は、新型コロナウィルスの影響もあり、インバウンド需要の減退と、外出の手控えにより、宿泊などのレジャーの価格が引き下げられたことだ。
2月のコアコア消費者物価指数(除く生鮮食品・エネルギー)も同+0.6%と、1月の同+0.8%から上昇幅が縮小した。
コストの上昇と、これまで雇用・所得環境の改善を背景した物価の上昇幅の拡大があったが、消費税率引き上げによる需要の減退や新型コロナウィルスの影響もあり、コア消費者物価指数の伸び率は+0.3%程度まで減速する可能性がある。
新型コロナウィルスの蔓延は、グローバルに需要の停滞だけではなく、サプライチェーンの棄損につながっているようだ。
夏までにこの問題が終息に向かうと仮定する。
その後は、雇用・所得の破壊と金融システム不安につながっていないため、ペントアップが出る形で、需要は早く回復する可能性がある。
新型コロナウィルス問題が深刻な中で物価が一時的に弱いことは実質所得を押し上げ、需要と景気の底割れを防ぐ力となる。
再び、企業の想定より円安の水準に戻るだろう。
一方、サプライチェーンを含めた供給の回復は、米中貿易紛争の余波も含め、グローバル生産体制のリスクの見直しと改変が進行するため、需要よりも遅い可能性がある。
また、安定した供給体制に対するプレミアム上昇や、危機管理の在庫増加がみられるかもしれない。
そうなると、供給対比での需要の強さが生まれ、グローバルの物価動向はデフレよりもインフレへの方向性も持つ可能性がある。
一時的な需要の弱さによる値下げに踏み切るハードルを上げ、価格弾力性を考慮した企業の価格戦略が広がるとみられる。
堅調な消費需要を背景に、過度な円高不安で押し下げられてきた期待インフレ率の上昇をともないながら、物価は来年前半には1%程度まで上昇率が加速していく可能性は十分にあると考える。
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司