シンカー:高齢化の中で社会保障システムを維持するため、消費税の役割として一般的には二つの重要性が語られる。一つ目の通念は、消費税は消費の量という大きく変化しないものに課税されるため、税収が安定しているので好ましいということだ。二つ目は、社会保障システムをはじめとする公的サービスの費用を世代が広く公平に分かち合う上で、消費税は大きな役割があるということだ。マクロの考察の結論は、消費税を支える二つの通念はミクロ・会計の思い込み(イデオロギー)かもしれず、景気の安定化に寄与するとともに、現役世代の所得の増加にも寄与する税制が好ましいということだ。日本経済の現状を冷静に考慮すれば、消費税はこれらの点においてかなり劣っているようだ。日本経済は、長く苦しんできた内需の低迷とデフレから脱却しようと懸命に努力している。内需の大きな柱である消費を増やすことが重要で、その消費にペナルティを課すような消費税は重荷となってしまうことは明らかだ。現役世代と引退世代にかかわらず消費が増加し、その支出が現役世代の所得を増やす好循環が必要である。あまりにミクロの視点にたった政策運営でマクロ動学の大きなしっぺ返しをくらうことになる典型的な例となってしまっていることは反省して改善すべきだろう。すぐにでも消費税率を引き下げ、家計の実質所得を支え、財政の景気自動安定化装置を強くすることは、内需低迷とデフレ完全脱却のためにも理に適っている。

これまで、不確実性が大きくなり民間の経済活動が抑制される中で、政府は財政収支の劇的な改善を進めてしまってきてしまった。企業貯蓄率と財政収支の和であるネットの国内資金需要が消滅し、マネーと所得が縮小する力が大きくなってしまっている。資金が循環し貨幣経済とマネーが拡大し、家計に回ってくる所得を大きくするために、ネットの資金需要は十分な額が必要である。持続的なマネーの拡大と物価の上昇には、ネットの資金需要は最低限 - 3%程度あることが望ましい。現時点のデータでネットの資金需要をその水準にもっていき、新型コロナウィルスの問題があってもデフレ完全脱却への動きを止めないためには、最低限で財政措置として20兆円(4%、GDP比率)程度、1月に国会を通った前回の経済対策(財政措置として13兆円程度)を大幅に上回る「異次元」の財政拡大が今すぐにも必要である。

消費税の収入は年間20兆円程度なので、この際止めてしまえば丁度よい。消費税率引き下げに対する政治の反対が強いのであれば、相当する規模の給付で、家計の消費税の負担をオフセットすべきだろう。今、急を要するのは、直近の消費刺激ではなく、家計の過度な不安感が消費を追加的に縮小させてしまうのを防ぐことであり、家計の不安感を緩和するのであれば、給付が貯蓄に回ってもまったく問題はなく、その分、規模を大胆に大きくするべきだ。キャッシュレス決済にともなうポイント還元制度をすべての取引に拡大、そして還元率の大幅な引き上げと期間の延長も必要だろう。それでもネットの資金需要はまだ強くなく、金利急騰がない中での国債発行は容易だろう。日本が普通の国に戻るだけである。新型コロナウィルスの問題で民間経済が弱体化している中で、財政政策が緊縮のままでは、ネットの資金需要は消滅したままで復活せず、リフレサイクルは稼働せず、デフレ脱却にも失敗し、日本経済は再びデフレという長期低迷の闇に陥るリスクが高まってしまうだろう。これまで財政赤字だけをみるミクロ・会計的な財政運営を行ってきたことは大きな問題で、民間の資金需要の弱さを考慮してネットの資金需要を適度な水準に保つというマクロ的な視野をもった財政運営にすぐにでも改めるべきだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

