3月分のサービス関連データを反映。より正確に景気実態を反映させるための取り組み

GDP
(画像=PIXTA)

業界統計等を活用し、3月分のサービス消費急減を反映

4月13日発行のEconomic Trends「GDP1次速報ではコロナショックを反映しきれない?」では、従来の推計方法では、①5月18日に公表される1-3月期GDP1次速報では新型コロナウイルスによるサービス消費の急減を十分に反映することができず、景気の悪化度合いを過小評価してしまう可能性が高いこと、②6月8日公表の1-3月期GDPの2次速報において3月のサービス消費悪化分が改めて反映されることで、1次速報の結果から大きく下方修正される可能性があること、を指摘した。背景にあるのはサービス関連統計データの公表の遅さであり、QE推計の基礎統計である「サービス産業動向調査」と「特定サービス産業動態統計」の3月分の結果がGDP1次速報の推計に間に合わないことが、こうした問題を生じさせかねない状況だった。3月分のサービス消費は急減が確実視されているため、仮にここが反映できなければ、GDP1次速報は実態と比べて高く算出されてしまう(※1)。最重要統計ともいえるGDP統計が経済実態を正しく反映できないとすれば、非常に大きな問題になるところだった。

こうした問題に対応するため、内閣府は4月28日に、1-3月期GDP1次速報の推計方法を一部変更することを発表した。具体的には、本来の基礎統計が公表されていない3月分のデータについて、推計時点で利用可能な業界統計・業界大手企業のデータ等を用いて推計を行うとの方針を示している。たとえば鉄道輸送や航空輸送は主要各社の利用客数、飲食サービスは業界統計、宿泊サービスは観光庁データから推計を行うほか、国土交通省による調査(※2)や業界団体へのヒアリング情報、大手企業の売上データ等も活用することで、可能な限り実態を反映することを目指すといったことがアナウンスされている。これにより、前述したような「1次速報が景気悪化度合いを反映しきれず、実態よりも高く算出。2次速報で大幅下方修正」という事態は回避される可能性が高くなった(※3)。

もちろん、業界統計は会員企業のみを対象とした数値に過ぎず、大手企業の売上データも、その業界全体の動きを必ずしも正確に示しているとは限らない。全事業所を対象とするサービス産業動向調査と比べれば、カバレッジの面で多少難があるのは事実だろう。だが、今回のように3月分の数字が急減することが確実視されている場合、1、2月平均の前年比で3月分を延長するという通常の方法よりも、臨時の対応として業界統計等を用いた方が、より正確に実態を反映できる可能性が高まることは間違いない。公的統計に頑なにこだわる必要はないだろう。特に今回の1-3月期GDP1次速報は、新型コロナウイルスによる経済への影響度合いを測る上で注目度が高いため、推計手法上の問題によって実態と乖離した結果が公表されることは何としても避ける必要があった。内閣府による今回の推計方法の変更は、非常時における柔軟な対応として高く評価できるだろう。

季節調整における異常値処理

もう一点変更があるのは、季節調整におけるダミー変数処理(異常値処理)である。1-3月期のデータは通常の季節パターンとは異なる大きな動きが生じるとみられ、そのことが季節調整に歪みを生じさせる可能性が高い。そのため、1-3月期の季節調整に際して異常値処理を行うことにより、季節調整値に歪みを生じさせないことを目指している。技術的な話だが簡単に説明しよう。

GDPの季節調整に際して用いられているX-12-ARIMAという季節調整法では、元のデータに対して移動平均を繰り返すことで季節調整値を求める。そのため、元のデータに通常の循環変動や季節変動と異なる異常値や構造変化が存在する場合、移動平均値も異常値や構造変化の影響を受けてしまうことになり、算出される季節調整値に歪みが生じるという問題がある。今回の場合、仮に1-3月期のデータが極端な悪化となった場合、その落ち込みが、季節調整を行う上で「季節性による悪化」と誤って認識されてしまう。その結果、本来あるべき姿と比べて、毎年1-3月期が上振れる形で季節調整値が算出される一方、その他の四半期については逆に下振れる形で計算されてしまうのである。

ちなみにこの歪みは後々まで尾を引く。いったん歪みが生じれば、データが追加される度に過去の値が大きく改定されやすくなるのである。たとえば、仮に1-3月期の落ち込みが季節性によるものと誤認され、1-3月期が本来の姿と比べて上振れて計算されるとする。その翌年、1-3月期のデータが通常のものに戻れば、前年の1-3月期の落ち込みは季節性によるものではなかったと改めて認識され直され、季節調整値は過去に遡って改定されてしまう。ちなみにリーマンショック時にもこの事態が生じており、事後の改定幅が大きくなっていた。

このことを避けるため、季節調整にあたって異常値処理を行うことになった。こうすることで、1-3月期の落ち込みが季節性によるものと誤認され、実態よりも上振れて計算されることが回避できる。結果として、1-3月期の落ち込みが正しく季節調整値にも反映されることになる(※4)。また、データが追加されることによる事後的な改定の問題も生じにくくなることが期待できる。この変更についても、景気実態をより正確に反映するための取り組みとして評価できるだろう。

予備費の使用を政府消費に反映

このほか、政府消費についても一部変更がある。新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、令和元年度予算における予備費の使用が決定されている。これを政府最終消費支出の推計に反映させるとのことである。

(参考)


(※1) 通常、サービス産業動向調査の場合、1、2月平均の前年比の値を用いて3月分の値が仮置きされる。この方法では3月の急落が反映できず、実態と大きな乖離が生じる可能性があった。

(※2) 国土交通省「新型コロナウイルス感染症に伴う関係業界の影響について」 https://www.mlit.go.jp/common/001340540.pdf

(※3) 3月分は業界統計等の結果を用いて1次速報を作成するが、2次速報でサービス産業動向調査等の結果が反映されれば、一定の改定は生じうる。また、通常の2次速報と同様に、法人企業統計等の反映による設備投資や在庫変動の改定もある。今回の推計方法の変更によって、従来の手法と比べて1次速報が景気実態を反映しやすくなることは確かだが、だからといって2次速報における修正幅が小さなものになるとは限らない。その点は推計の限界として受け入れるしかないだろう。

(※4) 4-6月期は1-3月期以上の落ち込みとなることが確実視されている。おそらく4-6月期についても異常値処理が行われることになるだろう。


第一生命経済研究所 調査研究本部
経済調査部長・主席エコノミスト 新家 義貴