会社から役員に賃金を支給する際には、「役員報酬・配当金」のいずれかの手段を選べます。そこで今回は節税の観点から、役員報酬・配当金の違いを比較しました。税金や社会保険料を少しでも抑えたい経営者は、これを機に賃金の支給方法を見直してみましょう。

役員報酬・配当金の税務上の違いとは?

給料
(画像=freeangle / PIXTA)

一般的な中小企業の場合、役員への毎月の賃金は「役員報酬」として支払われるケースが一般的です。しかし、同族会社のように役員と株主が同一である場合は、利益の一部を株主に還元する「配当金」という形でも賃金分を支給できます。

では、この役員報酬と配当金には、具体的にどのような違いがあるのでしょうか。まずは税務における違いなどを、以下で簡単に見ていきましょう。

主な違い 役員報酬 配当金
損金としての扱い 損金算入可 損金算入不可
支給金額などの自由度 金額の変更は、原則として年に1回 会社に剰余金がないと、そもそも支給できない
所得税・住民税 給与所得控除が適用される 配当控除が適用される
社会保険料 月額報酬に応じた保険料が発生 発生しない

配当金に適用される「配当控除」とは、法人・個人の2重課税を避ける目的で施行された制度のこと。所得税では配当金の最大10%、住民税では配当金の最大2.8%が課税所得から控除されます。

役員報酬と配当金はどっちがお得?3つの観点から比較

上記では役員報酬・配当金の違いを紹介しましたが、役員への賃金は結局どちらで支払うほうがお得になるのでしょうか。その点を明らかにするために、以下では3つの観点で役員報酬・配当金を比較しました。

1.法人税の比較

法人税に関しては、損金算入できる役員報酬が基本的に有利です。ただし、当期の利益が極端に少ない場合は、配当金のほうが節税につながる可能性があります。

たとえば、法人税は所得金額に対して課せられるので、赤字経営の企業は法人税が発生しません。つまり、赤字経営の企業が役員報酬を損金算入しても、結果的に法人税の金額には変化が生じないため、配当が可能であれば個人側で控除を受けられる配当金のほうが得になると考えられます。

●2.社会保険料の比較

自治体や標準報酬月額によって多少上下しますが、社会保険料の料率は約28.0%です。では以下の3つのモデルケースについて、法人・個人が負担する大まかな社会保険料を見ていきましょう。

役員報酬 配当金 社会保険料(法人+個人)
【ケース1】 1,000万円 約250万円
【ケース2】 1,000万円 0円
【ケース3】 500万円 500万円 約140万円

(※上記はいずれも年間の金額)

前述の通り、配当金には社会保険料が発生しないため、配当金を増やすほど保険料を抑えられることが分かります。

3.所得税と住民税の比較

経営者個人に課せられる所得税と住民税は、課税所得から算出できます。課税所得にはさまざまな控除が適用されますが、以下では「基礎控除・社会保険料控除・給与所得控除・配当金控除」の4つを適用した場合の税額を見ていきます。

役員報酬 配当金 所得税 住民税
【ケース1】 1,000万円 821,300円 605,100円
【ケース2】 1,000万円 652,010円 660,700円
【ケース3】 500万円 500万円 553,350円 651,400円

所得税・住民税については、役員報酬と配当金をわけて支給する【ケース3】が最も有利な結果となりました。

実は一律の答えはない…節税のためには綿密なシミュレーションが必要

今回のモデルケースに関して言えば、個人に発生する税金・社会保険料を抑えながら、かつ役員報酬を損金算入できる【ケース3】が最も得なように見えます。ただし、役員報酬・配当金の額を決める際には、以下の点も意識しなければなりません。

・法人税(法人利益)によって結果は大きく変わってくる
・社会保険料には上限金額が設けられている
・所得税は累進課税であるため、課税所得によって結果に変化が生じる

たとえば、収入が一定金額を超えると社会保険料の負担率は固定となるため、役員報酬として支払ったほうが得になるケースもあります。つまり、「役員報酬と配当金はどちらが得か?」という問いに対して、一律の答えはありません。

少しでも節税につながる形で賃金を支給したいのであれば、綿密なシミュレーションが必要です。本記事のように複数の観点から結果を比較し、役員報酬・配当金の最適なバランスを見極めていきましょう。

専門家への相談も選択肢のひとつ

役員報酬と配当金に関して、それぞれ最適な金額を設定することは簡単ではありません。人によってはほかにも控除が適用されますし、さまざまなパターンでシチュエーションをする必要があるので、ある程度の時間・手間がかかることは覚悟するべきです。

どうしても比較が難しい場合は、顧問税理士などの専門家に相談する方法も検討しておきましょう。(提供:企業オーナーonline

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