2か月で77.8万人失業の可能性。米国比で圧倒的に少ない医療関連対策。

影響
(画像=PIXTA)

要旨

● 政府は来月6日までの緊急事態宣言について対象地域は全国としたままで一か月程度延長する方針を固めた。すでに特定警戒となっている13都府県の不要不急消費がさらに一か月止まり、特定警戒以外の不要不急消費がさらに一か月間半減したと仮定すると、通常に比べて最大▲17.8兆円(既存▲8.4兆円+延長分▲9.4兆円)の家計消費が減ることを通じて、GDPベースでは通常に比べて最大▲15.2兆円(既存▲7.2兆円+延長▲8.0兆円)、年間GDP比でトータル▲2.7%の損失が生じ、77.8万人(既存36.8万人+延長分41.0万人)の失業者が発生する計算。

● 米国で成立した大型経済対策法案と日本の対策を比較すれば、緊急性に欠ける項目が含まれていることには注意が必要。「次の段階としての官民を挙げた経済活動の回復」として1.8 兆円が配分されているが、こちらについては経済活動が再開しないと意味がない。「今後への備え」として新型コロナウィルス感染症対策予備費も1.5兆円計上されている。

● 緊急性の高い生活保障対策に絞れば、真水28.0兆円から緊急性の低い項目を除いた22.0兆円(GDP比4.1%)分が配分されていることになる。一方、米国の生活保障に近い項目を合わせるとGDP比3.9%と日本とそん色ない。ただし、生活保障と並んで最も重要な医療関連支出の規模が米国ではGDP比1.5%も組み込まれているのに対し、日本では「感染拡大防止・医療供体制整備・治療薬開発」としてGDP比0.3%分しか配分されていない。

● 1年間で失業者が110万人以上増加したリーマンショック時の雇用対策には、「雇用調整助成金や中小企業緊急雇用安定助成金」(0.6兆円)以外にも「緊急人材育成・就業支援基金」(0.7兆円)や「ふるさと雇用再生特別交付金」(0.25兆円)「緊急雇用創出事業」(0.45兆円)等、雇用の下支えだけでなく、新たな雇用の創出も図られた。失業増に伴う経済の悪化を最小限に食い止めるためにも、政府は迅速で大胆な医療機能強化と雇用創出に対する追加の対策が求められる。

緊急事態宣言延長に伴う経済へのダメージ

政府は来月6日までの緊急事態宣言について対象地域は全国としたままで一か月程度延長する方針を固めたようだ。新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言は、外出制限や交通規制に対して強制力がなく、海外で行われているロックダウンを実施することにはならないものの、既に全国に対して緊急事態宣言が打ち出されていた中での延長になるため、更なる経済活動への影響が強まることは確実だろう。

実際、緊急事態宣言発動に伴う外出自粛強化により、最も影響を受けているのが個人消費である。特に、2019年の家計調査(全世帯)を基に、外出自粛強化で大きく支出が減る費目を抽出すると、外食、設備修繕・維持、家具・家事用品、被服及び履物、交通、教養娯楽、その他の消費支出となり、支出全体の約55%を占める。

緊急事態宣言1 カ月延長の影響
(画像=第一生命経済研究所)

そこで、すでに特定警戒となっている13都府県の不要不急消費がさらに一か月止まり、特定警戒以外の不要不急消費がさらに一か月間半減したと仮定すると、通常に比べて最大▲17.8兆円(既存▲8.4兆円+延長分▲9.4兆円)の家計消費が減ることを通じて、GDPベースでは通常に比べて最大▲15.2兆円(既存▲7.2兆円+延長▲8.0兆円)となり、年間GDP比でトータル▲2.7%の損失が生じることになる。また、近年のGDPと失業者数との関係に基づけば、この損失により77.8万人(既存36.8万人+延長分41.0万人)の失業者が発生する計算になる。

緊急事態宣言1 カ月延長の影響
(画像=第一生命経済研究所)

日米の緊急経済対策比較

こうした中、新型コロナウィルス感染拡大に伴う緊急経済対策を盛り込んだ総額約25.7兆円の今年度補正予算案は本日の参院本会議で成立する見通しとなった。当初決定した生活困窮者世帯や子育て世帯への臨時特別給付金が全国民一律10万円給付となること等により、経済対策の規模が真水で約8.9兆円拡大することになった。

政府の打ち出しに基づけば、事業規模や財政支出の規模で見ると117兆円や48兆円とかなり大きな額となる。しかし、これは昨年度補正予算の未執行分も含まれており、今回の対策に絞れば事業規模と財政支出の規模はそれぞれ95.2兆円、38.1兆円にとどまる。また、米国で成立した大型経済対策法案と比較すれば、緊急性に欠ける項目が含まれていることには注意が必要だ。

事実、「次の段階としての官民を挙げた経済活動の回復」として1.8兆円が配分されているが、こちらについては経済活動が再開しないと意味がない。また、「今後への備え」として新型コロナウィルス感染症対策予備費も計上されていることには注意が必要だ。

このため、経済対策の全容は予備費により不確定な部分があるが、生活保障効果に関しては、給付金や税制優遇、補助金の対象分野をみればある程度目星を付けることができる。各省庁の予算資料等によれば、日本では「雇用の維持と事業の継続」の22.0兆円の部分が該当し、ここに雇用調整助成金や中小・小規模事業者等に対する資金繰り対策・給付金、世帯への給付金などが含まれる。従って、緊急性の高い生活保障対策に絞れば、真水28.0兆円から緊急性の低い項目を除いた22.0兆円(GDP比4.1%)分が配分されていることになる。

緊急事態宣言1 カ月延長の影響
(画像=第一生命経済研究所)

一方、米国で成立した大型経済対策法案に基づけば、生活保障に近い項目は「家計向け現金給付」「失業保険給付拡充」「企業向け税制優遇」「航空産業向け補助金」となる。そして、これらを合わせると8,720億ドルとなり、GDP比3.9%ということで日本とそん色ない。

ただし、生活保障関連支出のGDP比が上回っているというだけで日本の経済対策が劣っていないという結論にはならない。なぜなら、この状況下で生活保障と並んで最も重要な医療関連支出の規模が圧倒的に異なるためである。というのも、米国ではGDP比1.5%もの医療関連支出が組み込まれているのに対し、日本では「感染拡大防止・医療供体制整備・治療薬開発」としてGDP比0.3%分しか配分されていないためである。

求められる医療機能強化と雇用創出

こうした中、今回の日本の緊急経済対策を見ると、「強靭な経済構造の構築」として「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業補助金」や「GIGAスクール構想の加速による学びの保障」といった対策も組み込まれている。

つまり、足元の感染拡大の状況を受けて経済構造の変化を余儀なくされるという面で評価すれば、あくまで予想の域を超えないが、リモート活動の拡大等により人の移動が元に戻ることがなければ、人の移動に伴う労働需要も元に戻らない可能性があり、雇用調整助成金による雇用の維持だけでは失業者を支えきれない可能性がある。

なお、1年間で失業者が110万人以上増加したリーマンショック時の雇用対策には、「雇用調整助成金や中小企業緊急雇用安定助成金」(0.6兆円)以外にも「緊急人材育成・就業支援基金」(0.7兆円)や「ふるさと雇用再生特別交付金」(0.25兆円)「緊急雇用創出事業」(0.45兆円)等、雇用の下支えだけでなく、新たな雇用の創出も図られた。したがって、失業増に伴う経済の悪化を最小限に食い止めるためにも、政府は迅速で大胆な医療機能強化と雇用創出に対する追加の対策が求められるといえよう。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 永濱 利廣