緊急事態宣言の延長を受けて、政府は家賃補助を検討している。そうした政策判断で基礎になるのが、家賃市場のデータである。しかし、そうした統計は推定に頼らざるを得ない。筆者の推定では、2018年度の企業の不動産賃料(家賃)は約20兆円と見込まれる。資本金別には、資本金1億円未満が45%程度で、そこに従業員数の約2/3が集中している。家賃補助を効果的に行うことが、雇用悪化に歯止めをかけることになる。

家賃
(画像=PIXTA)

不動産賃料はトータル年間20兆円

政府が、5月6日で終了する期限だった緊急事態宣言を5月31日まで延長した。これによって追加的な企業支援が必要になってくるはずだ。特に、休業要請を受け入れてきたサービス業などは、もう1か月の休業によって経営が厳しくなる。家賃補助は、売上が入ってこなくなった企業の固定費負担を援助して、企業が破綻しないことを意図する政策対応である。

一体どのくらいの家賃補助が必要になるかは、家賃が全体でどのくらいになるかという統計データが基礎になるだろう。しかし、統計データでは、それを明確に示したものが見当たらない。そこで、次善の策として、その金額を推定してみた。財務省「法人企業統計年報」(2018年度)では、動産・不動産賃料が28.4兆円(金融保険業を含む全産業)とある。このデータは、動産(機械・装置のリース料)を含んでいる。そこで、総務省・経済産業省の「経済センサス」(2016年)を使って、事業収入別に按分してみると、不動産賃料は全体の72.2%、動産賃料は27.8%であった。それを使って、不動産賃料だけを計算すると、20.5兆円(約20兆円)であった。

今、政府が中小・零細企業を念頭に置き、家賃補助を検討している。様々な案があり、賃料を減免したオーナーの減免額の8割を補助するとか、金融支援を通じて賃料負担をカバーする、あるいは家賃の1/2または2/3を補助するというものもある。期間は、年内など、こちらも様々である。

もしも、賃料が支払えなくなる企業が増えると、賃料が得られなくなった不動産価格が下がることになりかねない。つまり、負担する企業側だけではなく、不動産市況の悪化につながることが、コロナ危機収束後の構造不況として残るという懸念になる。従って、そうした不況の連鎖を食い止める意味でも、家賃補助の意義は大きいとみられる。

規模別・業種別の賃料

次に、中小・零細企業を保護するとして、どのくらいの動産・不動産賃料が対象規模になるのだろうか。ここでは、ひとまず動産と不動産を分けずに、財務省「法人企業統計年報」(2018年度)からみていこう。

資本金1億円未満でみると、賃料支払い全体の45.5%(=13.6%+31.9%)がカバーされる。この範囲の中小・零細企業の賃料を補助すると、従業員数では全体の約2/3(65.1%)がカバーされる。家賃を補助することで、より広い範囲の雇用保護につながるということだ。また、「経済センサス」で法人格を持たない個人(自営業者)の動産・不動産賃料を参照すると、約1兆円であった。実額では、資本金1億円未満の中小・零細企業・自営業者では、約13.9兆円の動産・不動産賃料になると見込まれる(そのうち不動産賃料のみでは約10.1兆円)。

家賃補助の規模感
(画像=第一生命経済研究所)

さらに、これを業種別にみると、動産・不動産賃料の金額が最も多いのは、小売業5.1兆円である。次いで、運輸・郵便3.5兆円、製造3.5兆円となっている(図表2)。休業のダメージを受けやすいとみられる個別のサービス業種は、賃料の中でウエイトはそれほど大きくない。複数のサービスを合算すると、宿泊・飲食、生活関連・娯楽、医療・福祉、教育など個人向けサービスの範囲を合計すると、4.0兆円(ウエイト8.9%)と計算できる。卸小売と個人向けサービスの合計は11.3兆円、ウエイト25.4%と計算できる。休業の悪影響は、この範囲に集中しているとみられる。

家賃補助の規模感
(画像=第一生命経済研究所)

なお、緊急事態宣言では、13都道府県を特定警戒地域にして休業延長として、34県をそこから外した。その34県の中で5月6日で休業要請を止めた17県と、未定・要請していない5県を併せた22県では、経済規模(実質GDP)に対して21.5%と大きくない。

家賃補助の対象は広げられる

以上のように、家賃補助を企業(自営業を含まず)に対して行うのならば、その母数は年間20兆円となる。半年間ならば10兆円、3か月間ならば5兆円である。さらに、そこから資本金1億円以上を除くと、45.5%になる。そこから、業種ごとの支給対象を、卸小売と個人向けサービス業に絞ると、25.4%となる。

それらを掛けて、資本金1億円未満の卸小売・個人向けサービスの半年間の動産・不動産賃料は、0.6兆円(=10.1兆円×半年(50%)×45.5%×25.4%)になる。

さらに、ここに売上減少の条件が加わって対象が絞り込まれ、対象家賃の1/2ないし2/3にサポートは削られる。すると、財政的負担は本当に少ないということになる。

そう考えると、発想を変えて、売上減少の条件を前年比▲30~▲50%よりも緩和して、さらにサポート率も2/3以上にするという手もある。家賃補助を手厚くすると、そこで企業の経営破綻は未然に防止できて、雇用悪化を防ぐことができる。これは、後々で不動産市況を悪化させないための事前的対応にもなるだろう。コロナ危機後に懸念されるストック調整圧力を視野において、政府がフローの損失を手当てすることは、90年代の複合不況を繰り返さないためにも重要だと考えられる。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 熊野 英生