政府は、3月10日に緊急対応策を発表し、フリーランスにも配慮をにじませた。しかし、今回のような止血対策で時間稼ぎをしても、自粛が長引くといずれ過剰雇用を抱えた企業が耐えられなくなって、失業が増えるだろう。問題の本質は、いつ感染拡大が収束するかにかかっている。収束させるためには、前提として検査体制を十分に整備することが条件になるが、まだそれも明確な目処が立っていない。

ウイルス,影響
(画像=PIXTA)

止血策としてのセーフティネット

政府は、緊急対応策の第二弾として、3月10日に指針を発表した。第一弾は、2月13日に発表された153億円と小粒の対策になる。今回は、規模が4,308億円ともう少し大きく、これまでカバーできなかったフリーランスの配慮を行っている。

フリーランスの対応は、すでに先行して言及された。それを聞いて、筆者などは「雇用者ではないフリーランス、自営業者、零細事業者をどうやって保護するのか」と疑問を感じ、彼らには公的枠組みがないから困ったことだと考えていた。そこでの答えは、貸付による支援だった。また、保護者の立場にあるフリーランスには、日額4,100円の休業補償を入れた。緊急小口資金等の特例として、金額を10万円→20万円に引き上げ、無利子・償還免除等の条件で行うようだ。ただ、保護者以外のフリーランスはどうなるだろうかという疑問は残る。

これらの対策をみて不十分だという人は多いだろう。しかし、政府は限られた時間の中で、「まずは経済の止血だ」と考えているのだろう。次に、政府は別途、緊急経済対策を4月にもまとめる意向を示している。その中では現金給付も検討されているようだ。

そう考えると、止血策として、コロナ感染の阻止に成功するまでは、資金繰り支援と雇用調整助成金というセーフティネットで何とかもたせる、と腹を括っている。止血策として、金融と雇用に痛み止めを打つということならば、それは合理的だと評価できる。

不十分と考えられる部分は、次の対策で補っていけばよい。自粛によって落ち込んだ消費需要を押し上げる「復旧」と、その次に、企業の投資・雇用拡大に向けたマインドを刺激する「復興」の対応策を採ることである。今回が、止血策だと割り切ると、政府は、それなりにできる限りをやっているとみることはできる。

対応策の中身

具体的にみると、対策の中の経済支援策は、主に次の3つが目を引く。

(1)強力な資金繰り対策:実質無利子、無担保の資金支援
(2)雇用調整助成金の特例措置拡充:地域によって助成率引き上げ
(3)学校休校に伴う保護者の休業支援:正規、非正規とも雇用者

は1人当たり日額8,330円、フリーランスは1 人当たり日額4,100円

これらのうち、実質無利子の資金繰り支援は、日本政策金融公庫などによって行われる。実質無利子とは、条件付きで政府などが利子分を助成して、負担ゼロにするということであろう。これは、新制度で5,000億円規模になるという。この制度を使うと、中小企業、零細企業、自営業者を支援できる。

フリーランスなどに対する支援は、学校休業の中に入れている。特例として個人向け緊急小口資金の貸付をすることは、一応フリーランス支援にもなっているのだろう。

緊急措置の扱い

今回の緊急対応策とほぼ同時に決定されたことも注目される。それは、これまで「1~2週間、3月15日まで」としてきた自粛期限をさらに「10日間程度ほど継続する」という決定である。また、3月14日に施行される予定の改正特別措置法では、首相が緊急事態宣言を出せば、経済活動などを含む私権制限を行うことができるとされる。これによって、自粛要請よりも制限の強い措置が採れるようになる。そうなると、個人や民間企業が集団訴訟を起こすことも難しくなる。ただ、政府に強権発動の力を与えるのならば、その一方で政府にはそうした制限措置を採ったことの根拠などを事後的でもよいので、説明責任を果たすことが求められる。

