5月末終了でも69.9万人失業、新たな生活様式で消費低迷長期化の可能性
要旨
● 政府は5月6日までだった緊急事態宣言について、対象地域は全国としたままで5月末まで25日間延長することになった。
● すでに特定警戒だった13都府県の不要不急消費がさらに25日間止まり、特定警戒以外の不要不急消費が25日間半減したと仮定すると、通常に比べて最大▲16.0兆円(既存▲8.4兆円+延長分▲7.6兆円)の家計消費が減ることを通じて、GDPベースでは通常に比べて最大▲13.7兆円(既存▲7.2兆円+延長▲6.5兆円)となり、年間GDP比でトータル▲2.5%の損失が生じることになる。また、近年のGDPと失業者数との関係に基づけば、この損失により69.9万人(既存36.8万人+延長分33.1万人)の失業者が発生する計算になる。
● 政府の専門家会議では、新型コロナウィルスの感染拡大をめぐり、長丁場の対応を前提とした「新たな生活様式」が提言された。このため、新型コロナウィルスの影響が長期化すれば、先の「新たな生活様式」が定着し、新型コロナウィルスが収束しても景気や消費の正常化が遅れるリスクには注意が必要。「新たな生活様式」が定着すれば、消費の構造変化は緊急経済対策で解決できるものではなく、結局は小売りの業態間における優勝劣敗の進展は不可避。
● 過去の経験則から個人消費全体が元のトレンドに戻るまでの時期を展望すれば、リーマンショック後が2年、東日本大震災後が1年、2014年4月の消費増税後が3年かかっている。今回は新型コロナウィルスの終息時期次第であるが、治療薬やワクチンの開発に時間がかることになれば、2014年4月消費増税後の3年程度を想定しておく必要がありそう。
緊急事態宣言延長に伴う経済へのダメージ
政府は5月6日までだった緊急事態宣言について、対象地域は全国としたままで5月末まで25日間延長することを決めた。新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言は、外出制限や交通規制に対して強制力がなく、海外で行われているロックダウンを実施することにはならないものの、既に全国に対して緊急事態宣言が打ち出されていた中での延長になるため、更なる経済活動への影響が強まることは確実だろう。
実際、緊急事態宣言発動に伴う外出自粛強化により、最も影響を受けているのが個人消費である。特に、2019年の家計調査(全世帯)を基に、外出自粛強化で大きく支出が減る費目を抽出すると、外食、設備修繕・維持、家具・家事用品、被服及び履物、交通、教養娯楽、その他の消費支出となり、支出全体の約55%を占める。
そこで、すでに特定警戒となっている13都府県の不要不急消費がさらに25日間止まり、特定警戒以外の不要不急消費が25日間半減したと仮定すると、通常に比べて最大▲16.0兆円(既存▲8.4兆円+延長分▲7.6兆円)の家計消費が減ることを通じて、GDPベースでは通常に比べて最大▲13.7兆円(既存▲7.2兆円+延長▲6.5兆円)となり、年間GDP比でトータル▲2.5%の損失が生じることになる。また、近年のGDPと失業者数との関係に基づけば、この損失により69.9万人(既存36.8万人+延長分33.1万人)の失業者が発生する計算になる。
「新たな生活様式」の影響
こうした中、政府の専門家会議では、新型コロナウィルスの感染拡大をめぐり、長丁場の対応を前提とした「新たな生活様式」が提言された。具体的には、①「3つの密」を徹底的に避ける、②手洗いや人と人との距離の確保など基本的な感染対策を続ける、③テレワーク、時差出勤、テレビ会議などにより接触機会を削減する、としている。
このため、今後は緊急事態宣言の行動制限緩和から終了、そして新型コロナウィルス終息に伴い、徐々に景気及び消費は回復に転じることが期待されるものの、新型コロナウィルスの影響が長期化すれば、先の「新たな生活様式」が定着し、景気や消費全体への影響が長期化するのみならず、新型コロナウィルスが収束しても景気や消費の正常化が遅れるリスクには注意が必要であろう。その場合は、小売りの業態間でも優勝劣敗が進展する可能性が高い。
そうした動きの緩和に向けて、政府は新型コロナウィルスの収束後に緊急経済対策による消費喚起策を実施することで、今回ダメージを受けた旅行・交通関連や百貨店、レジャー施設、飲食関連を中心に消費の回復を下支えする方針である。しかし、先の「新たな生活様式」が定着してしまえば、こうした構造変化は緊急経済対策で解決できるものではなく、結局は小売りの業態間における優勝劣敗の進展は不可避であろう。
特に「新たな生活様式」の「「3つの密」を徹底的に避ける」は、宅配・ネット通販の追い風となろう。また、「手洗いや人と人との距離の確保など基本的な感染対策を続ける」は、保健医療関連支出の増加を通じて「ドラッグストア」の追い風となろう。そして、「テレワーク、時差出勤、テレビ会議などにより接触機会を削減する」は、在宅勤務やリモート教育の推進などを背景に、食品スーパーやコンビニ業界に対する需要が増すのではないか。
なお、過去の経験則から個人消費全体が元のトレンドに戻るまでの時期を展望すれば、リーマンショック後が2年、東日本大震災後が1年、2014年4月の消費増税後が3年かかっている。したがって、今回は新型コロナウィルスの終息時期次第であるが、治療薬やワクチンの開発に時間がかることになれば、2014年4月消費増税後の3年程度を想定しておく必要がありそうだ。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 首席エコノミスト 永濱 利廣