世界の54.1%の国(GDPベース)が正常化に向かい始めている

地球
(画像=PIXTA)

要旨

● 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、IT企業から各国の位置情報データが公表されている。人の外出状況を示すデータが、経済動向の一つの物差しになると期待されている。

● Googleのモビリティデータのうち、128か国の「住宅にいる時間(平時対比の変化率)」のデータに対して、教師なし機械学習の一つである階層的クラスタリングを行い、国ごとにその「水準」と「変化の方向性」に関する分類を行った。

● 「住宅にいる時間の水準」は多くの国が中位グループの平時より「長い」に分類。「方向性」についてみると“減少”傾向にあるクラスターに分類されたのは54か国。これらの国のGDPを合算すると世界GDPの38.3%に上る。中国に関してはGoogleデータがないが、関連情報を踏まえると経済正常化に向かっているとみられ、これを加えると54.1%となる。

● 多くの国ではまだ住居滞在時間の水準が平時より長いままであるが、方向感としては徐々に減少している。世界経済は一旦4月に底をつけることがモビリティデータから示唆される。

モビリティデータを機械学習手法で分類

新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、多くの国が外出規制を敷いている。こうした中、IT企業が感染症対策に活用する観点から、各国・各地域の位置情報データを公開している。これが実体経済の動きを測る物差しの一つとして注目されている。本稿では、教師なし機械学習のひとつである階層的クラスタリングを用い、各国のモビリティデータを解析する。

分析には、Googleのデータを用い、データの欠損状況等を勘案して対象国は128か国とした。Googleのモビリティレポートでは、「小売・レクリエーション施設」「食料品店・薬局」「公園」「駅」「職場」「住居」にいる時間が、平時(1月3日~2月6日までの5週間の中央値)と何%異なっているかを公表している。今回の分析では、代表値として「住居にいる時間」を用いた。住居にいる時間が増えることは外出時間が減ることを示唆し、外出動向を包括的に把握できると考えたためだ。 このデータに対して、①住居にいる時間の「水準」(4月~5月上旬)、②住居にいる時間の「方向性」(4月下旬~5月上旬)に着目した2種類のクラスタリングを行った(詳細は「参考」を参照)。クラスタリングはデータをその動きの類似性に着目して分類する手法である。①について3分類、②について4分類、計12分類のグループに各国を分類した表が資料1である。

新型コロナ、外出が戻る国・戻らない国
(画像=第一生命経済研究所)

グローバル経済は一旦4月に底をつけることが示唆される

まず、住居にいる時間の「水準」に着目したグルーピングをみると、多くの国が中位グループの「長い」に分類されており、4・5月に多くの国で新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出規制等が影響したことが明らかになる。また感染が急速に広がるシンガポールや厳しい外出規制を敷くフィリピンなどは高位グループの「特に長い」に分類、早期に感染を食い止めた韓国や、厳格な外出規制を敷かなかったスウェーデンや日本は低位グループの「やや長い」に分類された。

次に住居にいる時間の「方向性」に着目した結果をみると、「増加」が2か国、「横這い~やや増加」が13か国、「横這い~やや減少」が59か国、「減少」が54か国となった。方向性に着目すると、外出減の度合いがさらに深刻になっている国は少数派であることも見えてきた。なお、日本は4月に緊急事態宣言が発令、その後に外出規制が徐々に強められてきた経緯から「増加」に分類されている。

方向感について「減少」に分類された国の世界GDPに対するシェアは38.3%になる(世界銀行公表値をベース、2018年)。Googleのデータには中国が含まれていないが、関連情報を踏まえれば中国は経済正常化に向けて着実に歩を進めていると考えられる。仮に中国が「減少」に分類されたとすれば、「減少」分類国の世界GDPシェアは54.1%となり5割を超える。モビリティデータからは、グローバル経済が4月に一旦底をつけることが示唆されよう。

(参考)クラスタリングに用いた手法について

一つ目のクラスタリングは公表されているに時系列クラスタリングを実施(4月1日以降のデータ)した。時系列データの距離計測にはDTW(動的時間伸縮法)、クラスター間の距離計測には最遠隣法を用いた。平日・祝祭日など曜日影響を除くために7日移動平均を利用している。結果、以下資料2の(a)のように、概ね「その水準」に応じた分類がなされた。続いて、直近の変化の方向性による分類を行うために、各国のデータについて基準時点(4月20日とした)からの変化幅を取り、クラスタリングを実施した(資料2(b))。それぞれのクラスタリング結果に基づいて、資料1の12分類に国を振り分けている。(提供:第一生命経済研究所

新型コロナ、外出が戻る国・戻らない国
(画像=第一生命経済研究所)
新型コロナ、外出が戻る国・戻らない国
(画像=第一生命経済研究所)

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
副主任エコノミスト 星野 卓也