要旨

● 3月の景気ウォッチャー調査のコメントでは、2月に引き続いて自粛、キャンセル、イベントなどのワードが頻出。「減少」の出現回数が増加しており、飲食業や観光業を中心に新型コロナウイルスの影響がさらに深刻化したことが示されている。

● 出現頻度の高い語の組み合わせを用いて共起ネットワーク図を描くと、2月には出現しなかった「雇用」→「調整」や「採用」→「活動」→「停滞」といった雇用情勢の悪化を示す言葉が出現。新型コロナの影響が深刻化している業種を中心に、雇用調整圧力が強まっていることが示唆される。

● 「雇用」の周辺における「調整」、「助成」、「相談」といった語の出現頻度がリーマン危機の局面において最低水準を記録した2008年12月の出現頻度に近づいている。一方、製造業や建設業と関連の深い「受注」の周辺における「減少」、「激減」といった語はまだ2008年12月のレベルには遠い。今後製造業への波及も進むとみられるが、今回の危機では非製造業の業況悪化→雇用悪化というパスが先んじて顕れる可能性が高いのではないか。

コロナウイルス
(画像=PIXTA)

景気ウォッチャー調査のコメント分析

3月10日に筆者が執筆した「テキストマイニングで探る新型コロナウイルスの影響」では、2月の景気ウォッチャー調査の現状判断コメントを用いて、出現頻度を分析した。そこでは、SARSの感染拡大期や東日本大震災との比較から得られたインプリケーションとして、経済への影響が家計部門中心になっており、2月時点では製造業への影響は相対的に小さかったのではないか、との指摘を行った。実際に、その後に公表されたハードデータをみていくと、外食、百貨店などの非製造業関連にはマイナス影響が如実に表れた一方で、2月の輸出や生産はさほど大きな悪化には見舞われていなかった。景気ウォッチャー調査のテキスト解析は、経済活動の大勢把握に有用であることを改めて確認することができたと考えている。

上位ワードは、自粛・キャンセル・飲食・観光・イベントなどで2月と同様

3月分のコメントデータ(現状判断)を用いて、景気の状況を推し量ってみたい(※1)。ワードクラウドを描いたものが資料1である。頻出ワードは減少、自粛、イベント、外出、キャンセル、中止、飲食、観光など。外出、自粛の要請等を背景にイベント中止、観光、飲食等に如実な影響が表れている。ワードの特性そのものは変わらないものの、「減少」の出現頻度は2月:295回→3月:360回に増加。現状判断DIの低下が示すように、その深刻度合いは深まったことが示唆される。

テキストマイニングで探る新型コロナの影響
(画像=(出所)内閣府「景気ウォッチャー調査」より第一生命経済研究所が作成。)
(注)ワードクラウドはテキストを単語単位に分解したうえで、出現頻度を文字の大きさで表現したもの。助詞や記号など、景気に関連のない語と判断したものは除いている。「新型」「コロナ」「ウイルス」は除いた。

次に、現状判断のコメントを用いて共起ネットワーク図を作成した(資料2)。バイグラムはテキストを連続する2語ごとの組み合わせとして抽出したものである。「イベント」→「中止」、「外出」→「自粛」、「自粛」→「ムード」といったワードの組み合わせが頻出しており、先にみたようなサービス業を中心とした悪影響が生じていることがみえてくる。

懸念されるのは雇用だ。筆者は、先のレポートで製造業や雇用への波及が示唆されるコメントの出現頻度が上がる場合、それが景気悪化のシグナルになる旨を述べた。前回は表れていなかった「雇用」→「調整」の組み合わせに加え、新卒採用の時期が重なったこともあって「採用」→「活動」→「停滞」の組み合わせが上位に出現した。新型コロナウイルスの感染拡大が雇用情勢にも波及し、経済への悪影響が一段と深まったことが示唆されている。

テキストマイニングで探る新型コロナの影響
(画像=第一生命経済研究所)
(注)景気ウォッチャーのコメントを2語ごとに分類したときの語の組み合わせについて出現頻度を算出し、頻度の高いものをプロットしている

以下では、2008年10月(リーマンショック直後)、2008年12月(現状判断DIが今回2020年3月分を除いて最低)と、2020年2月、3月のコメントについて、「雇用」、「受注」の共起ワードとその出現頻度をみた。

雇用に関しては、「調整」や「助成」(→雇用調整助成金関連のコメント)、「相談」の出現頻度が2008年12月に近くなっていることが分かる。コメント数の分析からは、雇用への悪影響がリーマン危機に近くなっていることが示唆されている。

テキストマイニングで探る新型コロナの影響
(画像=(出所)内閣府、R、Mecab より第一生命経済研究所が作成。)
(注)共起ワードは特定の単語と同時に使われる単語を指す。抽出にはRMeCabパッケージのcollocate関数を利用、spanを10とした。助詞など意味を持たないとみなした語を除いている。

また、製造業や建設業の景況を表しやすいと考えられる「受注」についてみると、「減少」の出現頻度は2008年10月を下回っていた。相対的にではあるが、現時点では非製造業に比べて製造業・建設業へのマイナス影響が小さくなっていることが示唆される。通常の景気悪化局面では製造業の悪化から波及するケースが多いが、今回は非製造業の業況悪化→非製造業の雇用悪化のパスが先んじて顕れてくる可能性が高いのではないか。

ただ「受注」の共起ワードに関しても、ネガティブワードの出現頻度が着実に増加していることも事実である。自動車セクターでは海外需要減に伴う工場停止なども報じられており、今後悪影響が表面化するだろう。製造業への波及度がどの程度深刻化するかが、今回のコロナショックの影響をみるうえでの大きな焦点となる。(提供:第一生命経済研究所

テキストマイニングで探る新型コロナの影響
(画像=第一生命経済研究所)

(※1) DI 等の状況については、第一生命経済研究所 Economic Indicators「景気ウォッチャー調査(2020年3月)」を参 照。


第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
副主任エコノミスト 星野 卓也