高齢化の中で社会保障システムを維持するため、消費税の役割として一般的には二つの重要性が語られる。

消費税を支えるその二つの通念に反論してみる。

一つ目の通念は、消費税は消費の量という大きく変化しないものに課税されるため、税収が安定しているので好ましいということだ。

税収の振れを小さくすることは、景気の振れを逆に大きくするトレードオフが存在する。

景気が悪くなると税収が落ちることにより、自動的に財政が緩和的になり景気を支える力が生まれる。

景気が良くなると税収が増えることにより、自動的に財政が引き締め的になり景気を抑制する力が生まれる。

即ち、財政の景気自動安定化装置が作動する。

消費税は景気動向に関わらずほぼ一定の税収が見込めるため、安定財源と言われる。

財政の安定化のため、より安定的な財源を確保すべきであるという意見は耳に心地がよい。

しかし、その裏にある景気の振れが大きくなるリスクが説明されることはあまりない。

昨年後半からは自然災害が多発し、極度の暖冬も経済活動の下押しとなってきた。

そして、新型コロナウィルスの影響などで、自粛ムードが大きくなり経済活動が下押されるため、総需要を支える財政政策の役割が大きくなっている。

強い実質賃金上昇をともなうデフレ完全脱却で家計の体力が回復する前に、昨年10月に消費税率を引き上げてしまい、様々なショックに耐えうる日本経済の体力を削いでしまった。

消費税率引き上げの問題は、その直接的な景気下押し圧力より、経済の体力を消耗させ、予期せぬショックへの対応力を弱体化させることだろう。

消費税率引き上げによる安定財源の確保で、景気自動安定化装置の役割を減じてしまったことと合わせて、自然災害、暖冬、新型コロナウィルスなどの複合的な景気下押し圧力の悪影響が大きくなってしまっている可能性がある。

二つ目は、社会保障システムをはじめとする公的サービスの費用を世代が広く公平に分かち合う上で、消費税は大きな役割があるということだ。

消費税は、現役世代だけではなく、引退世代も消費するため負担することになる。

単純な会計(ミクロ)の上は、消費税は現役世代も引退世代も広く公平に分かち合っているようにみえる。

しかし、年金などの手当ては実際に生活に必要となる費用に見合って決まるため、消費税率が引き上げられれば、長い目でみればそれらも増額されることになる。

この点に関しては、引退世代の負担が応分に増えることにはならないだろう。

マクロ的には、もう少し複雑である。

引退世代が貯蓄を取り崩して消費した分に消費税がかからなければ、引退世代の負担が現役世代対比で軽いように感じる。

しかし、その消費による支出の増加は現役世代の所得の増加となる。

その増加した所得から税金が納められるのであれば、消費税がなくても、現役世代に負担が大きく偏っていることにはならないだろう。

逆に、消費税率が引き上げられて将来の負担が大きくなったとみた引退世代が貯蓄の取り崩しを抑制してしまえば、現役世代の所得に抑制の力が働いてしまうリスクもある。

以上の考察からの結論は、消費税を支える二つの通念はマクロではなくミクロ・会計の思い込み(イデオロギー)かもしれず、景気の安定化に寄与するとともに、現役世代の所得の増加にも寄与する税制が好ましいということだ。

