要旨

● 10日に新型コロナウイルスの感染拡大を受けた緊急対応策の第2弾が示された。感染拡大防止の対策のほか、休業補償や雇用調整助成金の特例拡充などの経済対策が盛り込まれている。

● 休業補償は①休校の影響を受けた子どもの保護者か否か、②雇用者かフリーランス形態かの大きく2つの軸で内容が分かれる形に。“保護者でない”フリーランスには給付型の休業補償の仕組みは設けられておらず貸付制度で対応。自粛要請の影響を受けたフリーランスも多いと考えられ、ここは物足りなさが残る内容である。

● 今回の対策はあくまで政府要請などによって経済的ダメージを受けた人・企業を対象とした生活補償や当座の資金繰り支援、といった側面が強く、国内景気の落ち込みを防ぐようなインパクトはない。20年度本予算成立後には、補正予算の編成議論が始まるとみられ、兆円単位の経済対策が検討されることになると予測する。

経済対策
(画像=PIXTA)

対策第2弾、休業の所得補填と企業の資金繰り支援

10日、政府の新型コロナウイルス感染症対策本部より、「新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策―第2弾―」が示された。概要は以下の資料1のとおりだ(第1弾も併せて掲載)。

新型コロナ対策第2弾のポイント整理
(画像=第一生命経済研究所)

今回の対策は財政措置4,308億円、うち国からの支出が2,715億円の対策となる(対策資料に明記はないが、過去の経済対策などを踏まえると、「財政措置」とは国の支出、地方の支出、財政投融資の合計値を指すとみられる)。対策経費のうち、財源は2019年度予算の予備費で賄われる。

第1弾が感染対策の強化などを中心とした153億円の金額としては非常に小規模の対策であった。第2弾は休業者への所得補償や雇用調整助成金の特例拡充など、新型コロナウイルスの感染拡大やその対応によって生じた経済活動の停滞を受けた対策が据えられており、規模は相対的に大きくなっている。

休業補償関連の助成金を新設

弊著「休業時の所得補償制度の整理と求められる財政対応」(2020年2月28日付)では、現状の社会保障制度、労働法制のもとでは、被用者保険外の人やフリーランスなど、休業に対する所得補填制度が受けられない人がおり、その層を中心とした所得補償が必要との指摘を行った。今回の対策では「保護者の休暇支援」や「事業活動の縮小や雇用への対応」が盛り込まれている。以下の表に概要をまとめた。

新型コロナ対策第2弾のポイント整理
(画像=第一生命経済研究所)

第一に、学校の臨時休業の影響を受けた保護者に助成金が創設される。企業が、「休校要請によって休業せざるを得なくなった保護者」を対象に、通常の年次有給休暇とは別に賃金全額支給の有休を取得させた場合、企業にその全額を助成する。

第二に、雇用契約に近い業務委託契約等の形態をとるフリーランスにも別途助成金を創設。額は日額4,100円の定額とされている。

第三に、雇用調整助成金の特例措置の拡充が行われる。従来の雇用調整助成金(*1)の対象を、新型コロナウイルスの影響を受けるすべての事業主とし、感染拡大防止のための一斉休業や濃厚接触者の休業を対象にする。また、感染拡大などに伴って地方公共団体が自粛要請を出した場合には助成率を引き上げる。雇用形態は問わず、正規・非正規ともに対象となる。

ポイントは、①休校の影響を受けた保護者と外出自粛などそれ以外の形で影響を受けた企業・従業員で助成内容が異なる点、また、②雇用者とフリーランス形態で助成内容が異なる点である。業務委託契約など雇用に近い形のフリーランスにも、給付型の助成金を支給する措置を設けた点はこれまでにない画期的な対応だ。しかし、対象はフリーランスの中でも休校措置の影響を受けた保護者に限られており、イベント自粛等の影響を受けたフリーランスに給付型の制度は作られていない。ここには、貸付型の個人向け緊急小口融資の特例を設け、新型コロナウイルスの影響によって収入減少があった世帯の据え置き期間や償還期限を延長することで対応する。

自粛要請の影響を受けたフリーランスも多いと考えられ、子どもの保護者以外のフリーランスが給付型休業補償の対象から漏れた点は対策の物足りない部分である。ここについては、①フリーランス全体を対象とすると所要額が膨らみ予備費での対応が難しくなる、②雇用保険料を支払っていないフリーランスへの所得補償が雇用者とのバランスを考えたときに妥当なのか、といった論点があったものと推察される。

2020年度補正予算で追加対策へ

今回は休業補償や雇用調整助成金など経済対策の性格を有する対策が盛り込まれたが、あくまで政府要請などによって経済的ダメージを受けた人・企業を対象とした生活補償や当座の資金繰り支援、といった側面が強く、国内景気の落ち込みを防ぐようなインパクトはない。新型コロナウイルスの感染拡大が、景気を著しく悪化させている点は明確になりつつある。早晩、政府は経済を底上げする追加措置が求められることとなろう。これまでは予備費を活用した小規模なものにとどまっていたが、兆円単位の規模が見込まれる。

対策の枠組みとしては、2020年度の補正予算が編成されることになるだろう。本来ならば現在審議中の2019年度予算を再作成して再度国会審議を行うのが筋かもしれない。しかし、新型コロナ対策を組み入れた本予算案の国会審議が長期化した場合、新型コロナ関連以外の予算成立も遅れるという事態を招きかねない。ゆえに現実問題としては、本予算は現状のまま成立させたうえで、その後に補正予算、というシナリオとなる蓋然性が高いだろう。対策を次のフェーズに迅速に移すためにも、本予算案を速やかに成立させることが求められよう。(提供:第一生命経済研究所


(*1) 経済上の理由で事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、一時的に休業や教育訓練、出向などを行って雇用維持を図った場合に、休業手当や賃金等の一部を助成する制度。雇用保険の雇用安定事業として行われているもの。

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
副主任エコノミスト 星野 卓也