結果の概要:失業保険申請件数が急増

英国雇用関連統計
(画像=PIXTA)

5月19日、英国国家統計局(ONS)は雇用関連統計を公表し、結果は以下の通りとなった。

【4月】
失業保険申請件数(1)は85.65万件増の209.66万件、前月の124.01万件から急増した(図表1)。
・申請件数の雇用者数に対する割合は5.8%となり、前月(同3.5%)から急増した。

【3月(1-3月の3か月平均)】
・失業率は3.9%で前月(4.0%)から微減し、市場予想(2)(4.3%)を下回った(図表2)。
・就業者は3314.4万人で3か月前の3293.4万人から21.0万人の増加となった。
 増加数は前月(+17.2万人)から減少したものの、市場予想(+3.0万人)は上回った。
・週平均賃金は、前年同期比+2.4%で前月(+2.8%)から減速、市場予想(+2.7%)も下回った。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(1)求職者手当(JSA:Jobseeker's Allowance)、国民保険給付(National Insurance credits)を受けている者に加えて、主に失業理由でユニバーサルクレジットを受給している者の推計数の合算。なお、ユニバーサルクレジットはJSAより幅広い求職手当てであり、失業者数を示す統計としては過大評価している可能性がある。このため、ONSは失業保険等申請件数について公式統計とはしておらず実験統計という位置付けで公表している。ただし、公表日の前月のデータを入手できるため、速報性の高さという利点がある。別途、雇用年金省(DWS)がユニバーサルクレジットの新規申請者数を公表しており3月12日以降の4週間で154.7万件だった。
(2) bloomberg集計の中央値。以下の予想値も同様。

結果の詳細:4月に入り急速に悪化

4月の失業保険申請件数は急増となった。申請者数の割合は5.6%まで一気に上昇し、金融危機時のピーク時に記録した4.9%も超えた。5月19日にONSが公表した雇用関連指標の多くは3月のデータだが、求人数および給与所得者数は4月のデータまで公表しているので、まず、それらを確認する(3)。

1-3月の平均求人数(図表3)は63.7万件、3か月前との差は▲17.0万件と急減した。3か月平均データであることを考慮すれば、4月単月ではかなりの急減速となったと見られる(4)。産業別に見ると、製造業が▲1.3万件、サービス業が▲15.1万件、その他産業が▲0.6万件となり、特にサービス業で落ち込みが激しい(5)。

給与所得者のデータでは4月の給与所得者は2855.8万人で前月差▲45.7万人となった(図表4)。3月でも▲1.3万人と若干減少していたが、4月に一気に雇用者が減った。雇用維持制度により一時帰休している従業員は給与所得者としてカウントされるため、雇用維持制度の恩恵を受けられなかった人が一定いると見られる。また、月あたり給与額(中間値)も前年同月比▲0.9%と大きく落ち込み、給与水準も急速に低下している。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

続いて3月までのデータを確認する。雇用者数関係では、失業率(前掲図表2)が3.9%、就業者数が21.0万人増で、労働参加率は64.5%(前期64.4%)となり、いずれも改善した。

賃金関係(図表5)では、1-3月の平均賃金は前年同期比+2.4%(実質は+0.7%)となり、弱含んでいる状況が続いている。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

また、労働時間は31.4時間(前年同期差▲0.8時間)、フルタイム労働者で36.5時間(同▲1.0時間)となり、こちらは大きく落ち込んでいる。

3月23日以降のロックダウン(都市封鎖)の影響は3月の雇用者数データでは明確に確認できないが、労働時間データでは顕在化しはじめていたことが分かる(6)。

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(3)給与所得者データについては歳入関税庁(HRMC)の源泉徴収情報を利用した実験統計の位置付け。直近データは利用可能な情報の90%ほどのデータを集計して算出された値。求人数は4月3日時点の調査。
(4)未季節調整の原系列では、4月単月の求人数は35.1万件となり、3月75.0万件からほぼ半減した。
(5)サービス業の中では飲食・宿泊が▲3.2万件、卸・小売り(自動車販売含む)が▲3.1万件と落ち込みが大きかった。
(6)OLSは調査の週次結果(実験統計)も公表しており、これによると、週あたり労働時間が3月の後半に31.6(11週)→29.7(12週)→24.8時間(13週)と大きく減り、経済的な理由で労働時間が減っている(同じ時期には一時的な離職者も増えている)。


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高山武士(たかやま たけし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員

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