日本経済の現状を冷静に考慮すれば、消費税はこれらの点においてかなり劣っているようだ。

日本経済は、長く苦しんできた内需の低迷とデフレから脱却しようと懸命に努力している。

内需の大きな柱である消費を増やすことが重要で、その消費にペナルティを課すような消費税は重荷となってしまうことは明らかだ。

現役世代と引退世代にかかわらず消費が増加し、その支出が現役世代の所得を増やす好循環が必要である。

もちろん、高齢化がかなり進行し、日本の国際経常収支が赤字で、消費過多・インフレ体質になっていれば、消費税は好ましいかもしれない。

今はそのような状況ではなく、内需の低迷とデフレから脱却することで投資を増やし、経済の生産性と所得を増加させなければいけない局面にある。

やはり、この時点での消費税率引き上げは時期尚早で、日本経済の体力を消耗させ、予期せぬショックへの対応力を弱体化させてしまったようだ。

あまりにミクロの視点にたった政策運営でマクロ動学の大きなしっぺ返しをくらうことになる典型的な例となってしまっていることは反省して改善すべきだろう。

すぐにでも消費税率を引き下げ、家計の実質所得を支え、財政の景気自動安定化装置を強くすることは内需低迷とデフレ完全脱却のためにも理に適っている。

早急な景気刺激効果は財政支出の方が大きいかもしれないが、消費税率引き下げは短期的な刺激効果の大小ではなく日本経済の体力そのものを回復させるもので、新型コロナウィルス問題があってもでもデフレ完全脱却への動きを止めないためにとても重要である。

そして、日銀の金融緩和政策のように、強い実質賃金上昇をともなうデフレ完全脱却までは消費税率を引き上げないとし、「時間軸効果」によって消費者心理を支えるべきだろう。

財政収支(資金循環統計ベース)は2019年10 - 12月期に - 1.9%(4四半期平均、GDP比率)となり、6四半期連続で赤字は2%以下となっている。

アベノミクス前の2012年10 - 12月期の - 8.7%から、景気拡大の進展にともない赤字幅が大きく縮小してきた。

2017年10 - 12月期が - 3.4%だったことを考えると、不確実性が大きくなり民間の経済活動が抑制される中で、政府は財政収支の劇的な改善を進めてしまってきてしまった。

企業貯蓄率と財政収支の和であるネットの国内資金需要が消滅し、マネーと所得が縮小する力が大きくなってしまっている。

資金が循環し貨幣経済とマネーが拡大し、家計に回ってくる所得を大きくするために、ネットの資金需要は十分な額が必要である。

現時点のデータでネットの資金需要をその水準にもっていき、新型コロナウィルスの問題があってもデフレ完全脱却への動きを止めないためには、最低限で財政措置として20兆円(4%、GDP比率)程度、1月に国会を通った前回の経済対策(財政措置として13兆円程度)を大幅に上回る財政拡大が今すぐにも必要である。

安倍首相は3月14日の記者会見で「一気呵成にこれまでにない発想で、思い切った措置を講じる」と述べているが、ポリシーミックとしての金融緩和効果を拡大する意味でも「異次元」の財政拡大が必要な時だろう。

消費税の収入は年間20兆円程度なので、この際止めてしまえば丁度よい。

消費税率引き下げに対する政治の反対が強いのであれば、相当する規模の給付で、家計の消費税の負担をオフセットすべきだろう。

今、急を要するのは、直近の消費刺激ではなく、家計の過度な不安感が消費を追加的に縮小させてしまうのを防ぐことであり、家計の不安感を緩和するのであれば、給付が貯蓄に回ってもまったく問題はなく、その分、規模を大胆に大きくするべきだ。

キャッシュレス決済にともなうポイント還元制度をすべての取引に拡大、そして還元率の大幅な引き上げと期間の延長も必要だろう。

それでもネットの資金需要はまだ強くなく、金利急騰がない中での国債発行は容易だろう。

日本が普通の国に戻るだけである。

新型コロナウィルスの問題で民間経済が弱体化している中で、財政政策が緊縮のままでは、ネットの資金需要は消滅したままで復活せず、リフレサイクルは稼働せず、デフレ脱却にも失敗し、日本経済は再びデフレという長期低迷の闇に陥るリスクが高まってしまうだろう。

財政赤字恐怖症を抱えているような現行の財政運営では、日本経済がデフレ完全脱却になかなか到達できないのは当たり前である。

これまで財政赤字だけをみるミクロ・会計的な財政運営を行ってきたことは大きな問題で、民間の資金需要の弱さを考慮してネットの資金需要を適度な水準に保つというマクロ的な視野をもった財政運営にすぐにでも改めるべきだろう。

図)ネットの資金需要

ネットの資金需要
(画像=日銀、内閣府、SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司