景気後退+消費増税+新型コロナウィルスの三重苦で最低10兆円以上必要

要旨

● 経済対策の規模については、景気後退+消費増税+新型コロナウィルスの3重苦に対して、大型の補正予算が組まれることが予想される。しかし、景気後退+消費増税に伴うGDPギャップを解消するのに必要な規模の経済対策を前提とするだけでも9.8兆円規模の追加の経済対策が必要になる。

● 東日本大震災と2014年4月消費増税の時は、GDPの実績がトレンドからそれぞれ▲3.8兆円、▲3.7兆円程度下方に乖離。消費増税の影響も前回はトレンドから▲0.9%の乖離に対し、今回は▲2.3%もトレンドから下方に乖離していることから、すでに新型コロナウィルス緊急対応策に加えて、需給ギャップの解消に必要な需要創出額10兆円以上の財政措置が必要となる。市場の不安を軽減するという意味でも規模は重要。

● 景気後退+消費増税+新型コロナウィルスの合わせ技でリーマン級になる可能性があるため、麻生政権が2009年に打ち出した「経済危機対策」が参考になる。①個人消費向けには、定額給付金や土日祝高速料金引下、エコカー減税・補助、エコポイント等の対策、②設備投資や住宅建設向けには太陽光発電の導入加速や住宅金融支援機構による対策や、太陽光導入支援補助金等、③公共投資では補正予算や当初予算の前倒し等、④雇用については雇用調整助成金等の対策、⑤医療再生として介護機能強化や子育て支援強化策、等が実施された。

● 今回も既に打ち出されている2019年の経済対策フレームに加え、貯蓄に回らない個人消費や設備投資に対する手厚いメニューが含まれることが期待される。既に予定されているマイナポイントに加えて、キャッシュレスポイント還元の拡充が効果的。経済が正常化するまで全品目軽減税率を導入すること等により、消費者の負担軽減と家計の購買意欲向上を高めること等も検討に値する。新型コロナ収束後に全国的な行楽や旅行需要を早期に回復させるべく、平日高速料金引下や旅行・宿泊費の給付等も検討に値する。

● 設備・住宅投資に関しては、企業のリモート設備導入加速に加え、「スクール・リモート」構想として学校や家庭にリモート学習が可能な設備の導入補助等の支援措置が期待される。公共事業に関しては今年度補正予算や今年度当初予算の前倒し、雇用については失業者に対する緊急人材育成や就業支援基金、ふるさと雇用再生特別公費金、緊急雇用創出事業等、企業金融については公的金融機関による緊急貸付・保証枠・支援の拡充等が求められよう。国内感染や水際対策・国際連携の強化や、感染拡大防止策・医療提供体制の整備などの予算拡充にも期待。

対策
(画像=PIXTA)

景気後退+消費増税を埋めるだけでも10兆円必要

政府は新型コロナウィルスの感染拡大による景気悪化に対応すべく、4月に緊急経済対策をまとめることが期待されている。特に経済対策の規模については、景気後退+消費増税+新型コロナウィルスの3重苦に対して、大型の補正予算が組まれることが予想される。

そこで以下では、まず必要な経済対策の規模から計測してみよう。

経済対策の規模を設定する際に一般的に参考にされるのが、潜在GDPと実際の実質GDPのかい離を示すGDPギャップ率である。直近の2019年10-12月期のGDPギャップ率は、内閣府の推計によれば▲1.4%とマイナスに転じている。

しかし、直近の民間エコノミスト経済成長率平均予測(ESPフォーキャスト2月調査)に基づいてGDPギャップ率を延伸すると、2022年1-3月期時点で▲1.8%のデフレギャップが生じることになる。従って、このGDPギャップを解消するのに必要な規模の経済対策を前提とするだけでも9.8兆円規模の追加の経済対策が必要になる。

新型コロナウィルスで必要とされる経済対策
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ただし、3月以降に自粛や風評被害が拡大した新型コロナウィルスの影響によって、3月以降の予測でGDPギャップの予測がさらに拡大していることが予想される。実際、過去のGDP統計に基づけば、自粛や風評被害が2四半期にわたって続いた2011年3月の東日本大震災と、3年近くにわたって消費低迷が続いた2014年4月消費増税の時は、GDPの実績がトレンドからそれぞれ▲3.8兆円、▲3.7兆円程度下方に乖離している。

これに対し、今回の自粛・風評被害の影響は、少なくとも訪日外客数が9年前から3.7倍になっており、同程度の影響が出たとしてもGDPの影響額は大きくなる。また消費増税の影響も、前回はトレンドから▲0.9%の乖離にとどまったものの、今回は一昨年11月から景気後退期にあったこともあり、▲2.3%もトレンドから下方に乖離している。

