認知症や障害などでサポートが必要な人が持つ賃貸物件を管理する方法として、家族信託が注目されています。所有者が家族などの近しい人に運用を委託し、所有者名義もその人に変更するといったものです。ただ収益は元の所有者が受け取るという契約になります。契約関係が少し複雑なので、税金の取り扱いについて確認しておきましょう。

委託者と受益者が同一人物なら信託契約時に贈与税はかからない

相続
(画像=Africa Studio/Shutterstock.com)

家族信託を利用する場合の関係は以下の通りとなります。
・委託者:賃貸物件の所有者
・受託者:委託者のもつ賃貸物件の管理運用を託される人(今回は家族=子どもや配偶者)
・受益者:賃貸物件の家賃収入を受け取る人

子どもや配偶者(受託者)などに賃貸物件を名義変更し、収益は元の所有者(委託者)が受け取る家族信託の場合、契約時に贈与税はかかりません。なぜなら相続税法上、信託契約においては受益者が贈与税を負担することになっているからです。贈与者と贈与を受ける人が同一人物のため、財産の移転があったとはいえません。

ただし、委託者と受益者が別の人であれば、財産の移転とみなされ受益者に贈与税がかかります。例えば受託者が子、受益者が孫という関係であれば、孫が課税されます。

信託契約時に不動産取得税はかからないが登録免許税はかかる

売買や贈与などにおける不動産の名義変更では、不動産取得税と登録免許税が発生します。信託契約によって委託者から受託者に名義変更する際には、不動産取得税は課税されないことが地方税法第73条の7の3項で定められているのです。不動産の信託に伴う登記では、0.4%の登録免許税を納める必要があります。ただし土地に限っては2021年3月31日までの期限付きで0.3%です。

これは信託財産であることを登記するためにかかるもので、所有権の移転については非課税です。

受益者には不動産所得税が発生する

賃貸物件の家族信託では、家賃収入を最終的に受益者が受け取り、所得税の計算の際には不動産所得として処理します。なぜなら所得税法上、信託契約による所得は委託者が自分で運用した場合に発生する所得と同様に分類されるからです。もし委託しているのが株式であれば配当所得、預金であれば利子所得になります。

注意したいのは損益通算です。信託契約で運用している不動産が赤字になった場合、その損失を他の不動産所得や事業所得などと相殺することはできません。

売却したときの譲渡所得税は受益者に課税される

家族信託で不動産を運用している中で、一部の物件を売却することもあるでしょう。自宅や賃貸物件などを売って利益が出た場合、譲渡所得が発生します。信託契約の場合、譲渡所得税が課税されるのは受益者です。不動産所得のように、委託者本人が運用した場合と同様に考えます。受託者に対して信託報酬を支払っている場合は、譲渡所得から差し引くことができます。

受益者が亡くなったときや贈与したときは?

委託者兼受益者が亡くなった場合、相続人が受益権を相続し、相続税は信託財産を相続したときと同様に計算します。ローンや未払いの税金などの債務がある場合、相続する受益権から債務控除できます。また、相続税対策に大きな効果を発揮する「小規模宅地等の特例」が適用可能です。自宅の敷地が最大80%、賃貸物件の土地が50%軽減されるので、大幅な節税になります。

受益権は生前贈与することが可能です。贈与される人には、不動産を贈与されたときと同様に贈与税が発生します。この場合「夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」が適用可能です。20年以上連れ添った夫婦間で自宅を贈与する際、2,000万円が非課税となる制度です。「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」も適用できます。

ただし信託財産が複数戸ある場合、床面積の合計の2分の1以上が居住用でなければなりません。

税金関係は基本的に信託契約前と変わらない

委託者が収益を受けるのであれば、所得税に関する取り扱いは信託契約を結ぶ前と変わりません。相続や贈与なども同じように扱われます。受託者に贈与税がかかることもありません。ただし登記の際に0.4%の登録免許税がかかります。

不動産の名義変更が伴う家族信託は一見すると税金関係が複雑ですが、基本的に受益者は所有者と同じように扱われるものと思ってください。(提供:相続MEMO


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