要旨

● 新型コロナウイルスの感染が広がっている。今回公表された2月の景気ウォッチャー調査を用いて、その経済への影響についての分析を試みる。

● 景況判断のコメントは「新型コロナウイルス」一色に。関連語を抽出すると、「インバウンド」など訪日外国人客関連のワードや、「イベント」「キャンセル」「自粛」など国内の消費活動停滞に関するワードが上位に並ぶ。

● 業態別のDIをみると、旅行・飲食、百貨店、レジャー関連などの落ち込みが激しい。スーパーはDIがむしろ上昇しており、日用品の買いだめ需要などが効いているようだ。企業部門はともに製造業・非製造業ともに低下したが、相対的に製造業の落ち込みは小さめだ。

● 2003年のSARSの際のコメントは訪日外国人関連にとどまっており、今回は国内経済活動の自粛を伴う分、影響は大きくなる可能性が高くなっている。一方、東日本大震災の際と比べると企業活動の停滞を示唆するコメントは多くなかった。今回は、時差通勤やテレワークが呼びかけられてはいるが、製造ラインの停止や生産設備の毀損などを伴ってはいない。影響は家計部門が中心になっている点は特徴の一つである。

● ただしそれが2月までの話であることは事実であり、今後企業活動や金融市場への影響が広がれば、コロナショックは深刻化するリスクを抱えている。2008年のリーマン危機後には、「生産調整」や「解雇」など企業活動や雇用関連のネガティブワードが増えている。今後これらのコメントが増えてくるようであれば、本格的な景気後退の到来を示唆するアラートとなる。

ウイルス対策
(画像=PIXTA)

景気ウォッチャー調査から新型コロナの影響を探る

新型コロナウイルスの感染が広がる中、景気の先行きに不透明感が強まっている。本稿では、昨日公表された内閣府の景気ウォッチャー調査を仔細に分析することで、今回の新型コロナウイルスの経済への影響について分析を試みる。また、景気ウォッチャー調査はタクシー運転手など景気敏感業種の人に対する景況感調査であり、それぞれの景況判断理由がコメントとして公表されている。これらをテキストマイニングの手法を利用しながら、今回の危機の特徴を考察する。なお、今回公表された2月景気ウォッチャー調査の調査期間は2月25日から月末である。

「新型コロナウイルス」で埋め尽くされた2月の景気コメント

まず、今回2月景気ウォッチャー調査の景況判断理由に関するコメントをもとに、以下にワードクラウドを作成した。ワードクラウドはテキストを単語単位に分解したうえで、その単語の出現頻度を文字のサイズとして表現したものである。一見して明らかなように、今回の景気判断コメントは「新型コロナウイルス」で埋め尽くされていることがわかる。

テキストマイニングで探る新型コロナウイルスの影響
(画像=第一生命経済研究所)

次に、現状判断のコメントについて、共起ワードを抽出することによって「新型コロナウイルス」と同時に使われている語、関連の深い語を調べた。結果は以下のとおりだ。「感染」「拡大」のほか、訪日外国人客数の減少に関する「インバウンド」や、「キャンセル」、「イベント」「自粛」など国内における外出手控えの影響に関するワードが並ぶ。

テキストマイニングで探る新型コロナウイルスの影響
(画像=第一生命経済研究所)
(注)共起ワードは特定の単語と同時に使われる単語を指す。抽出にはRMeCabパッケージのcollocate関数を利用、spanを10とした。助詞など意味を持たないとみなした語を除いている。
(出所)内閣府、R、Mecabより第一生命経済研究所が作成。

続いて、現状判断のコメントを用いてバイグラムを作成した。バイグラムはテキストを連続する2語ごとの組み合わせとして抽出したものである。そのうち、出現頻度の高い組み合わせをプロットにしたものが資料3である。図をみると、「キャンセル」「延期」「中止」の周囲には「宿泊」「宴会」、「展示」「会」、「説明」「会」、「イベント」など様々なワードが並んでおり、外出や集まりの自粛の影響が多方面に広がっていることがわかる。また、「減少」の周囲には「来店客」「数」や「インバウンド」といった消費関連の経済活動停滞を示唆する文言が並んでいる。

