要旨

● 4月景気ウォッチャー調査のコメントを分析すると、「雇用」「調整」の組み合わせの出現頻度が大幅増加、リーマン危機後の最悪月を上回った。緊急事態宣言の発出を受け、雇用調整圧力が如実に強まったとみられる。製造業や建設業と関連の深い「受注」の周辺語に、「減少」・「急減」の出現頻度が増加。こちらはリーマン危機時を上回るまでには至っていないが、製造業や建設業にも着実に影響は広がっているとみられる。

● レストランや旅行代理店などの景況はすべて「悪い」(最低)との回答。「百貨店」や「衣料品専門店」も9割超が「悪い」回答だ。あくまで相対的にではあるが、「スーパー」「家電量販店」、「通信会社」や製造・建設業の「悪い」回答割合は低め。

● 先行き判断コメントには「倒産」の出現頻度が3月:1回→4月:41回に急増。緊急事態宣言の下で、企業倒産への懸念が明確に強まっている。

倒産
(画像=PIXTA)

リーマン危機を超える「雇用調整」のアラート

先月に引き続き、景気ウォッチャー調査の判断理由のコメントなどをもとに、4月の国内景気の状況を推し量ってみたい(※1)。まず、資料1では現状判断コメントに関する共起ネットワーク図を描いている。コメント内で頻出している語の組み合わせを抽出したものだ(資料1)。

内容をみていくと、3月に続いて「外出」・「自粛」、「イベント」・「中止」などのワードが並ぶ。「雇用」「調整」の出現頻度も多く、4月にさらに増加している。資料2では、コメント内で「雇用」の周囲にある語(共起ワード)を抽出し、調査月毎に比較している。「雇用」の周辺にある「調整」の出現頻度は2・3・4月と明確な増加傾向を辿っている。出現頻度はリーマン危機時にDI水準が最悪となった2008年12月を上回った。雇用調整圧力は急速に強まっているとみられる。

なお、4月に出現頻度が高まった象徴的なワードのひとつが「自動車」「メーカー」。欧米を含めた需要の減少を受けた工場の生産停止の影響が表れている。また、製造業や建設業の脈絡で頻出する「受注」の共起ワードを調べると、「減少」や「急減」が増加傾向を辿っている(資料3)。こちらは2008年12月を上回るまでには至っていないが、着実に影響が広がっていることが確認できる。

もうひとつの象徴的なワードが「自宅」「待機」。3月時点から「在宅」「勤務」は出現頻度上位の組み合わせとなっていたが、4月の緊急事態宣言の発出を受けて、在宅勤務の難しい職種にも外出自粛の影響が広がり、休業状態にある人が増えたことを反映している。

テキストマイニングで探る新型コロナの影響(4月版)
(画像=第一生命経済研究所)
(注)景気ウォッチャーのコメントを2語ごとに分類したときの語の組み合わせについて出現頻度を算出し、出現頻度が5以上の組み合わせをプロットしている
(出所)内閣府、R、Mecabより第一生命経済研究所が作成。
テキストマイニングで探る新型コロナの影響(4月版)
(画像=第一生命経済研究所)
(注)共起ワードは特定の単語と同時に使われる単語を指す。抽出には RMeCabパッケージのcollocate関数を利用、spanを10とした。
(出所)内閣府、R、Mecabより第一生命経済研究所が作成。
テキストマイニングで探る新型コロナの影響(4月版)
(画像=第一生命経済研究所)
(注)資料2に同じ。
(出所)内閣府、R、Mecabより第一生命経済研究所が作成。

レストラン、都市型ホテル、旅行代理店は100%が業況を「悪い」評価

景気ウォッチャー調査では、業種・職種毎に景況感の回答が公表されている。そこで、5段階の最低評価である「悪い」と回答した割合について、業種・職種毎に確認してみた。結果が資料4である。

「一般レストラン」「高級レストラン」や「都市型ホテル」「旅行代理店」は、回答のすべてが「悪い」となっている。飲食・旅行・宿泊関連業種に極めて深刻な打撃を与えていることが確認できる。その他上位には「百貨店」「タクシー運転手」「衣料品専門店」が並ぶ。外出自粛に伴って衣服などへの消費も大幅に減少しているようだ。そうした中で、「悪い」回答が3割にとどまっているのが「スーパー」であり、外食→内食への需要シフトが景況にプラスに働いている。その他、「家電量販店」、「通信会社」も悪化回答割合が低めだ。テレワークに伴う関連製品や通信環境整備の需要増が幾分支えになったようだ。また、「輸送用機械器具製造業」「電気機械器具製造業」「建設業」も低め。あくまで相対的にではあるが、休業要請が行われていない製造業や建設業への影響は消費関連セクターに比べれば抑えられているのだろう。この点は製造業や家電量販店がより大きな打撃を被ったリーマン危機時とは異なる点である。

テキストマイニングで探る新型コロナの影響(4月版)
(画像=第一生命経済研究所)
(注)[]内はサンプル数。サンプル数が10以上の業種に絞っている。回答肢は「良い」「やや良い」「どちらともいえない」「やや悪い」「悪い」の5つ。
(出所)内閣府より第一生命経済研究所が作成。

先行き判断コメント:「倒産」が3月:1回→4月:41回に急増

最後に、先行き判断コメントの共起ネットワーク図を描いた(資料5)。現状判断と同様にネガティブワードが並び、先行き懸念も強いままである。特に、今回浮かび上がった組み合わせが「倒産」→「増加」。先行き判断コメントにおける「倒産」の出現頻度を確認すると、3月の1回から4月は41回。緊急事態宣言の発出を受け、経済影響の深刻度合いは大きく高まっている。

テキストマイニングで探る新型コロナの影響(4月版)
(画像=第一生命経済研究所)
(注)景気ウォッチャーのコメントを2語ごとに分類したときの語の組み合わせについて出現頻度を算出し、出現頻度が5以上の組み合わせをプロットしている
(出所)内閣府、R、Mecabより第一生命経済研究所が作成。

(※1) 3月の同調査を元にしたレポートは、Economic Trends「テキストマイニングで探る新型コロナの影響(3月版)」(http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/macro/2020/hoshi200413.pdf )。


第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
副主任エコノミスト 星野 卓也