こうした状況に基づけば、すでに新型コロナウィルス緊急対応策として第一弾で153億円、第二弾で4,308憶円の財政措置を打ち出しているが、これに加えて需給ギャップの解消に必要な需要創出額10兆円以上の財政措置が必要となる。

つまり、今回の影響規模からすれば、市場の不安を軽減するという意味でも、既に打ち出されている新型コロナウィルス緊急対応策を除いて、最低でも10兆円以上の規模が必要となろう。

新型コロナウィルスで必要とされる経済対策
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メニューはリーマンショック前後の経済対策が参考

緊急経済対策のメニューについては、景気後退+消費増税+新型コロナウィルスの合わせ技でリーマン級になる可能性があるため、麻生政権が2009年に打ち出した「経済危機対策」が参考になろう。

具体的には、リーマンショック前後の4回に分けて打ち出された経済対策である。このメニューでは、第一弾が「安心実現のための緊急総合対策」、第二弾が「生活対策」、第三弾が「生活防衛のための緊急対策」、第四弾が「経済危機対策」となっている。

新型コロナウィルスで必要とされる経済対策
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特に、個人消費向けには多くの対策が掲げられ、定額給付金や土日祝高速料金引下、エコカー減税・補助、エコポイント等の対策が実施された。そして、設備投資や住宅建設向けには太陽光発電の導入加速や住宅金融支援機構による対策であり、「スクール・ニューディール」構想や貸与校導入支援補助金、等が実施された。

一方、公共投資では補正予算や当初予算の前倒し等を実施し、雇用については、雇用調整助成金などの対策、医療再生として介護機能強化や子育て支援強化策、等が実施された。

民間需要に対する幅広い政策に期待

以上より、今回も政府が景気後退+消費増税+新型コロナウィルスの三重苦に伴う景気の下振れに対応するため、一刻も早く政策のパッケージが打ち出されることが期待される。具体的には、既に打ち出されている2019年の経済対策フレームに加え、個人消費や設備投資に対する手厚いメニューが含まれることが期待される。

新型コロナウィルスで必要とされる経済対策
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ただし、リーマンショック時のような定額給付金では貯蓄に回り、需要が顕在化しない可能性もある。従って、実際に打ち出される対策については、既に予定されているマイナポイントに加えて、リーマンショック時のエコポイントと近いキャッシュレスポイント還元の拡充が打ち出される可能性もあろう。また、そもそも2019年10月の消費増税も「リーマン級のことがない限り消費増税を行う」としていたが、現状リーマンショック以来の不況が来る可能性が生じている。したがって、経済が正常化するまでの時限措置で全品目軽減税率を導入すること等により、消費者の負担軽減と家計の購買意欲向上を高めること等も検討に値しよう。

また、リーマンショック前後の経済対策では土日祝高速料金引下やエコカー減税・補助が実施されたが、高速料金引下は渋滞を誘発することで失敗した。このため、今回は新型コロナ収束後に全国的な行楽や旅行需要を早期に回復させるべく、平日高速料金引下や旅行・宿泊費の給付等も検討に値しよう。

更に、設備・住宅投資に関しては、リーマンショック前後の経済対策では太陽光発電の導入加速策等が実施された。しかし、今回の新型コロナウィルス感染拡大により、日本のリモート設備の導入が中国等から遅れていること等が露呈した。従って、今回は企業のリモート設備導入加速策が必要となろう。加えて「スクール・リモート」構想として、学校や家庭にリモート学習が可能な設備の導入補助等の支援措置が期待される。

なお、リーマンショック前後の経済対策に倣い、公共事業に関しては今年度補正予算や今年度当初予算の前倒し、雇用については雇用調整・中小企業緊急雇用安定助成金に加え、失業者に対する緊急人材育成や就業支援基金、ふるさと雇用再生特別公費金、緊急雇用創出事業、企業金融については緊急対策の公的金融機関による緊急貸付・保証枠・支援の拡充等が求められよう。

さらに、リーマンショック前後の経済対策では、医療再生として介護機能強化や子育て支援強化策が打ち出された。今回はすでに子育て支援策として幼児教育無償化や大学無償化が打ち出されているため、すでに緊急対策で打ち出されている国内感染や水際対策・国際連携の強化や、感染拡大防止策・医療提供体制の整備などの予算拡充が期待されよう。(提供:第一生命経済研究所

新型コロナウィルスで必要とされる経済対策
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第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 永濱 利廣