駆け込み需要の反動減で家計の資金余剰が大、企業も資金余剰幅が拡大傾向に

資金循環統計速報(2019年10-12月期)における部門ごとの資金過不足(季節調整値)をみると、家計は資金余剰に復帰(7-9月期:▲0.6兆円→10-12月期:+8.6兆円)、企業(民間非金融法人企業)の資金余剰は縮小(同+6.4兆円→同+2.7兆円)、一般政府の資金不足は拡大(同▲2.8兆円→同▲2.9兆円)、海外の資金不足は拡大(同▲4.6兆円→同▲5.0兆円)した。

循環
(画像=PIXTA)

家計部門は7-9月期に資金不足に転じていたが、10-12月期には資金余剰幅が大きく拡大した。この間、消費税率の引き上げが行われており、駆け込み需要とその反動減の影響で消費の増減が生じたことから、資金過不足の振れ幅が大きくなっていると考えられる。企業部門は10-12月期に資金余剰幅を縮小。しかし、トレンドを見ると18年末頃から余剰幅が拡大方向に転じている。国内設備投資の伸びが鈍っていることを映じているとみられる。政府部門・海外部門の資金不足幅はともに若干拡大した。政府部門の資金不足幅は18年末ごろからだらだらと拡大。税収の頭打ちが影響している可能性が高く、財政赤字は若干の拡大方向で推移している。

資金循環統計(2019 年10-12 月期)
(画像=第一生命経済研究所)

家計金融資産は現預金の流入超過で増加、3末はコロナショックの影響が表出へ

家計の金融資産残高は1,903兆円と9月末時点から+39.3兆円の増加となった。水準としては既往最高で、プラスに寄与したのは現金・預金(+22.0兆円)、株式、投資信託(同+16.0兆円)など。引き続き、現金・預金が中心となっているほか、年末にかけての株価上昇にともなう株式・投資信託の時価上昇が金融資産額の増加につながった。フローベースでも現預金中心に資金余剰幅が大きくなっており、先に指摘した駆け込み需要の反動減に伴う消費の減少が効いている可能性が高いだろう。

足元、新型コロナウイルスの感染拡大や原油価格の急落に伴って、大幅な株安が進んでいる。3月末の家計金融資産は、時価評価を通じて減少することとなろう。日経平均株価は12月末から足元約3割下落しているが、仮に家計の「株式等、投資信託」に同率の目減りが生じればそれだけで約▲86兆円の下押し圧力となる。私的年金等も含めれば影響はより大きくなろう。

なお、昨年の「老後資金2000万円問題」を受けて投資への関心が高まる動きが生じたものの、金融資産全体の構成にインパクトをもたらすような勢いは確認できない。高齢者世帯が家計金融資産の多くを保有している現状では、若年世代が投資を拡大させたとしても家計金融資産全体への影響は限られる。一方で、仔細にみると確定拠出年金への資金流入が増加していることは確認可能。7-9月期、10-12月期のフローは過去と比べても大きなものとなっており、「老後資金2000万円問題」を契機に現役世代が老後の資産形成に動いたと推察される。

資金循環統計(2019 年10-12 月期)
資金循環統計(2019 年10-12 月期)
資金循環統計(2019 年10-12 月期)
(画像=第一生命経済研究所)

企業の資金余剰は再び上昇傾向入りか

企業(民間非金融法人企業)の金融資産残高は1,240兆円(前期差+55.2兆円)と増加した。前期から増加したのは家計と同様に「株式等、投資信託」(同+33.1兆円)だ。そのほか、企業間・貿易信用(同+11.7兆円)、対外直接投資(同+6.7兆円)の増加が大きくなっている。

企業部門の資金余剰は2017年ごろから縮小する傾向にあったが、足元では徐々に反転する動きが確認できる。フローの内訳(4四半期移動平均)をみると、対外直接投資の拡大が加速している点が特徴的。企業が、M&A等を含む海外直接投資を拡大していることが数値に表れている。

資金循環統計(2019 年10-12 月期)
資金循環統計(2019 年10-12 月期)
(画像=第一生命経済研究所)

日銀国債保有割合は黒田バズーカ以降2度目の低下

日本銀行(中央銀行)の国債(国債・財投債+国庫短期証券)保有割合は43.68%と4四半期ぶりに低下した(9月末:43.85%)。国債買入ペースの鈍化に伴って保有比率の上昇が緩やかになってきており、2013年4月の大規模緩和以降では2度目の低下となる。

預金取扱機関の保有比率は13.3%、海外部門は12.8%と両者はほぼ同水準で推移している。海外部門の保有は短期ゾーンに傾斜しているが、「海外勢は日本国債を殆ど持っていない」という一頃前の常識は既に変わってきている。(提供:第一生命経済研究所

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第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
副主任エコノミスト 星野 卓也