かつての飛ぶ鳥を落とす勢いが消えかけている。ソフトバンクグループの話だ。新型コロナウイルスによる影響で出資先企業が資金難に陥り、経営破綻するケースも出てきた。「投資会社」を標榜する同社にとって、出資の失敗は株価の下落に結びつく。ソフトバンクグループは今後大丈夫なのか?

ソフトバンクグループと投資

ソフトバンクG
(画像=Michael Vi/Shutterstock.com)

孫正義氏が率いるソフトバンクグループは近年、ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)を通じた投資・出資に力を入れ、医療やAI(人工知能)、交通、金融などの分野で有望な世界のスタートアップ企業に続々と出資してきた。

孫氏自身、ソフトバンクグループを「投資会社」と位置付け、自社の真価は「株主価値」で問われるべきだと過去の決算発表会の場で何度も強調してきた。つまり、投資先企業の時価総額が高くなればその企業に出資しているソフトバンクグループの価値も高まる、という理屈だ。

孫氏による中国のアリババ集団への投資は、ソフトバンクにおける出資の成功例の一つとして挙げられる。2020年2月時点でソフトバンクグループの保有株主価値は約31兆円に上り、そのうち約16兆円はアリババ株が占めている。アリババの成功はソフトバンクグループの成功にもつながっているわけだ。

逆に、投資先企業の経営不振や破綻はソフトバンクグループの評価を下げてしまう。シェアオフィス「WeWork(ウィーワーク)」を展開するWe Company(ウィーカンパニー)の経営不振によってソフトバンクグループが大きな打撃を受けたことは、皆が知るところだ。

ソフトバンクが筆頭株主の「ワンウェブ」が破綻

企業としてこのような性質を有するソフトバンクグループであるだけに、新型コロナウイルスの感染拡大によって世界経済が大恐慌級にダメージを受けているいまの状況は、深刻な事態だ。

いま世界では同時株安が起きており、ほとんどの企業の株価は下落局面に入っている。それはソフトバンクグループの投資先企業も例外ではない。孫氏が強調していたソフトバンクグループの「株主価値」はいま急速に落ちており、それに呼応するようにソフトバンクグループの自社の株価も一時期より低くなっている。

その状況の中で入ってきたニュースが、ソフトバンクグループが筆頭株主となっている衛星通信スタートアップの経営破綻だ。経営破綻したスタートアップはイギリスのワンウェブ社で、新型コロナウイルスによる市況の悪化で資金調達が難しくなったことが経営破綻の理由の一つだとされている。

ソフトバンクグループはワンウェブに計19億ドル(約2,000億円)を投資しているだけに、ソフトバンクグループの株主にとっての衝撃も大きかった。ワンウェブの経営破綻のニュースにより、ソフトバンクグループの株価は前営業日比で一時11%安まで落ち込んだ。

孫氏が打った打開策「保有資産の売却・現金化」

新型コロナウイルスの感染拡大によって、ソフトバンクグループも打撃を受けていることが分かっていただけたと思う。ただこうした状況の中でも、孫氏が厳しい局面を乗り切る策を打ち出してくると期待している株主は少なくないはずだ。

ソフトバンクグループの2019年3月期決算では営業利益が2兆円を超え、トヨタに迫る規模までになった。米ビジネス誌は孫氏を「シリコンバレー最強の男」と形容したこともある。孫氏の凄さは日本だけに留まらず、すでに世界を轟かすまでになっている。

そんな孫氏が今回の新型コロナウイルスの感染拡大下においてとった措置は、保有資産の売却・現金化だった。3月23日にこの措置の決定を発表し、自社株買いや負債の削減などによって株式マーケットにおける自社の評価を高めようと試みた。実際、その後は自社の株価が回復している。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大の終息時期はまだまだ不透明だ。終わりが見えない現在の状況が続けば、ワンウェブに続く投資先企業の経営破綻は十分にあり得る話だ。もし複数社が次々倒産する事態になれば、もはや自社株買いや負債の軽減では耐えきれないダメージを受ける可能性もある。

ソフトバンクグループの未来は?

このような状況に陥ったからと言って、ソフトバンクグループの未来がお先真っ暗というわけではない。ソフトバンクグループの投資先はいずれも有望市場でビジネスを展開しており、成長性は十分にある。

孫氏がインドネシアの首都移転計画に投資する予定であることも、株主にとっては楽しみな話題だ。巨大プロジェクトとも言える首都移転の際に、ソフトバンクグループがスマートシティ作りでビジネス展開できれば、大きな成果につながるはずだ。

今後、しばらくは孫氏にとって厳しい状況が続くが、それはほかの経営者にとっても同じである。しかし、孫氏であればこのピンチをチャンスに変える策もすでに練っているはずだ…とも期待させる。(提供:THE OWNER

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)