問題の本質

緊急対応策をみて、まだ不安が大きいのは、いつまで自粛が続くのかが見えてこないからだ。セーフティネットは、飽くまで時間稼ぎでしかない。時間稼ぎが有効なのは、2、3か月先に事態を正常化できるという目処がある時に限られる。目処もなく、無期限での時間稼ぎは成り立たないということだ。

その点、自粛の期限が、1~2週間からさらに10日間後に延びたことは、少しがっかりさせられる。もしかすると、10日間が経ったとしても、再延長があるかもしれない。そう連想させられることが、今回の不十分な点だったように思える。

少し理論的に説明すると、私たちが苦しんでいるものの正体は、先行きが非常に不確実だと感じていることである。いつ感染拡大が収束するかが見通すこともできずに、とにかく今は自粛をするしかないと自分たちに言い聞かせて我慢している。そのことは疑心暗鬼を生んで、私たちの消費を慎重化させて、企業行動も同様に保守的になっている。

今、政府が行わなくてはいけないことは、この不確実性という霧をなるべく見通しの利くものに変えていくことである。つまり、消費者が先行きに何らかの前向きな見通しを持つことができるようにして、疑心暗鬼を和らげることが課題になる。

具体的に言えば、例えば、「感染拡大が4月末に収束して、そこで地域ごとに自粛を緩和する」という目処を示したとしよう。すると、目の前の未来はかなり明るくなる。もちろん、そのためには政府はそれなりの役割を果たして、設定した目標に対する成果を上げなくてはいけない。

これは、不確実性に対して、政府が予見可能性を与えるという処方箋である。疑心暗鬼に陥っていた人々は、予見可能性を与えられることによって、今度は合理的行動を採れるように変わっていく。政府は、そうした予見可能性をうまく作ることが今求められていることだ。

緊急コロナ対策の課題
(画像=第一生命経済研究所)

やはり検査体制が基礎になる

今回の緊急対応策の最大の問題点は、この緊急事態がいつ終わるのかを示さないまま、一時的な痛み止めを打っていることである。感染対策を議論しているメンバーたちは、医療関係者ばかりで、経済のダメージまで慎重に考えられる人が何人揃っているのだろうか。このまま自粛が長引けば、経済は死んでしまう。正確に言えば、サービス業の中から企業倒産が起きてくる。そうなれば、セーフティネットの範囲では、失業を防止しきれないことになる。

鍵になるのは、感染阻止をなるべく早期に成功させることである。だが、政府はデータを集めて、科学的に自粛の効果をチェックしているのだろうか。おそらく、科学的に分析するためには、感染者かどうかを調べるウイルス検査体制がもっと広範囲に実施されていなくてはいけないだろう。

例えば、感染拡大を防止するのならば、地域ごとの感染状況をもっと細かくマッピングする方法がよい。感染が多い地域をサンプル調査して特定し、そこで集中的に検査数を増やす。また、感染者の多い地域から、感染がない(あるいはごく少ない)地域に移動する際に、できる限り移動する人を検査して、地域ごとに感染者数を増やさないことも重要だ。

今は、日本全国でどこでも集団になって活動することは控えるようになっている。それは、不特定多数の集団は、皆危険だという扱いに近い。それではあまり科学的ではいように思える。不特定の集団がブラックボックスになっているから、そうした極端な扱いになるのだろう。広範囲に検査が行われないと、ブラックボックス化した集団の色分けもできない。例えば、企業単位でもっと検査ができれば、仲間内での活動ならば安全という風になるだろう。

政府は、PCR検査を1日最大7,000件まで増やすことを目標に掲げている。しかし、そうやって増やした検査対象者のデータをどのように利用していくかは明確にはされていない。本当は、感染阻止のためには基礎になる検査体制の充実が大切なのだが、まずはそこが必ずしもしっかりしていないところが問題なのだろう。

止血策としてのセーフティネットは、一応用意されたので、いつ感染拡大を収束できそうかという目処を、検査体制の拡充、検査の実施増加を同時に進めながら、決めて行かなくてはいけない。政府は、「走りながら考える」ことを迫られている。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 熊野 英生