テキストマイニングで探る新型コロナウイルスの影響
(画像=第一生命経済研究所)
(出所)内閣府、R、Mecabより第一生命経済研究所が作成。
(注)景気ウォッチャーのコメントを2語ごとに分類したときの語の組み合わせについて出現頻度を算出し、頻度の高いものをプロットしている。

旅行・飲食の落ち込みが激しい

業態別のDIをみると、旅行・飲食、百貨店、レジャー関連などの落ち込みが激しい。商店街・一般小売店、衣料品専門店、家電量販店など、多くの家計関連業態でもDIの低下が確認できる。一方で、スーパーはDIがむしろ上昇しており、日用品の買いだめ需要などが効いているようだ。企業部門はともに製造業・非製造業ともに低下したが、相対的に製造業の落ち込みは小さめだ。

テキストマイニングで探る新型コロナウイルスの影響
(画像=第一生命経済研究所)

SARS、東日本大震災との対比

SARSの感染拡大がみられた2003年5月の共起ワードを同様に抽出した。「旅行」・「海外」・「中国」など、観光・宿泊関連のワードが中心であったことがわかる。今回の新型コロナウイルスの感染拡大に関しても、当初は経済への影響をSARSとの対比で推し量る動きがみられたが、すでに国内の経済活動自粛にまで広がっており、影響はSARSの際を上回る可能性が高くなっている。頻出ワードの動向からもそうした点は読み取ることができる。

テキストマイニングで探る新型コロナウイルスの影響
(画像=第一生命経済研究所)
(注)資料2に同じ。(出所)内閣府、R、Mecabより第一生命経済研究所が作成。

これに対し、東日本大震災の際には、「キャンセル」・「自粛」など今回と同様のワードが上位になっている。一方で、企業関連のワードである「受注」、「供給」、「計画」(停電)などのワードが登場する点が震災期の特徴として挙げられる。現在の状況を考えると、政府からのテレワーク・時差勤務要請等がありながらも、企業活動を完全に停止させるほどのショックにはなっていない。先にみたように、製造業の現状判断DIの落ち込みが、比較的軽めにとどまっているのはこうした点もかかわっていよう。新型コロナウイルスの影響は家計部門が中心となっており、供給網や製造ライン等への影響は、生産設備の毀損が伴った東日本大震災期よりも、現時点では軽い可能性が示唆される。

テキストマイニングで探る新型コロナウイルスの影響
(画像=第一生命経済研究所)

企業・雇用への波及を示唆するワードが増えれば危険信号

以上のように、2月の景気ウォッチャー調査からは今回のコロナショックが家計部門を中心としたショックであることがみえてきた。もちろん、これらの比較はあくまで“2月時点”の話である点には留意されたい。今後感染が広がっていくようであれば、製造業などの企業活動に波及するリスクは十分にある。また、今回の感染がグローバルに広がっているほか、3月に入って以降、金融市場も不安定な状態が続いている。2月時点では「株価」などへの言及は多くなく、ここはさらなる下押し要因になりうる。今後、海外経済の悪化やグローバル金融市場の悪化が長引くようであれば、コロナショックは深刻な経済危機になる潜在性がある。 以下には、現状判断DIが最低値を記録した世界金融危機直後の2008年12月のバイグラムを掲載した。「受注」→「減少」や、「雇用」→「調整」、「生産」→「調整」、「派遣」→「社員」→「解雇」などのワードが並ぶ。企業部門や雇用部門の活動停滞を示唆するテキストが増えてくるようであれば、それは本格的な景気後退の到来を示唆する文言だ。政府・中央銀行は積極的な政策対応を通じて、危機の伝播、広がりを防ぐことが重要な局面にあるといえよう。(提供:第一生命経済研究所

テキストマイニングで探る新型コロナウイルスの影響
(画像=第一生命経済研究所)

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
副主任エコノミスト 星野 卓也